強き者...2

爆風。
噎せるような血のにおい。

バラバラと転がる真新しい死体は、長い耳と羽のある、あの男たちだ。
皆、後ろからスパリと首を切り落とされている。

ヤレヤレ、と呑気に服に付いた土埃を叩きながら入ってくる、見慣れた姿。

「なんだこりゃ。虫か?気色悪い」

足下に広がる虫の群れを優雅に蹴散らし、女は近づく。

「待たせたな」

綺麗な顔で躯は笑い、飛影を吊していた鎖を切った。
裸の体は、躯の腕の中に落ちる。

「大丈夫…そうには見えないな」
「んん、…ぐ、う、ゲホッ!ゲエッ…!!っひ、ウアアアアッ!」

胃から口までを犯していた虫が躯の手で力任せに引き摺り出され、飛影は血を吐き出し、喘ぐように空気を吸い込んだ。

「何て格好してんだ、お前」
「ぐ…ゲホッ!はっ…!」
「よしよし。遅くなって悪かったな。ったく、何捕まってんだ。間抜け」
「…ゴホッ…っ………く、らま…」
「オレだぞ。寝ぼけるな」
「…貴様、こそ…寝ぼける…な……」
「なーんだ。やっぱりお前にはわかるか?我ながら上手く化けたのに」

シュン、と音を立て、躯は姿を変える。
銀色の狐、妖狐に。

「くら…なんで、来…」
「後にしろ。こんな気色悪い場所、さっさと出るぞ」

虫の巣になっていた洞窟の一画を、飛影を抱えたまま出ると、蔵馬は火を放った。
吊るされた妖怪たちの妖気で肥大した虫たちが炎の中で小気味よい音を立てて弾ける洞窟を、蔵馬は何事か呟き、封印を施した。

「これであの気色悪い虫たちは丸焼けだ」
「蔵馬……」
「そ。オレ。よくわかったな」
「…あい、つは……躯は、後ろから敵を…襲ったりしない……」
「ずいぶんな言い草だな」

だって、お前を捕らえるほどのやつらだぞ?正面切って行ってどうするよ?
そうぼやく蔵馬も無傷ではなく、あちこちに血を滲ませている。
そもそも妖狐の姿で来たこと自体、強い敵だったという証拠だ。

躯以外のやつが来たらお前を即殺すって言われてたんだ。大変だったんだぞ、化けるの。来てくれてありがとう、会いたかった、とか言えよ。
そんなことをブツブツ言っていた妖狐は、青ざめてガタガタと震えている飛影に気付き、敵の血で汚れた洞窟にバサリと大きな布を敷いた。
小さな体をそこに横たえ、足を広げさせる。

「…なに、を…する…?」
「まあ、話は後だ。…虫退治が先なんでね」
***
「ゥアア!! アアアアアアッ!」

白い背がのけ反る。

大きく広げさせた足。
薄い尻の肉の奥に指を突っ込んで蔵馬が引っ張り出した虫は、飛影の妖気と血肉でつやつやと太り、紅色に光っている。

「うあ!痛うっ!…ぐうっ…ゲエッ…!やめ…!!」

腸の中でぱんぱんに膨れ上がった虫は、容易には出てこない。
離れまいと腸壁に噛みつく虫に、蔵馬は自分の妖気を流し、始末する。
傷ついた腸内にビリッと流れる妖気に飛影の体は絶え間なく跳ねる。

