Split Syndrome...2蔵馬が妖狐の頃に魔界のあちこちに作ったアジトは、今も使える状態のものばかりだ。豪奢な物を好んだ妖狐らしい、高価な家具や寝具。術をかけて腐らなくしてある果物などの保存食などが備蓄してある。 「ほら、着いたよ」 泣き疲れたのか、抱きついたまま眠っていた飛影を、やわらかなベッドにそっと降ろし… 降りない。 いつの間に目を覚ましたのか、飛影は蔵馬の首に腕を巻き付けたまま離さない。 「ちょ、ちょっと。ちょっとだけ離して」 離して、という言葉はまずかったらしい。 赤い瞳からあっという間にこぼれ出した雫が、至高の宝石となってベッドに落ちる。 「ち、違う違う。どこにも行かないから!」 「…ったくせに…」 「え?」 「…オレのことを好きだって…愛してるって言ったくせに…」 「もちろんそうだよ!」 「じゃあなんで離れるんだ!」 慌てふためいた蔵馬は、またもやわあわあ泣き出した飛影をぎゅっと抱きしめたまま自分も一緒にベッドに倒れ込むように横たわる。 目元に、頬に、耳にキスをして、涙の跡を舐める。 涙で濡れた唇の感触を味わい、深く口づける。 「くらま……」 絡み合う舌の間で発せられる、甘ったるい、濡れた声音。 見たこともないような笑みを浮かべて、飛影は蔵馬を見つめる。 やばい。 かわいい。 何とか飛影を正気に戻そうと思っていた蔵馬の理性は、はかなく吹き飛ぶ。 「いいの?…後で怒ったって駄目だからね、飛影?」 念を押すように、いたずらっぽく蔵馬は笑う。 潤んだ赤い瞳を蔵馬に向けたまま、飛影は返事のかわりに 上衣を自分でビリッと裂いた。 ***
ランプの仄明かりの中に白い裸体が浮かぶ。いつものような恥じらいはなく、飛影は自ら足を大きく開き、尻の奥を這う温かい舌の感触に喘ぎ声を上げる。 襞のひとつひとつを丹念に舐め、時折舌先で固く窄まった中心を突く。襞の中心がヒクッと痙攣し開くのを逃さず、唾液を流し込む。 「ああ…っ…んん」 「どうして欲しいの?」 舌先を離し、意地悪く蔵馬は聞く。 その間も指先で揉みほぐすように入口を弄り続ける。 普段なら真っ赤にした顔を背け、絶対に答えない飛影なのに、 欲望に正直に、貪欲に蔵馬にねだる。 「もっと強く揉んで…舌も奥まで入れろ…」 いいよ、と答えながらも蔵馬は驚きを隠せない。 彼がこんな事を口にするなんて。 雪菜は飛影もおかしくなってるんじゃないか、と言ったが完全におかしくなってる。 親指でギュッと、ヒクつく穴を強く押す。 襞を伸ばすように、丹念に揉みほぐす。 小さな穴はヌメヌメと腸液を流し始め、流し込まれた唾液と混ざり合いくちゅくちゅと音を立てる。 「あぁ…!くらま…」 瞳から快楽の涙が零れる。 「く…らま…こっちもし…ろ…」 飛影は濡れた声でねだる。 だが蔵馬はすっかり濡れて勃ち上がっている前は無視し、 後ろだけでいかせようと執拗に尻を弄る。 ゆっくりと人指し指を挿入する。 温かな腸壁は喜ぶように指を締め付けた。 「きつくて、あったかいよ」 揶揄するように蔵馬は耳元で囁き、徐々に出し入れを激しくする。 指を増やし直腸の奥を強く押すと、高い天井に嬌声が響きわたる。 白濁した液を飛び散らし喘いでいる飛影を見て、蔵馬は満足そうに笑う。 「ほら、ね?後ろだけでいけたでしょう?」 「…ば…っ」 馬鹿、と言おうとしたらしい口は濃厚なキスで塞がれる。 「さて、後はどうして欲しいの?」 わかっているくせに、蔵馬は意地が悪い。 「入れろ」 いつもは絶対口にしない事をあっさりとねだる。 「どこに?ちゃんと教えて」 鎖骨を、乳首を、臍を、あちらこちらを舐めまわしながら 分かっている答えをなおも聞く。 赤い瞳が、とろりと蔵馬を見つめる。 右腕は蔵馬の頭をかき抱いたまま、左手が下肢へとすべる。 「ここ、に…入れ…」 左手の親指と人指し指を、ぬめる場所へと差し込み、 赤く充血した肉を押し開く。 指に広げられた穴は、鮮やかな色の内臓を覗かせてヒクヒクと痙攣している。 「もっと、広げて見せて」 見たこともない行為への驚きを隠して、蔵馬は要求する。 素直に飛影は指をもう少し奥へ入れ肉を開こうとしたが、 痙攣を起こしているそこは上手く開かず、指を押し出そうとする。 「痛っう!…や…もぅ…ぁ…早くしろ!」 癇癪を起こした飛影が、長い黒髪を引っ張る。 「いいよ」 こちらももう、我慢のできなくなっていた蔵馬は、 腸液に濡れた飛影の指をきれいに舐め取ると、 固く勃ち上がった自身を一気に突き入れた。 ***
