booby trap...4こいつはいつでも、夜の森の中にいるようなにおいがする。月の光に照らされた湖や草木や花の、冷たいにおい。 唇を重ねたまま、飛影はそんなことを考える。 トン、と肩を突かれ、前回は一人で眠ったベッドに、今度は二人で横たわる。飛影の首に巻かれた白い布は、いつの間にやら床に落とされていた。横たわる、といっても横になっているのは飛影だけで、蔵馬はその体をまたぎ、おおいかぶさるように細い首筋に顔を埋める。 「ん……」 首筋のあちこちに強く吸い付き、耳たぶを軽く噛む。 頬に、まぶたに落とされる唇。長い髪が触れるのがくすぐったくて、身をよじる。 「ん、あ」 温かな唇の感触に、飛影は戸惑いを隠せない。 オレは、こいつと…何をしている? 薄汚い裏切り者の、半妖の、この男と。 薄闇に、碧の瞳がとろりと輝き、飛影の戸惑いはその色にまた魅せられ、溶けてしまう。 「あっ、んう」 再び、唇が重なり合う。 自分の唇をこじ開け、ぬるりと侵入してきたものが相手の舌だと気付き、飛影はもがく。 「んう…ァ」 舌がからめとられ、くちゅりと音を立てる。 その間も、蔵馬の手は休まない。 慣れた手つきで邪魔なコートを脱がせ、白い肌をあらわにしていく。 以前、手当てをするために飛影の服を脱がせたし、体も見た。 出会ったあの日もこの肌の白さには驚いたが、二度目の今も、蔵馬は驚いてしまう。 まるで雪や氷の妖怪のような、色の白さだ。 そう、まるで…雪女や、氷女のように。 蔵馬の指先はその白い肌をなぞっていく。 やわらかみなど当然ない、白い胸。それを彩るように桃色の乳首を、指先で摘んだ。 「ア!蔵、やめ…」 「どうして?いい気持ちでしょう?」 「よくない!! やめっ…ん!」 蔵馬の右手。 親指と人さし指が、左の乳首をぐにぐにと痛いくらいの力でこねる。 「痛っ、あ!」 「ああ、痛かった?ごめんね…」 いかにも口先だけで蔵馬は謝り、今度は空いている右の乳首に唇を寄せる。 「何し、て…!やめろ!! ア!」 右手で左の乳首を、唇で右の乳首を愛撫し、左手は素早くベルトを外し、するりとズボンの中に潜り込んだ。 「うあ!!」 まだ、つかんだだけなのに。 大声を上げてのけ反った体を、蔵馬は不思議に思って見下ろす。 「あ!どこ、触って…!放せ!!」 「どこって…ここ?」 つかんだ指に力をこめると、小さな体は再びのけ反った。 「痛っ!やめろ!! 放せって言っ…!あう!」 強弱をつけ、巧みに指は動く。 袋を揉み、棹をしごき、先端をくすぐる。 「アッアッ、ひ、んん…」 ズボンを膝まで下ろされ、飛影の視界にも、蔵馬の指とそれが握るものが見えてしまう。 「あ……嫌、いや、だ…ン、ア…」 「十分硬くなってるけど?何が嫌、なんだか」 蔵馬は意地悪く言うと、尿道に指をねじ込むように、先端を強く刺激した。 「アアアアッ、ア」 「ほら。出していいよ」 「ああ、や、あ、ウアアアア…ッ!」 いつもの低く小さな声とは似ても似つかない甲高い声を上げて、飛影は蔵馬の手を濡らした。 温かく手を濡らす、白濁した液体。飛影の、種。 「あ、ふ、ああ……」 「早いね。…いつもそんな大声上げてるの?」 嘲笑うような質問に、飛影の頬がカッと赤くなる。 「うるさ…ぃ…放せ!もういいだろう!」 「もうって?自分だけ気持ちよくなって何言ってんの?」 「な…に?」 性交なら、どちらかの体に挿入するのは当然だ。 飛影でさえそれは分かっていたが、まさか、本当に蔵馬が自分をその対象として見ていたとは。 「ま、さか…貴様…」 「もっと足を広げて、飛影」 「……ぁ、嫌…だ…ア!」 力なくいやいやと首を振る飛影の足をぐいっと広げ、蔵馬はにっこりと笑う。 有無を言わさぬ、その笑み。 「大丈夫。久しぶりなんだろう?ちゃんと慣らしてあげるよ」 ***
