booby trap...5

…初めて?

肉の交わりを知らない妖怪が、存在するなんて。
らしくもなく唖然とし、横たわる体を見下ろす。蔵馬を責めるかのように、白い足は幾筋もの赤い流れで汚れている。

「…ごめん、飛影」

初めてなら、あれだけの下準備ではだめだ。

ぐちゃ、と音を立てて抜いた陰茎は、真っ赤に染まっていた。
飛影はうめき、ベッドに突っ伏して、体を奮わせている。

出血は治まらず、白いシーツにぶわりと赤く、血の花が咲く。

「飛影…!飛影」

抱き起こそうとした蔵馬の腕を、飛影は力いっぱい振り払う。

「…満足か?」

忙しない呼吸のまま、痛みに潤んだ瞳のまま、唇を歪めて飛影は笑った。

「…わかっていて……やったんだろう?」
「それは違う…飛影…!」
「オレを…こうやって馬鹿にするために…貴様はオレを助けたんだな?」

いつもの頭の回転の早さはどこへやら、蔵馬は絶句し、飛影を見つめた。

そんなつもりではなかった。

確かに、手に入れて、抱くつもりではいた。
抱いて、鳴かせて、自分のものにするつもりだった。
自分が欲しいと望んだ者は、体も心も、簡単に手に入った。いつだってそうだった。
女も男も、うっとうしいほど執拗に、蔵馬に惚れ込んだ。

でも。

飛影の濡れた赤い瞳。
シーツを染める赤い血。
痛みのせいで一層白い肌。

「違うよ…オレは、君が」

欲しかったんだ。
初めて会った、あの日からずっと。

「…最初からずっと……オレは君が欲しかった」
***
最初からずっと、オレは君が欲しかった。

その言葉に、真っ直ぐ見つめる碧の瞳に、赤い瞳は困惑する。

意味が、わからない。
最初?出会ったあの日から、ずっと…?

「ふざけやがって…オレは…貴様なんぞ…」

欲しくない。
欲しくなかった。

吐き捨てるように言う飛影に、蔵馬が微笑む。

「欲しくなかった、ってことは、今は欲しいと思ってくれているの?」
「…都合のいい解釈だな」
「試したんだよ、オレ」
「何…?」

はだけたシャツから覗く包帯の巻かれた自分の腹部を指差し、蔵馬は再び笑う。

「試したんだよ。君がオレを殺すかどうか」

オレがいなくても、残りの四聖獣は倒せたはずだ。
オレは傷を負った。なかなかの深手をね。君にとっては裏切り者のオレを殺す、絶好のチャンスだっただろう?

「……な…違う…オレは…敵を倒すのに」
「頭数が多い方がいいって?君のオレへの怒りはそんなものだったんだ?」

それとも…

「オレは…君が好きだよ。君は?」

無理やり挿入され裂けた穴が、ズキンズキンと脈打つように痛む。
裸で、血で濡れたシーツの上で、飛影は混乱していた。

そうだ。あの時こいつを殺せた。けれど、そんなことは考えつかなかった。
霊界の裁き?足に嵌められた呪?
いや、それらを考えても、殺すことはできた、はず。以前の自分ならば、後先考えず殺していたはずだ。

「オレは……」

言葉が、続かない。
ふと、視線を上げる。

「あ…」

またもや、魅入られる。
艶やかな長い髪、碧の瞳。
その綺麗な碧は、先ほどまでの冷たく見下ろす色ではない。

飛影を見つめる、熱っぽく、真摯な眼差し。

だめだ。こいつの目を見ては、だめだ。
狐に化かされる。魅入られて、騙されてしまう…。

思わず手をのばし、絹のようななめらかな長い髪に、飛影は触れる。
そのまま頬に触れ、無言で碧の瞳を覗き込む。

「…オレ、うぬぼれてもいいみたいだね?」
「……貴様は…嫌なやつだ」

そうでもないよ、と蔵馬は笑う。

「痛くして、ごめん。もう一回、チャンスをくれる?」

初めてなのに、痛い思いだけで終わらしたくないんだ。
今度は…天国見させてあげる。

「ハッ!執行猶予中の罪人が…くそったれの半妖が、天国だと?」

思わず、飛影は吹き出す。

「…ずうずうしい、うぬぼれ野郎が」
「ま、うぬぼれかどうかは、終わった後に判断してよ…」

耳元で囁かれ、飛影はふるっと身を震わせた。
***
「ん……あ…」

ベッドの端に腰掛け、大きく広げられた足の間に、蔵馬は顔を埋める。

「あ、くら……」

飛影は座ったまま後ろ手でシーツをつかみ、天井を仰いでいる。
決して、下を見ないように、上だけを見ている。

「ぁ、あ、あ……」

下では、くちゅくちゅと湿った音を立て、どちらかといえば小さめのそれを、蔵馬が口で愛撫していた。
舌は左右の袋を口の中で転がし、根元から先端までをねっとりと舐め、蜜を滲ませる小さな穴に、きつく吸い付いた。

