インソムニアの夜明け...11
「ご褒美に…させてやるよ」
飛影は大きく足を広げて仰向けに横たわっている。
薄い尻の肉は開き、その奥の穴を覗かせる。
その光景に、蔵馬は思わず、足の間を凝視してしまう。
小さな穴は、息づくように収縮する。
触って欲しいと、弄って欲しいとねだるかのように。
「飛影…だ、だめだよ…」
そんなこと。
だってそこは…そこに挿れたら…
「…すごく…痛いんじゃない…?」
蔵馬のその言葉に、パジャマの上も脱ぎかけていた飛影は、いらついた表情を見せる。
「痛いに決まってるだろうが。できるだけ痛くないようにしろ」
「でも…」
「なんだ?」
「でも、俺したこと、ないし」
その言葉に、ようやく飛影は理解する。
「口でしたことがなかったんじゃないのか?」
「そうじゃなくて…口、だけじゃな…」
「童貞って意味だったのか?」
目を丸くする飛影に、蔵馬は赤くなって頷く。
「…童貞だと…?」
念押しするように二度言われると、さすがに恥ずかしい。
何と言えばいいのかわからなくて、なぜかちょっと申し訳なさも感じて、蔵馬は謝る。
「ご、ごめんなさい。そんなわけで…」
「…しょうがないな」
諦めて眠ってくれるのかと蔵馬が安心したのもつかの間、飛影はベッドに座れと蔵馬を手招きし、片手だけで器用にパジャマを脱ぎ、全裸になった。
「…教えてやる。まずはお前も服を脱げ」
***
一体これはどういう事態なのだろう?
患者のベッドで、素っ裸になっているという、このシチュエーション。
首から下げたタグだけが、今蔵馬が身に付けている物だ。
「女みたいな顔の割に、体はちゃんとしてるんだな」
意外としなやかに筋肉のついた蔵馬の体に、飛影が短い感想を述べる。
蔵馬はといえば、飛影の大きく広げた足の間に座らされ、その淫らな狭間から目を反らせないでいる。全裸になった飛影の体は白く、右腕の傷跡とその腕に繋がる点滴とが奇妙に扇情的で、蔵馬は思わず息を飲む。
ヒクヒク蠢くそこに、正直言えば、触ってみたかった。
いや、正確には触ったことはあるのだが、それは座薬を入れるためだったので、そういう目的ではない。
「何か潤滑油、ないか?」
「じゅ、潤滑油?」
油とか。カテーテル用のゼリーとか。
滑りを良くする物ならなんでもいい。
ケツの穴が切れないように、塗るんだ。
顔色一つ変えない飛影の説明に、蔵馬の方が困惑してしまう。
「え?えぇ?いや…そんなの…今、ないよ…」
「なら、それでもいいぞ」
飛影が指差したのは、ベッドサイドのワゴンの上の、痛み止めの座薬だ。
「え?これ…?」
「お前は入れたことないから知らないだろうがな、それ、嫌になるくらい中がヌルヌルするぜ」
さっさとしろよ、飛影はそう言うと、体を横向きにした。
***
白くほっそりした、裸の下肢。
片足を曲げさせ、尻の肉を広げると、小さく捩れた穴が丸見えになる。
心臓が、口から飛び出しそうにドキドキする。
患者にとっては恥ずかしい事なのだから、手早く済ませなければと普段は見ないようにしていたが、今は嫌でもじっと見てしまう。固く冷たい薬剤は、いつまでも持っていると体温で溶けてしまうので、焦る。
蔵馬は深呼吸をし、左手の人さし指と中指で、そこをわずかに押し広げた。
「息を吐いてね。力を抜いて…」
つい、いつも通りの言葉をかけてしまう。
先端を温めた薬剤を、グッと中に押し込む。
熱い、内部。
中指を使い、いつもの癖で出来るだけ奥へ挿入し、指を抜こうと…
手を、つかまれた。
自分の足の間から手を入れ、尻の狭間にある蔵馬の手を飛影は掴んでいる。
…蔵馬の指先は、まだ体内に挿ったままだ。
温かく、指を締めつける直腸。
呼吸するようにゆっくり動く、襞の感触が伝わる。
「ひ、えい、何してんの…放して…」
「…っぁ…もっと…中…全部に、広げろ…」
固かった薬剤は、直腸の熱であっという間に溶け、蔵馬の指先にヌルリとした感触を伝える。
「こ、こう…?」
筋肉の輪でできている入口や、直腸の中一面に、塗り広げるように指を動かす。
痛みを感じるのか、飛影の尻が時折ビクッと震える。
「…っ!」
「ごめん!痛い?」
飛影はゆっくり息を吐くと、大丈夫だ、と小さく答えた。
「…もっと、指の腹を使って抜き差ししろ。指先だと…爪が当たって、痛い…」
「あ、うん…でも痛いなら、やめ…」
「だま…れ。こんな中途半端でやめ…られるか。入口を…よく揉んで、やわらかくなるように指で解せ」
入口は薄赤く充血していたが、物欲しそうに口を開け始めている。
蔵馬はそこに中指と人さし指を挿れ、ゆっくりと掻き回すように広げてやる。
「アッ、あん…」
「どうしたの!? 痛い!?」
「やかましい…!黙って手を動かせ…っ」
指が肉を広げる度に、奥の方へ溶けた座薬を塗り込む度に、飛影は小さく声を上げ、身を捩った。
「あ、は、ぁ…も、う」
「もう?」
「挿れろ…」
横向きだった体勢を仰向けに戻し、飛影は息を荒げたまま、命令する。
何を挿れるのかなんて、さすがの蔵馬も聞きはしない。
自分の性器を、この小さな穴に挿れろと言っているのだ。