幾度も幾度も繰り返される抜き差し。内臓を揺り動かされる苦痛と快楽に酔いしれて、 飛影は絶え間なく声を上げる。 繰り返される衝撃に、内臓は間違いなく悲鳴をあげているのに、 体のもっと奥深くが歓喜にうねる。 突き上げられる。 引き出される。 あまりに強く引き出され、直腸がわずかに外に露出する。 普段は外気に触れる事などあるはずもない濡れた臓器。 絶叫をあげる間もなくまた体内に押し戻される。 気持ち悪い。 痛い。 怖い。 …それらを遥かに上回る究極の快感。 「くらま…くらま…!」 意味を成さない叫びだったのに、蔵馬は飛影の上に乗ったまま動きを止めた。 「なあに?飛影」 そう言ってにっこり笑うと、結合部に指を這わせ、 肉棒に引きずり出された濡れた直腸を指で軽く摘んだ。 「ぅあ…!あぁああああああっ!」 背骨も折れんばかりに体を仰け反らしての、絶叫。 「ここ?ここが気持ちいいの?」 蔵馬は軽く指で摘んでいるだけなのに、飛影はまるで腸を引っ張り出されるような衝撃を感じて叫ぶ。 それを分かっていて、尚もしつこく露出した直腸を弄る。 「うあ!嫌…っ!やめ…あああっ!」 赤い瞳から零れる涙はあっという間に、輝く石と化して床で跳ねた。 これ以上泣かしちゃかわいそうかな。 蔵馬はクスッと笑うと、指を引き腰を大きく叩きつけた。 声が嗄れたのか、ヒュッという小さな声が漏れる。 自分の体内で蔵馬を力いっぱい締め上げると、飛影は二度目の放出をした。 ***
「ねえ…ちょっと休憩しない?」抜かず五回という記録に、さすがにヤバイと思い蔵馬は尋ねた。 飛影は首を横に振る。 あれから何時間経っただろうか? 飛影は明らかな疲労の色を見せているのに、蔵馬が抜こうとすると怒る。 このまま、繋がったままがいい。 そう言って、わずかな眠りを貪る間も、肉棒をくわえ込んだまま眠っていた。 さすがに体内に異物を埋め込んだままの眠りは浅く、ぐったりと青ざめている。 「お腹空いたでしょ?なんか食べようよ」 繋がったまま身を起こし、ベッドボードの鉢に盛られた果物に手をのばす。 飛影はまた首を横に振ると、体内の異物を強く締め上げた。 「あっ…っ、ちょっと待ってよ。休憩しようよ」 温かくきつい飛影の中の締め付けに、思わず硬さを取り戻した自分をなだめ、 くちゅ、という卑猥な音をたてる温かな体内からゆっくりと引き出した。 弛緩した穴から流れ出る、白濁した液をやわらかい布で拭いてやりながら、 蔵馬は丸く赤く甘い香りを放つ実を、不満げな顔をしている飛影に差し出す。 「ね?美味しそうでしょ?」 この実は妖狐が品種改良した実だ。 水分が多く、とても甘くて種もない。 だが飛影は差し出された果物には目も向けず、蔵馬だけをじっと見つめる。 赤い瞳。 素晴らしい深紅。 妖狐自慢の作であるこの赤い果物がまるで色褪せて見える。 飛影がふっと目を閉じる。 薄く形のいい唇が半開きになる。 いつもの飛影をもちろん愛している。 …でもこんな飛影を味わっちゃうと、正気に戻るのが惜しくなっちゃうな… 蔵馬は苦笑すると、赤い実を一口かじる。 かじり取った甘い実を、口移しで飛影に与える。 甘く溶ける果肉。 舌が絡み合い、甘い汁が滴る。 どちらの口の中で味わっているのか分からなくなってくる。 満足そうに喉を鳴らして飲み込んだ飛影を見届けてから、 自分も食べようと蔵馬はかじりかけの実に口を付け… 手を、捕まれた。 「何?オレは食べちゃだめなの?」 笑いながら聞く。 蔵馬の手から取り上げた実を、 飛影は自分の胸元にあて、ゆっくりと押しつぶす。 種もない甘くやわらかな実は、ぐずぐずとした果肉と甘い液体と化して、飛影の胸元を流れ落ちる。 胸を伝い、腹に流れ、臍の窪みに甘く溜まる。 それでもたっぷりの水分はとどまらず、陰茎や尻の狭間にまで流れていく。 「…お前のはこっちだ…全部…舐めろ」 蔵馬を見つめ、飛影は婉然と微笑んだ。 ***