「うあ…」

ぎゅっと丸まった飛影のつま先が、震える太股が、限界が近いことを示している。
その震える太股を、蔵馬の両手がゆるゆると愛撫した。

「…蔵馬……もぅ、放せ……出る…っ」
「いいよ。このまま出して」
「…!? なにを…バカ…っ嫌、だ…!」
「いいから、このまま出すんだ」
「な、嫌、はな……あっあっ、ああん!!」

脈打って膨らんでいた先端に軽く歯を立てられ、飛影はあっけなく吐精した。

「ああ……ん…」

温かな液体を蔵馬はごくりと飲み込み、尿道に残った分まで搾るように、きゅっと吸った。

「アアァ!! ン!……この…変態!!」
「なんとでも。今度はうつ伏せになって…」

裸のまま四つん這いにされることに抵抗をみせた飛影だったが、三度目の射精後の体は力が入らず、軽々とひっくり返される。

「そう…膝をついて、足は広げたままでね…」

蔵馬手製の傷薬の軟膏は、無味無臭で透明だ。
それを舌先で掬い、白い尻の中心、まだ血を滲ませている穴に、蔵馬は口付けた。

「んんっ、あ、あ」

ぬるん、と軟膏を纏った舌が入ってくる。
裂けた傷に薬を塗り込みながら、舌は腸内を動き回る。即効性の傷薬は、裂けた傷口に薄い膜を作り、すぐに痛みを和らげ始めた。

「あ、あ、あ、嫌、やめ、やめろ!そん、な、こと…!!」

背後から、自分の尻をちゅぷちゅぷと舐められている音を聞くのは、羞恥以外の何者でもない。
しかし四つん這いになった腰を両手でがっちりとつかまれ、できることといえばシーツに爪を立てることくらいだ。

外を、中を、唾液が滴るほどに、執拗に舐められる。
やがて、刺激に耐えきれずにひくつく穴も、自らぬるりとした腸液を流す。
受け入れることを体が理解し、準備し始めた証拠だ。

「指を入れるからね…力を抜いて…」

指先が入口に触れた途端、飛影の体はこわばった。

「ん、っぐ…」
「ほら、また力が入ってる」

しょうがないな、と蔵馬は笑うと、足の間から手を差し入れ、萎えていたものを手で包み、やんわりと刺激してやる。

「あっあっ、き、さま……」

前に与えられた刺激で、後ろはヒクンと盛り上がり、口を開けた。
指にもたっぷり軟膏を絡め、蔵馬はゆっくりゆっくり、指を入れる。

「ああ……あん…」

甘い声が、飛影の喉から、ようやく漏れる。
指は二本に増やされ、できるだけ痛みを与えないよう、一定のリズムで、抜き差しされる。

ちゅぷん、くちゅり。

穴に差し込まれた指が出入りする音と、飛影の噛み殺しきれない甘い声。
部屋はしばしの間、それだけに満たされる。
指が三本に増やされた瞬間、飛影はわずかに眉をしかめたが、唇から漏れた声は、甘いままだ。