「ギャアァッ…!!」

蔵馬は長い指に虫を絡めると、一気に引っ張り出した。
血に塗れた汚らわしい虫を焚き火に放り込む。

飛影の白く小ぶりな尻は、腸からの出血で痛々しく赤く染まっていた。

「うあ!ひ、ああ……っうえっ…げぇ…っ」
「いい子だ。後は洗浄だけだ」
「う、あ…っも、う…いっ…やめ…」
「馬鹿言え。虫の毒が残ってる」

どこからともなく蔵馬が取り出した実は水袋のようにたぷたぷと揺れている。

「口を開けろ」
「ん!う…あ…」

体を起こされ、ごぼごぼと口の中に注がれる水。
薬臭い、嫌な味のする水はあっという間に胃を満たす。

「……うっ、んんー!」

蔵馬は逃げる飛影の体を抑え込み、さらに水を流し込む。
入りきらなくなった水が口から溢れると、蔵馬はようやく顎を押さえていた手を放してやる。

「うえっ!げえっ!!」

大量の水をごぼっと一気に吐き出し、飛影は噎せ返った。

「ぐ、ごほっ…う、げほっ…あ、は…」

くらりと視界が回る。
倒れ込もうとした体を支え、蔵馬は短く命令した。

「今度は下だ。仰向けに寝ろ」
「………し、た…?」

遠のきかけていた飛影の意識が、一気に引き戻される。

「っ!嫌だ!!」
「選択の余地はないんでね。腹ん中が腐るぞ」
「放っておけ!構うな!! 触るな!やめろ!!」

弱り切った飛影を押さえ込むことなど簡単だ。
小さな体をぐいっと組み伏せ、足を広げさせる。

「やめろ!! 放せ!! や…!」

薄い肉を開き、白い尻の奥、出血し赤く腫れ上がっている痛々しいそこに、蔵馬は先ほどと同じ実から伸びた管を差し込んだ。

「うあっ!痛う!! や…めろ!! 嫌だ!アアア!!」

差し込まれた管はずるずると奥へ入る。
蔵馬はできるだけそっと挿入してはいるのだろうが、爛れた腸壁に触れる管に、飛影は呻いた。

こぽ。

冷たい水音を立てて、飛影の腹の中に薬液が注ぎ込まれる。
こぽり、こぽりと流れ込む。

「イ、ア、ぐうっ…アア!嫌、だ!やめ…!!」

こぽり、こぽり。

「や、あ!嫌だ!! やめろ…っ!」

白い下腹が水風船のように膨らみ始める。

「……ぅあ…く、らま…っもう、やめ…やめてく、れ…苦し…っ」
「もう少し我慢しろ」
「ひっ……む、りだ…痛い…痛い!! くるし…苦しい…っ!やめて、く、れ…うっぐ…」

やめてくれと、請うている。
飛影らしくもないその言葉に、蔵馬は一瞬手を止める。

真っ青な顔には脂汗が浮き、歯の根も合わないほどに飛影は震えていた。

どうやら本当に限界なのだろう。
噛みしめた唇は色を無くし、血を滲ませていた。

「うあ、嫌、だ、腹、が…あ……っぐぅ、痛い…くる、し…苦しい…っ」

こぽり。
大きく広げられた飛影の両足は小刻みに痙攣し始める。

「痛っ、う!あ!…っ腹、が…破れるっ…やめ、やめろ…アアア!!」

腹は水でぱんぱんに膨らみ、飛影は忙しない呼吸を繰り返し、力なく頭を振る。
薬液を流し込み終えた蔵馬が、そっと管を抜く。

「ひっ…っぐ…」

潤んだ目を見開いている飛影の髪を、蔵馬はやさしく撫でてやる。

「もういいぞ、出しても」

その言葉に安堵するどころか、飛影は一層身を固くした。

「…嫌、だ……い、やだ!!」
「おい、どうし…」
「見るな…見るな!あっちへ行け!! 出て行け!」

虫に散々貪られた体内には薬液しか入っていない。
けれど、それを出す所を見られるなど、飛影には堪え難い羞恥だ。
とっくに限界のはずなのに、苦しくてたまらないはずなのに、飛影はぶるぶると震えながらも必死で耐えている。

「…飛影」
「うるさい!出て行け!! オレを見るな!!」
「…お前、今自分がどれだけみっともない格好かわかるか?」

赤い瞳が、凍りつく。
一番見られたくなかった姿を一番見られたくなかった相手に見られ、一番言われたくなかった言葉を、言われたのだから。

「……蔵、ま…」
「全身グッチャグチャのドロドロで汚いったらない。腹はぱんぱんに膨らんでるし、素っ裸で大股広げて…」
「…き、さま…」
「…なのに」

なのに、お前はたまらなくそそる。
狐は、飛影の耳元で囁いた。

「虫たちには…お前はご馳走だったらしいな」
「…ぅ、あ……」
「お前は、オレにとってもご馳走だ」

お前がどんなにみっともない姿を晒していても、オレはお前にそそられる…。
蔵馬は飛影の手を取り、自分の股間に導いた。

「……あ…」

そこは熱を持って硬く盛り上がり、蔵馬の言葉は嘘ではないと示していた。

「…なんなら今すぐだって、ブチ込みたいぐらいだ」
「な!やめっ!!…腹、が…破れ…!」
「挿れられたくなきゃ、出せ。本当に突っ込むぞ」
「嫌、だ…!く、ら…この…馬鹿…っ」
「本当に馬鹿な話さ。この妖狐蔵馬様がまったく」

蔵馬の手が、飛影の腹を撫でる。

「う…アア……痛うっ!アアアッ!!」
「何も心配するな」

お前がどんなことをしても、どんな姿をしていても、
オレは、お前を…

狐は甘く囁きながら、大きな手で飛影の膨らんだ腹をゆっくりと、それでいて力を込めて、押す。

暗い洞窟に、恥ずべき水音を掻き消すような悲鳴が響き渡った。
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