Loop Dragon Act.1...7

「兄さん…まったくもう!どうしてこんな勝手な事をするのよ!」

翌日の夕暮れも近づく頃にようやく目覚めた雪菜は、心配ばっかりさせるんだから、とカンカンだ。
妹を心配しての兄の行為は、彼女にとってはどうやら余計な世話でしかないらしい。

「もう!私なら上手くカタをつけられたのに!あの後いったいどうしたのよ!蔵馬と何を話したの?」

仕事が始まるまではあと一時間程で、そろそろ支度をしていなければならないのに、飛影はベッドにもぐったままだ。

「話はつけた。…お前が心配することはない」
「馬鹿言わないで!八億二千ディリをどんな話をつけてきたって言うのよ!」

飛影は小さく呻いて、毛布に頭までもぐったまま寝返りを打った。

「…兄さん?具合が悪いの?」
「…ああ。今日は休む。届けも出してある」
「あいつに、何かされたの!? ねえ話して!」
「本当に大丈夫だ。お前は仕事だろう?そろそろ行った方がいいぞ」

雪菜はいまいましそうに時計を見て、立ち上った。

「帰ってきたら聞かせてもらうわよ。兄さん」

足早に出て行こうとした雪菜は、ふと振り返って寝室を見渡して言った。

「ねえ兄さん。この匂いなんの匂い?すごくいい香り…お花…なんてこの部屋飾ってないわよね?」
***
「う、あ…」

誰もいなくなった部屋で、飛影はようやくベッドから起き上がる。
毛布をめくった途端、噎せるような花の香りが部屋中に広がる。

「…なんだ。なんなんだこれは…」

はあはあと呼吸を乱しながら、飛影は下肢の有り様に目を見張る。

ぐっしょり下着を濡らす液体は、寝巻きに滲み出し、ベッドまで汚していた。
まるで、漏らした子供みたいだ。

汚す、と言ったって色はない。
水のように透明で、ぬるぬるしている。
ただ、この噎せるような花の香り。

飛影はベッドに膝立ちになり、ズボンと下着を降ろした。
下着は、たった今、水から引き上げてきたとでもいうようにびしょ濡れだ。

「な、あ…?」

尻の奥から、滲み出すようにぬるりとした液体が流れ出してきていた。

「なんだ…!なんだこれは…!一体どうなって…」

そう言っている間にも太股を伝い落ちる、透明の液。

それは間違いなく自分の穴から流れ出している。
花の芳香を放つ液体。

おまけに…

ハッ、ハッ、と荒い呼吸を飛影は繰り返す。

…熱い。

得体の知れない液体を漏らし続けるそこが、恐ろしく熱い。

穴の奥が、奇妙にざわめく。
ここに何かを突っ込んで、掻きむしってやりたいような衝動にかられる。
…熱くて熱くて溶けてしまいそうだ。

恐る恐る、そこに指をそっと挿れてみる。

「…!!」

指先を浅く挿れただけなのに、驚くほど、熱い。
自分で指を挿れたことなどなかったが、異常な熱さなのは分かった。

「…は…ぁっ」

自分のやろうとしていることに、強い羞恥を覚えながらも飛影はよろけながらベッドを出て、棚から瓶を取り出す。
この瓶には雪菜の造る特製の氷が入っていた。瓶から出さなければ溶ける事のない不思議な氷。
震える指で大きな瓶から氷を一粒取り出し、四つん這いになってそれを後ろにあてがう。

「ひっ…」

穴に押し込んだそれは、ビリッと痺れる痛みを一瞬与え、わずかな間だけ熱すぎるそこを冷やしてくれたが、たちまち溶けてしまう。

「あ、あっ、熱っ…」

四つん這いになって尻に必死で氷を押し込む自分の醜態ももはや気にしていられない。
溶けた氷も花の香りを放つ液体となって尻から流れ出し、両足を伝い、ぬるぬるとひっきりなしに流れ落ちる。

熱い、熱い…

奥、の方が…痒いような…くすぐったいような…ぞわりと蠢く感覚。
…気が狂いそうだ。

あいつ…あの野郎。

…蔵馬。

あいつが俺の体に何か…した?