「…もう少し、奥に触るよ…」

蔵馬がそう言った次の瞬間、ビリッと走った刺激に、飛影の陰茎はぐんっ、と腹につくほど反り返った。

「ああ!な、なん、だ、やめ、や、あ、アアアア!!」

直腸の奥、硬いしこりのような場所を、指が突いている。
触れられるたびに腰が跳ね、一気に射精してしまいそうになる、その場所。

「く、ら…!蔵馬!! や、そこ、は、嫌だ!!」
「ここが、君の一番気持ちいい所なんだよ」
「ア、ア、ア、ン!っひあ、あ…ひいっ!!」

反り返っていた前を急に指で止められ、飛影は悲鳴を上げた。

「痛っう!あ、はな、せ!出る…」
「もう。指と舌だけで何回イク気?」
「放せ!あ、ん…うあ」
「出したい?」
「………出し、たい…!っあああ!!」

指を挿入されたまま、四つん這いの体を仰向けにひっくり返され、おおいかぶさってきた蔵馬と目が合う。

「見…るな…!オレを見るな!!」
「どうして?オレは君を見ていたいよ」

ぐちゅ、と卑猥な音を立て、指が抜かれる。
蔵馬は飛影の両足を抱え上げ、自分の肩に乗せる。

「…あ、嫌…だ…!」
「大丈夫。今度は大丈夫だよ」

ね、飛影、オレの首に腕を回して。そしてオレを見て。

すでに潤みはじめている目で、飛影は蔵馬を見つめる。
そして、おずおずと、両腕で、蔵馬の首に手を回した。

赤い瞳が、ぎゅっと閉ざされる。

「…かわいい」

閉ざされた瞼に口付けをし、蔵馬は飛影を貫いた。
***
蔵馬が体内に入ってきた瞬間、飛影は声を上げた。
大声を。

けれど、さっきとは、全然違う。
ずぶずぶと、小刻みに抜き差しをしながら、蔵馬は肉棒を奥へと埋めた。

「うああ、あ!あ、あん!あっ!……ぁ」

根元まで、ぴったりと納まる。
蔵馬は飛影の息が整うまで待ち、ゆっくりと腰を使い出した。

何度か浅く突き、その後奥深くをがつんと突かれる。
尻を貫かれ、体を揺さぶられながら、飛影は考える。

痛みは、ある。
そこには紛れもない痛みが存在しているのに、勃起したままの陰茎は、蔵馬の手で抑えられてもなお、飛影の腹にぽたぽたと先走りを落とした。

「飛影……どう?」
「あん!あん!うあ、あ、あああっ!!」

浅く突かれる、ゆるくて心地よい快感。
奥を力強く突かれる、鈍痛とめまいがするほどの快感。
時折、ぐうっと快感の中心を突かれ、穴は痙攣を起こすほどにきつく締まる。

潤みきった赤い瞳は次々雫を落とし、薄い唇は喘ぎ声を迸らせるだけだ。

「あ、蔵、アア、ア、ア、もう、アア…んぐ」
「飛影…飛影」

飛影の汗ばむ肌にはりついた髪をかき上げてやり、唇を貪る。
その間も、蔵馬の腰は、一時も休まず抽送を続ける。

「アン!! ア!ア!アアッ」

いつの間にか、飛影は突かれるリズムに合わせ、自らも腰を振り始めていた。

「アア、ア、ひっ!! も、だめ、だ、だめ…や、あ!」
「いいよ…出させてあげる…」
「ひあっ!!」

ぐいっと体を起こされ、抱き上げられ、結合箇所に体重がもろにかかる。
蔵馬をくわえ込んでいた穴は、限界まで広がり、雄を飲み込んだ。

「うっぐ、ああ、ああ!」
「飛影……いいよ…」
「うっあ!アアア!! ひ、あ、アアアアアン!! く、らまぁっ!!」

ドプッと吹き出した精は、蔵馬の手をビショビショに濡らし、蔵馬の放った精は、飛影の腹の中を満たし、外まで溢れ出した。
***
息を荒げたまま、二人はベッドに倒れ込む。

「どう?」
「…っあ……なに、が…どうなんだ?」
「オレのこと、少しはわかった?」

わかるか、と飛影はムッとする。

飛び起きて一発殴ってやりたいが、全身どこもかしこも力が入らない。
それに、派手に動いたりしたら…

…中に、放たれたものが溢れて出てきそうだ。
そう考えて、飛影は真っ赤になる。

腹の中に…蔵馬の種が、入っている。
体内が、燃えるように熱い。

「…どうしよう」
「……何がだ?」
「オレ、君のこと」

本気で、好きになっちゃったよ。

性悪狐は素晴らしく綺麗に笑んで、目を細める。

「貴様が…オレをどう思っていようがオレには関係ない…」
「そうかなあ…オレと君って、なんだかんだ言っても、離れられない運命だと思うんだよね」

抱いた相手に、そんな風に思うなんてオレも初めてだな。
蔵馬は、おかしそうに、それでいて不思議そうに、言った。

「…一度ヤッたくらいで調子に乗るなよ」
「ふーん。初めてだったくせに。良かった?」
「きっさま……殺す!!」

殴りかかってきた飛影を捕らえ、押し倒し、尻から溢れる種をからかい、赤くなるのをまたからかい、結局二人はもう一度絡み合った。

…オレと君って、なんだかんだ言っても、離れられない運命だと思うんだよね…

悪名高い暗黒武術会の招待を二人が受けるのは、それから間もなくのことだ。


...End.



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ありがとうございました!(^^)
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