くろねこライフ...7

72日目

「はい、おしまい。温まっておいで」

いつも通りの言葉と共に、ドアがパタンといつも通りの軽い音で閉ざされる。
いつも通り、俺は湯につかるまでもなくすっかりのぼせていて、蔵馬の言葉に苛立ちさえ感じる。

何でだ?何にイライラするのだろう?

湯から上がり、のぼせた頭を冷やそうと水のシャワーを浴びようとした俺は、ふと、手を止める。

トクントクンと脈打つ、そこ。
触られることにイライラするのか、もっと触って欲しくてイライラするのか…?

タイルの上に直に座り、足を軽く広げた。
バスルームには誰もいないのに、なぜか後ろめたくて、辺りを見渡し、自分一人だけしか居ないことを再確認する。

ボディソープを手の平で泡立てて両手に広げ、包み込むように、俺はそれをつかむ。

何…
俺は何をしようと…

考える前に、手が動いた。

「……っふ、…みゅ…」

変な感じ、でも、気持ち、いい…。
指でこするように、こねるように何度も上下させる。

みるみる硬くなったそれを、夢中で弄る。
泡はすっかり流れてしまったのに、そこは自らヌルヌルした液を先端から出していた。
腹にくっつくほどに反り返ったそれは、自分の体の一部とは思えない。
頭の中の冷静な部分では、そのひくひく動くものへの嫌悪感が確かにあるのに、手はまるで意思を持っているかのように離れない。

「…みゅ、みゅ…んん」

硬くて、ドクンドクン脈打って…熱い…!

「あ、あ、にゃあっ…!!」

ビシャッ、と響いた音に驚いて、俺は目を開けた。

「……?」

手の平に、タイルの壁に、泡とは違う、白くどろっとした液体…

「……みゃっ!?」

な…なんだ…!?

一瞬、トイレでもない場所で排泄したのかと思って顔が熱くなったが、違う。
違う…見たことのない、変な液体。

「…な…なんだ…?」

どろりとして、変なにおいのする、その液体。
それがなんなのかわからないのに無性に恥ずかしくなって、俺はシャワーで勢い良く洗い流す。

ついでに冷たい水を頭や顔や…まだドクドクするそこにも…かけて慌ててバスルームを出る。

別に、誰を困らせた訳でもない、何かを壊した訳でもない。

何も、悪いことはない。
でも…ひどく恥ずかしい。情けない。

何より恥ずかしいのは…

本当は、もう一回、したい。
そう思ったことだ。
***
84日目

「…ふにゃ…ぁ…」

やめなければ。
毎日毎日、俺は一体何をしているんだ?

初めて手をのばした日から毎日、一人で風呂に入る日は必ず、俺はまた自分の股間を弄くり回している。

汚い。
恥ずかしい。
みっともない。

誰が見ているわけでもないのに、この行為はどうしようもなく恥ずかしい。

…変態。

自分で自分を罵ってみた所で、この気持ち良さは変わらない。
体が蕩けるようなくすぐったいような、どうしようもない、感覚。
何度も繰り返すうちにコツがつかめてきて、今では片方の手は自分の胸をまさぐり、乳首をこね回す。

「…にゃ…にゃ…」

胸の方を弄っていた左手を放し、両手でしっかり…
硬く硬くなったそこを、ぐっと強くつかんで…

「あっつー!」

家のどこかから聞こえたその声に、びっくりして手を止める。
何やらバタバタ騒いでいるのは、蔵馬だろうか…?

足音が近付いてきたことに気付いた瞬間には、もうバスルームの戸は…

「飛影、ごめん開けるよ!」

え?

