銀世界...7

「やめろ…っ!!」

布団の上。俺の二倍はある長身が、のしかかる。
振り落とそうにも、体の上に跨がられ、片手だけで両腕をやすやすと押さえられてしまう。

酔っぱらっていても、力の差は歴然だ。
やっと動かせるようになってきていた右腕が、ねじり上げられずきんと痛んだ。

「……くそっ…はなせこの…!!」

帯を解かれ、着物を脱がされる。
裸の体に覆い被さる、蔵馬の体温。

「んん……!」

唇に吸い付かれ、すべりこんできた舌が口の中を動き回る。生温かいやわらかいものが、口の中を動き回る気持ち悪さときたらない。
噛みついてやろうとした瞬間、舌はすっと引かれ、首筋をつうっと舐める。

本物の女とは違う膨らみのない胸を、舌がざらりとすべる。
かり、と乳首を噛まれ、びくりとした。

「……あっつ!…ぁあ…」

首に胸に腹に。体中に吸い付かれる。強く、執拗に。痛いくらいに。
大きな手が胸に触れ脇腹をなぞり、下腹部にたどり着く。
むきだしになった、そこに。

嫌。嫌だ。
こんなことは、い、

「ああ!! うああ!!」

陰部に、他人の手が触れる。
まがい物の襞を開くように、指が動く。

「……っぐ、痛っ…う、あ…ぁっ!!」

硬い傷跡を押し広げ、その奥のやわらかい肉を揉むように。
痛くて痛くて、吐き気が込み上げる。

痛い。
そこに、触らないでくれ…

「痛いか?」

痛いに決まっている。
ふざけやがって。

黙って睨んだ俺に、蔵馬はにやりと笑う。

嫌な、やつ。
けれど、助けてくれやめてくれと乞うつもりは、俺は毛頭なかった。

こいつは俺に媚びろと言った。
誰が、そんなこと。

「生意気だな、お前は…」

懐から取り出した実を、蔵馬は指先で潰す。
水分をたっぷり含んだ丸い実。草のような、青いにおいが漂う。

「……っひ」

ねじれた襞に、何かが擦り込まれる。
冷たくぬるぬるとしたものをまとった蔵馬の指が、襞の中を何度も行き来する。

「……うあ!うぁ…っ、嫌…だ、やめ…」
「元は棹だった場所だ。気持ちいいだろう?」
「うっあ……っひ、あ!」
「そんなに緊張するな。力を抜いて楽しめばいい」

行き来が大きくなり、下腹部から尻までぬるぬると濡れている。
いつの間にか蔵馬の右手、親指が襞の中を擦り、中指は尻の奥を探っている。

「な、何、を…!やめろ…っ!!」

尻の穴の上を、円を描くように指が押す。
なにをして、こいつ…。

「あああっ!!」

ちゅぷ、と音を立て、蔵馬の指が、尻の中に入ってきた。

その感触。その異物感。
あり得ない場所に指を押し込まれ、挙げ句にその指は円を描くように中を掻き回しながら、どんどん奥へ入ってくる。

「っう、う、あ、ああ、何!……う、やあっ!!!!」

根元まで押し込まれた指。
ぬるりと抜かれたかと思ったら、勢いよくまたもや押し込まれる。

「ひあ!やっ…やめ…!! 痛…っい」

ぐいぐいと、割り込むように何かがまた入ってくる…。
もう一本、指が、増え…?

「んーーっん!っんうっ!!」
「男同士は、ここでするんだ」
「やめっ、やめろ!! 痛っ…う、このっ!! …んーーーーっ!! …っあ!?」

息が止まりそうになった。
背筋がぞくっとするような、体が痺れるような、それでいて力の抜けるような、その感覚。
両足が、びくっと震えた。

金色の瞳が、笑みに細くなる。

「……ぁ…っあ」
「いいものだろう?」

何を、言って。

「い、あ、っあ、ああっ!!??」

穴の中を探っていた指が折り曲げられ、大きく背が反った。

なんだ。
何、待っ、だめだ。なんだ!?

曲げられた指が、同じ場所ばかりを、突く。

「や、あ、あ、ああ!!」
「種なしでも出せるだろう?出してみろ」
「ひあっ!! うあ!!」

尻の穴を散々弄られ、どういうわけか、強い尿意がわき上がる。
まさか。こんなところで、出す、わけが。

「んあ!! ああ!んーーーっ!!」

親指で擦られていた襞が、どくっ、と脈を打ち、どろっと濡れる。
…漏らし……た?

「何を真っ赤になっている?」

にやりと笑った蔵馬の顔を、見ることができない。
人前で放尿するなんて、あり得ない。惨めで情けなくて、消えてしまいたかった。
なのに。

「ひぁあ!! あ、やめ、何して!! っうあ…」
「お前もしかして、小便漏らしたとか思ってるのか?」

蔵馬の舌が、そこを、襞を。
舐め…

「漏れたのは、小便じゃないぞ」
「あああっ!! 嫌だやめろよせっ!!」
「…いいから…大人しくしてろ…」

ぴちゃりと、すする音。
襞を開き、やわらかい肉を、硬い傷跡を、
蔵馬の舌が、汚れたそこを、ゆっくりと舐め回す。

「……ん……ふ、ぁ…ん…あ、あぁ…っ」

くちゅくちゅにちゃにちゃと、汚らしい音がする。
やわらかい肉を唇ではみ、硬い傷跡は舌先でなぞるように舐める。
そうしている間にも、尻の穴を弄る指は、少しも休まない。