「くそっ…」

震える足で立ち上って、着替えの服を出す。
裂いた布を小さくたたみ、尻の間に挟み込むように押し当てて服を着る。こうして押さえて漏れる水を吸収させておかなければホテルに着くまでに服がビショビショになってさぞ見物だろう。

上気した顔で、ふらつく足で、飛影はまたもやホテルへ向かった。
***
鍵を持っていないのに、飛影は888号室へあっさり通された。
それはつまり蔵馬がフロントにそうしろと言っておいた証拠でもある。

「き、さま…」

ほとんど喘ぎ声と言える擦れた声で、飛影は蔵馬に詰め寄った。
ホテルまで来る間に体内の熱さは更に増していた。壁に手をついて支えていないと、立っている事さえままならない。

「…また来たの、お兄ちゃん。俺は君みたいな嘘吐きに用はないんだけどな」
「ふざ、けるな…これをどうにかしろ!」
「これって?」

蔵馬はいぶかしげに綺麗な顔を傾げた。

「とぼけるな…貴様俺の…」
「俺の?」
「…尻…に…」
「お尻がどうかした?」

元々飛影は口が回る方ではない。
おまけに足はがくがく、呼吸は乱れてはあはあ言っている状態の今、ろくな会話はできていない。

「どれ、見せてみなよ」
「やめ…っ!」

止める間もなく、ズボンを下着ごと降ろされた。
尻に挟んでいた布は、たっぷりの水分を含んでビシャッと音を立てて床に落ちた。

「なあに?お尻にこんなビショビショの布はさんで。変わった趣味だね。…漏らしちゃったの?」
「貴様…!」

思わず殴りかかったが、足首まで降ろされていたズボンと下着が引っ掛かり、盛大に尻餅をつく。

「…あっ!」

尻餅をついた衝撃で、尻から液体がドッと漏れた。

…強すぎる花の香りに、思わず噎せる。

情けなくて、恥ずかしくて、顔を覆う。
尻の下の絨毯には、香しい染みが広がりはじめていた。
蔵馬はその姿にクスクス笑うと、尻餅をつく原因となった、足首にひっかかっている濡れたズボンを脱がせてやる。

「俺、もうチェックアウトするんだ。じゃあね。バイバイ」

その言葉に飛影はガバッと顔を上げる。

「ふざけるな!これをどうにかしろ!」

熱い熱い熱い。

このままなら本当に気が狂う。
死んだ方がマシだ。

…ずいぶんみっともない死に方だが。

「これが、欲しいの?」

いつの間にやら、蔵馬の手の中には小さな小さな、手の平に納まるほどの瓶がある。

「それ、は…解毒剤…?」
「当たり」
「っ…よこせ!」
「いいよ。ちなみに値段は八億二千ディリ」
「……!」

飛影は部屋にさっと視線を走らせた。
ベッドサイドのテーブルには、果物のカゴ。

その側には…小さなナイフ。
こんなにふらついていてはこいつを殺すことなどできっこない。

…自分を殺す事なら、できる。

飛影は素早く動いたつもりだった。
だがそれはずいぶんと緩慢な動きだった。

あっという間に小さなナイフも蔵馬の手の中だった。
どうにも逃げ道がないのを見てとると、飛影はずるずると床に倒れ伏した。
下半身は裸で、おまけに尻をビショビショに濡らして丸くなる飛影の側に、蔵馬が膝をついた。

「いい格好だね。すっごく卑猥で、素敵だよ」

もう答える気もしない。
飛影は横たわったまま、ただ小さく呻き声を漏らした。

「…お兄ちゃん、最後のチャンスをあげようか?俺を満足させられたらこの薬、あげるよ」
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