「ちょ…待っ…!」
「アチチ…。ドジっちゃって、熱いミルクこぼ…」

濡れたズボンの膝から下をまくりながら入ってきた蔵馬が、無言になる。

「……!!」

俺はとっさに足を閉じ、身をかがめてそこを隠した。
我ながら、不自然な体勢だ。

「飛影…?」

頼むから、見ないでくれ。
出て行ってくれ。
それだけが望みなのに、蔵馬は膝をついて俺の顔を覗き込もうとする。

「…み、るな…!あっち行けっ!!」

自分の排泄器官や乳首を弄り回していい気持ちになっていたなど、死ぬほど恥ずかしい。
それを人に見られるなんて。
自分のバカさ加減に本当に死にたくなる。

「飛影」
「うるさい!! 頼むから出て行っ…」

次の瞬間言われた言葉に、俺は耳を疑った。

「…してあげようか?」
***
ポカンとしている俺の側を通り、蔵馬は熱いミルクを零したと言っていた自分の足を冷水で洗い流す。
膝から下はびしょ濡れのまま、俺の目の前に蔵馬は跪いた。

「手をどけて」
「…な、なんでだ…?」

にこっと笑って、蔵馬は言う。

「だって、一人でエッチなことしてたんでしょ?」
「…っしてない!!」

頬が、燃えるように熱い。
この行為がそうした意味を持つことは、俺も薄々感づいてはいたのに、止められなかったのだ。

「本当に?じゃあ、手をどけて。俺に見せてごらん」
「……っ」
「どうして隠すの?見せて?」
「…嫌、だ」

いつだって、蔵馬はやさしかったのに。
なぜ、今そんなことを言うんだ…?

情けないことに、俺の手の中で、それはまだビクビクと動いている。
出そうになっていた所を止められて、苦しそうに脈打っている。

…出したい。
途中で無理に止めたせいで、下腹がしくしく痛い。

「出て…け…!…っあ!?」

手をつかまれ、無理やり股間から引きはがされる。

わずかな泡をくっつけて、ピンと天井を向くそこがむき出しにされる。
白々としたバスルームの明かりの下で、ぬるりと光る、醜いそれ。

「……あ…」
「…自分で、弄ってたんだ?」

声が、出せない。
頭の中が真っ白になって、返事をすることもできない。

「こすってたでしょ?真っ赤になってるよ」
「あ、嫌…ぁ…違っ…違う…」
「…乳首も…硬い、ね…」
「違う…っ!!」

何が違うんだ?
さっきまで、夢中で弄くり回していたくせに。

「大丈夫。力を抜いて、足を広げて…」

俺に、まかせてごらん。

その言葉とともに、蔵馬の手で、俺の両足は大きく広げられた。
***
「みゅ…みゃ…ぁ…んん」

声が、漏れる。
どうしても、抑え切れない。

人の手でしてもらうのは、自分の手でするのとは全然違った。

当たり前だが、次にどういう風に動くのかがわからない。
握られているそこは急所でもあるわけで、自然と体が強ばってしまう。

「っ…ん、ふぅ…にゃ…っ」
「声を出して、もっと楽にして…」

蔵馬の指先は、時折きつく、時折くすぐるように上下に動く。
皮膚の表面を爪の先でつうっとなぞられて、俺は背を反らして喘ぐ。

「あっあっ、んん…にゃあっ」

先っぽの小さな穴に、蔵馬が爪を押し込むように、ぐっと押し付ける。
もう片方の手は、玉の部分をギリギリの強さで揉み込む。

「痛っ、いたい…!」

痛いのに…気持ちいい…

「あっ!ん!…んんっ!! ぅにゃぁっ…!!」

体内から熱い液体がどばっと噴き出して、蔵馬の手の平を汚した。

「ああ…みゅっ…う!」

息が上がる。
はあはあと荒い呼吸が、バスルームの曇った空気に響く。

体の力が抜ける…
ぐらっとよろけた体を、蔵馬が抱き留める。

…この、後…
どうしたらいいのだろう?

恥ずかしさと気怠さとで、俺は蔵馬の胸の中から顔を上げることができない。

「さてと、俺、ココア淹れてる途中なんだった」

飛影はちゃんと温まってからおいで。
その頃にはココアできてるから。

蔵馬はあっさりとそう言い、自分の胸から俺を引き離し、俺の出したもので汚れた手を洗ってさっさと出て行ってしまう。

みじめな…気分だった。

汚いものを洗い流し、立ち去る蔵馬。
まるで、自分の体も制御できない、バカな生き物の粗相を片付けてやったかのように、蔵馬は行ってしまった。

…みじめな、本当にみじめな気分だった。

すっかり萎えたそこを洗い流し、俺はのろのろとバスルームを出た。
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