信じられない行為に、ぶわっと体が熱くなり、頭がくらくらした。

「…気持ちいいだろう?」

襞の中に埋めたままの唇が、くぐもった言葉を紡ぐ。
かかる吐息にまで、体が跳ねる。

「よく…なっ、い…ないっ…!! ひあああ!!」

また、漏れた。
何か得体の知れない液体が、脈打つよじれた性器から、どろりと漏れる。

両足の震えが、激しくなる。
自分の体が、自分のものじゃないみたいだ。

「もうやめろっ!! 放せぇっ!!」

銀色の髪を引っぱってみたが、力が入らない。
なんで、こんな、ことに。

「んあ!!」

ずるっと、指が抜かれる。
奇妙な、喪失感。

ぱさりと、乾いた音がする。

「俺を見ろ。飛影」

知らず知らず閉じていた目を開けると、そこには白く逞しい、裸体。
広げられた足の間に、服を脱ぎ捨てた蔵馬がいた。

***
背に流れる、銀色の髪。
金色の瞳を縁取る睫毛は髪より少し濃い、銀色。
高い鼻、薄く形のいい唇。
整いすぎた顔の下には長い首、広い肩、厚い胸板。
逞しく、それでいて綺麗な筋肉のついた、手足。

長い腕がのばされ、大きな手が俺の両頬に触れる。

牢に閉じ込められていた俺は、氷女たちの裸体を見たことはなかった。
けれど、今目の前にあるものが氷女たち“雌”と違うことは、はっきりわかった。

“雄”がそこにいた。
“男”が、俺を見つめている。

「見ろよ。全部」

俺は視線を落とす。

銀色の毛の中に、肉の棒がそそり立っている。
初めて見た、本物の男の性器。

書物に書き添えられていた絵と同じものなのだろうに、まったく違うものに見えるほど大きい。
俺の片手ではつかめそうにもないくらい大きく、太い。

こんなに太く長いものが女の腹に入るのだろうかと、俺は空恐ろしくなる。こんなものを突き込まれては、腹が破けてしまいそうだ。
蔵馬の肌は真白いというのに、そこは赤黒く、所々に血管が浮き出ている。それがぴんと天を向く様は、まるで別の生き物がそこに付いているかのようで、気味が悪かった。

「触れ」

冗談じゃない。こんな気持ち悪いもの。
慌てて引っ込めようとした手を、蔵馬がつかむ。無理やり引っぱられ、先端をつかまされた。

熱く、硬い。
脈動が、手のひらに伝わる。

俺も…。
本当ならば、こんなものを持っていたはずだったのだろうか?

ぼんやりした隙に、両足をつかまれた。
蔵馬に向かって大きく足を開かされ、またもや尻の穴に指を入れられた。

「あっ、痛う…やめっ…!」

二本の指で、穴を広げるように開かれる。ぐちゅぐちゅ掻き回される。
痛みと嫌悪感に身をよじったが、逃げられない。

穴に、熱いものが押し当てられる。
ふわりと漂ったのは、甘ったるい香のにおい。

甘ったるい、香のにおい。
長い髪白い胸、女の甘ったるい声。

あの女たちの、甘ったるいにおい。

「やめ……!やめろーっ!!!!」

渾身の力を込めて、のしかかる男を振り払った。
尻の間にあった、熱いものが離れる。

無我夢中で、必死で、両手両足を振り回し、男から離れた。
右腕が猛烈に痛んだが、そんなことは今どうでもよかった。

「放せ!来るな!! そんなものを俺に入れるな!! 俺に触るなっ!!!!」

俺の足を押さえていた腕が、少しだけゆるむ。

「…そんなに、嫌か?」
「嫌だ!!!! 放せ放せ放せ!!!!」

酔っぱらっている男に、ついさっき何人もの女を抱いてきた男に、犯される。
こんなことは、絶対に嫌だ。

胸がむかつくこのにおい。
他のやつのにおいをたっぷり染み込ませたやつに、なんて。

ふと、重みが消えた。

「…嫌なら、無理強いはしないさ」
「……ぁ?」

あっさりと立ち上がった蔵馬は、布団の側に落ちていた着物を拾い上げ、さらりと羽織る。
裸のままの俺を見下ろす目は、怒っている風もなく、いつも通りのどこか人を食ったような笑みだ。

「別に、相手には不自由していないんでな」

お前のような子供を相手にしようだなんて、どうやら思ったより俺は酔っているらしいな。
今夜はもう寝るとするさ。

呆然としたままの俺の前で、きゅっと器用に帯を締め、蔵馬が襖に手をかけたその時。

「…蔵馬様」

襖の外から、控え目な声がする。
滅多に声を聞くこともない、あの召使いだ。

「蔵馬様、夜分に申し訳ありません」
「構わん。どうした」
「文でございます」

今までも、召使いたちが文や物品を蔵馬に運んでくるのは何度か見たことがある。
けれど、こんな夜更けに、文?

細く開けられた襖から、丁寧に折りたたまれた白い紙が差し入れられる。
紙の、その白さ。
雪のような、白い紙。

何かを思い出し、背筋がぞくりとした。

慌てて着物を羽織り、部屋を出ようとした俺を、蔵馬の声が止めた。

「待て、飛影」

召使いの渡した文に目を通し、蔵馬は眉をしかめた。
いぶかしげに俺を見る、金色の瞳。

「…氷河からの文だ。お前の帰還を望んでいる、とな」
前のページへ次のページへ