プチン、と小さな白い実を蔵馬の指先が潰す。ぬるりと零れた果汁を指に絡め、白い尻の狭間にもぽたぽたと垂らす。 「ぅあ……」 「何、怖がってるの?初めてじゃあるまいし」 一層怒りを込めた赤い瞳は、蔵馬の指先が最奥の入口に触れた途端、揺らめいた。 よほど久しぶりなのだろうか?まあ、あまり経験豊富とも思えないしな。 蔵馬はそんなことを考えながら、円を描くように、入口を揉んでやる。 色と、欲と。 それが妖怪のほぼ全てだと言ってもいいのに、目の前の幼い妖怪はまだそれに溺れたことはないらしい。 窄まりはまるで初物のような、薄紅色だ。 「……ん、っふ」 執拗に揉まれ、入口が、ヒクンと小さく口を開ける。 その小さな入口が小さく開いたのを逃さず、蔵馬は指を一本、ぐっと第二関節まで押し込む。 「うあ!あ!…っぐ、痛っ」 「力を抜きなよ。そんなに緊張してちゃ痛いだけだ」 快楽を感じるよう、くちゅくちゅと、狭い入口を刺激し、指を根元まで入れ、拡げる。 体の中まで小さい、と蔵馬が苦笑するほど、中もまた狭かった。 「ほら、わかる?オレの指が君のお尻の中に入ってる…気持ちいいでしょう?」 「…うあ、あ、あ、よく、ない…!抜けっ!! 指を抜け!」 「ふうん。指じゃ嫌なんだ?」 「くら…?あ、よせ…!! やめ…!」 両足を抱え上げ、ぐっと尻を開き、蔵馬は入口に唇を付けた。 舌をねじこみ、温かい内部をねっとりと舐めてやる。 入口の筋肉は痙攣を起こしたようにビクンビクン動いていたが、蔵馬はそれに構わず奥へ奥へと舌を差し込む。 「うあっ!!ヤアアア!アアアッ…!!」 「え…?」 ぐうっと尻の肉が動き、ぱしゃ、と水音が立つ。 自分の髪に降り注いだ生暖かい液体が、ピンと天井を指した飛影のものから吹き出した液体だと気付いた瞬間、口が塞がっていなかったら蔵馬は笑い出していただろう。 尻に舌を入れられて、中を舐められて、それだけで二度目の射精? なんと感じやすい、うぶな体だろう。 ちゅぷんと舌を抜き、その体の持ち主の顔をじっと見下ろす。 「……あ…」 挿入もしていないうちに、舌であやされただけで達したことにさすがに羞恥を感じているらしく、飛影は真っ赤になり、両腕で顔を隠した。 「舌を入れられて、イッちゃったんだ?」 「違う…見、るな…見るな!!!」 「…恥ずかしいの?」 「うるさい!! もうやめろ!」 「前にしたの、結構前なんでしょ?」 その質問に、飛影が目を見開いた。 「だったら…なんだ?」 怒りと羞恥と…困惑? いったい、何に困惑している? 「別に、何も。このままがいい?うつぶせがいい?」 好みの体位を聞かれているとは思わず、目をぱちぱちさせる飛影に、蔵馬もさすがに溜め息をつく。 「そんなにご無沙汰だったの?」 「…うるさい!黙れ黙れ黙れ!! …あ、ん!」 膝が肩につくほど足を広げ、蔵馬は体重をかけて、おおいかぶさる。 「じゃ、取り合えず正常位といきましょうか、ね」 取り合えずも何もない、と蔵馬が知るのは五分後だ。 ***
入れただけなのに。蔵馬は驚いて、組み敷いた体を凝視した。 「ああ、あ、ウアアアアッ!!」 潤滑剤を使ったとは思えない程にきつく狭いそこは、嫌な音を立てて切れ、真っ赤な血を流した。 「おい…!飛影、力を抜け!」 「あ、ふ、あ、あ、あ、ああぁあ!!」 聞いていない。聞こえていない。 飛影は背骨が折れる程に体をのけ反らせ、苦鳴を上げた。 「ああ、あ、ウアアア!!」 飛影の視界に、火花が飛ぶ。 尻の穴に、男の陰茎が、いっぱいに、ぎゅうぎゅうに、入っている。 「うあぁ…っ」 苦しくて、苦しくて、息ができない。 内臓に、丸太をぶち込まれたみたいに、苦しい。 苦痛に顔を歪め、ひゅうひゅうと喘ぐように飛影は呼吸をする。 だめだ、だめだ。 痛い。苦しい。 初めてだ。 蔵馬の小馬鹿にしたような視線に言い出せなかったが、本当は、したことがなかった。 もちろん雄である以上孕む心配などないが、氷女の子供の本能が、無意識に性交を避けてきた。 飛影にとっては、生まれて初めての性交だった。 「ア、ア、ア、ア…!」 痛い。 これほど痛いものとは、思わなかった。 初めての挿入は想像以上に痛みがあり、あまりの苦しさに、歯ががちがちと鳴る。 「飛影、力を抜くんだ。出血がひどい…おい、飛影!」 「だめ、だ…あ、あ、あ、ひ、うあっ…痛っう…」 ここは出す場所であって、入れる場所ではない。 あまりの痛みに、冷や汗が噴き出し、吐き気が込み上げる。 だめだな、と蔵馬は小さく舌打ちをした。 飛影は少しも快感を感じてはいない。苦痛に真っ青になっている。これ以上無理やり押し込んだら、痛みのあまり嘔吐するか失神するかだろう。 まったく、いくらご無沙汰だからってこんなに狭い体が… …この体は…狭すぎ…る? 「……飛影…前にしたのは…いつ?」 青ざめる肌、小刻みに震える体。 「ねえ…いつ?」 「………久し、ぶり…じゃない」 「今さら絶倫ぶろうっての?無駄だよ」 「ちが…ぅ…した…ことは、ない……痛い…抜け…っ!」 赤い瞳を潤ませていた涙が、あっという間に雫となって、ベッドに落ちた。 |