「だけど…飛影…いいの?」
「お前もヤリたそうに見えるがな」
冷笑する飛影の視線の先には、すっかり上を向いた蔵馬の性器があった。
「…触ってもいないのに、ずいぶんとイキがいいな」
「だって、その、あの、飛影の…」
飛影を見てたから、なんて言うのは恥ずかしすぎる。
みっともないほど硬く勃起した自分自身を抑えるように、蔵馬は腰を落とす。首にかけているタグがシャラ、と場違いな音を立てた。
「いいから、挿れろ…」
どうやら飛影も待ち切れないらしく、息を荒げて蔵馬の髪を引く。
大きく広げられた飛影の足を、蔵馬は持ち上げる。
濡れた穴が、誘うようにヒクッと動く。
「はや…く…」
その言葉に、蔵馬は勃ち上がった自身を、飛影の入口に付ける。
熱くて濡れたその穴に先端が触れた瞬間、今まで保ってきたわずかな理性は脆くも崩れた。
…この身体を、貫いてみたい。
「…ごめん、飛影…挿れ…る、よ」
小さな穴が、ぐっと開かれる。
ぐちゅっと濡れた音を立て、肉棒が勢いよく突き刺さった。
***
痛い。
久しぶりのセックスは、さすがに痛かった。
深々と突き入れられたそれに、飛影は小さく呻いて、苦笑する。
普通は、入口周辺を浅く何度か突いて、受け入れる方を慣らしてから、奥まで挿入するものだ。
この童貞野郎は、いきなり奥まで突っ込みやがった。
限界まで広げられた入口は少し切れたし、急激に押し広げられた直腸は異物感に強ばっている。けれども、久しぶりのその感覚は、口から内臓が出そうな吐き気も含めて、飛影にとっては慣れたものだった。
「ぅあっ…ぁぁ…痛ぅっ…ん!」
「あ、っは、痛いよね、飛影。ごめん、抜く…」
「抜、くな…この、まま…」
痛い。
吐き気がする。
尻の穴を焼くその熱さは、内臓を溶かしてしまいそうだ。
でも、続きをしたい。
もっともっと、深い所に、それを感じたい。
飛影は荒く息をつき、蔵馬に次の命令をする。
「…うご、け…最初はゆっくり…」
「こ、こう…?」
ぐんっと奥を突かれ、思わず飛影は悲鳴を上げた。
「アアア!痛うっ!! バカ…!」
「ごめん!ごめん、痛い?」
検討違いの場所を突かれたひどい痛みに、飛影は唇を噛みしめた。
「…痛っ…う。…違…う!お前…医者だろう!中、の…位置…と、向きを考えろ!!」
息も絶え絶えの抗議に、慌てて蔵馬は内臓の位置図を思い浮かべる。
…そっか…こっちじゃない。
もっと…ここから、この向きに…
「アア!…あん!」
どうやら正解だったらしい。
「…こっち?」
「ア!…ああ…んん…あ…」
飛影の声にはわずかに甘い響きが混ざり始める。
「アッアッ、あ…っあ…あ、あ…」
白い頬に、ほんわりと赤みが差す。
とろりと潤んだ赤い瞳で、飛影は満足そうな吐息を漏らした。
***
あやうく、挿れただけで射精するところだった。いくら初めてでも、それではあまりに情けない。
それくらい、飛影の体内は熱く強く、蔵馬を締めつけた。
初めて感じた他人の体内は、濡れた粘膜がとろけそうに熱い。
闇雲に奥を突いた途端、飛影が痛みに悲鳴を上げた。
「…痛っ…う。…違…う!お前…医者だろう!中、の…位置…と、向きを考えろ!!」
そう言われて、考え考え差し込んだ場所は間違ってはいなかったらしく、グチュンと音を立て、蔵馬をずっぽりと飲み込んだ。
熱い肉に包み込まれ、思わず我を忘れそうになる。
きつい入口と、吸い付くような内部。
蔵馬はゆっくりと、腰を動かし始めた。
「あっああ、ん!ん!あっあっ」
突き上げられるたびに、飛影の右腕に留められたままの点滴が揺れ、針の留められた腕に赤紫の内出血を広げていく。
「っ飛影…腕…!」
「ほっとけ…!いいから…もっと…」
もっと、動け。
飛影はそう言うと、自らも腰を動かす。
言われるがままに、蔵馬が深く腰を動かした瞬間、ほんの少し硬い場所に肉棒が触れた。
…見つけた。
ここ、だ。
「ああああっ!! あ!あ!うあっ!」
電流が流れたかのように、飛影の体がのけ反る。
ここが、快感を一番感じる場所だ。
ビクビクと痙攣する飛影の内部が、蔵馬にそれを教える。
「ア!! アアアアッ!! ンン…アアッ!!」
「ひ、えい…好き…だよ…」
のけ反る体を抱きしめて、蔵馬は囁く。
その言葉に、飛影はうっすらと目を開けた。
赤い瞳と碧の瞳が、互いを映して煌めく。
「好きだよ、飛影…ねえ、痛くない?…大丈夫?」
「……痛、い…でも…」
「…でも?」
短い会話の合間も、二人の体はゆらゆら揺れ、快感を貪る。
飛影の赤く染まった目元。
先ほど放出して萎えたはずの性器は、また硬く勃ち上がり、蔵馬の腹を擦っている。
「…でも、気持ち…いいの?」
「ごたく、は、いい…もっと…」
飢えた子供のような目が、蔵馬を見つめる。
「もっと…もっと、俺を楽しま、せ…ろ」
その赤。
真っ赤に流れる血のような、その深紅。
その瞳に魅入られたかのように惚ける蔵馬の顔を引き寄せ、飛影は深く唇を重ねた。
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