赤い実の噎せるような甘い香り。蔵馬の長い髪に指を絡め、 体中を舐めまわす温かな舌の感触に飛影は心酔する。 …こうしていると安心できる。 ここ最近ずっと苦しめられてきた、わけの分からない焦燥感やめまいが消えていく。 艶やかな黒髪を引っ張り、自分の体を舐めまわしていた顔を上げさせる。 きれいな髪。 深い深い碧の瞳。 素晴らしく端正な顔立ち。 「飛影?どうしたの?」 笑みを含んだ甘い声。 飛影はうっとりと蔵馬を見つめる。 …これはオレのものだ。 「蔵馬…お前はオレのものだろう?」 傲慢に、それでいてどこか怯えを含んだ問い。 こんなに美しい者が本当にオレのものなのだろうか? こちらを見つめる碧の瞳。 蔵馬はもう笑ってはいない。 …不安になるほど長い沈黙。 飛影の頭の中に、またあの声が響く。 狐のお遊びに舞い上がっている愚か者を笑う声。 「もちろん。オレは君のものだよ」 自分で問いつめておきながら、飛影はその言葉に驚いたように顔をあげた。 「何、びっくりしてるの」 何度も何度も言ったでしょ?と笑う、低くて甘い、蔵馬の声。 先ほどの傲慢さは跡形もなく消え、飛影は真意を探るように、 子供じみた怯えを覗かせて碧の瞳を見つめる。 やれやれ、オレって本当に信用ないんだね、と蔵馬は苦笑する。 「オレは、君のもの。何もかも全部」 もし、君にオレが必要なくなる時が来たとしても…と、 果実の甘い味の残るキスとともに囁かれる言葉。 自分で尋ねておきながら真っ赤になっている飛影を、蔵馬は再びベッドに沈めた。 ***
「ま、こうなるとは思ってたけど」殴られた頭をさすりながら、蔵馬はぼやいた。 ベッドサイドのテーブルに乗っていた精巧な細工のランプは床で粉々に砕け、 磨かれた木枠のひしゃげた窓は、ガラスをぶち壊して出ていった 愛しい恋人のせいで木っ端みじんだ。 三日三晩、あらゆる事をし尽くした。 ところが今朝になったら豹変だ。 昨夜までの甘えた態度はどこへやら、飛影は朝目覚め、 状況を把握するなりわめき散らして飛び出してった。 しかも窓から。 「何にもおぼえてませーん、よりマシだけど…」 大方雪菜が腹の子を片付けたのだろう。 途端に飛影の方も魔法が解ける、というわけだ。 どうやら正気に戻っても、この三日間の自分の痴態の記憶はしっかりあるらしい。 溜め息をついて、床に散らばったガラスを避けながら服を拾い慌てて身支度をする。 飛影が飛び出してどこへ行ったのかはわからないが、 百足の住人たちに夢幻花を使っておかなければ。 そうでなきゃ飛影は永遠に百足に戻れないだろう。 もっとも、と蔵馬は小さく笑った。 きっと… いや絶対に。 夢幻花は躯には効きっこない。 彼が躯にどんな言い訳をするのか…。 どうやらまた百足に忍び込まなきゃらしいな。 蔵馬は綺麗な顔に極上の笑みを浮かべ、 恋人と同じように、割れた窓から身を踊らせた。 ***
その頃百足では、女主人がご機嫌で書類をめくっていた。寝そべった大きなベッドの傍らには、小さなサイドテーブル。 サイドテーブルの上の鉢は、至高の宝石で満たされている。 あの顔、あの声、あの態度。 あいつの、あんな所を見れるとはねえ。 躯は思い出し笑いをし、書類をめくる。 あの狐とできてるとはね。 からかう楽しみができたな。 山と積まれた書類は、下っ端には任せられない厄介な仕事ばかりだ。 だがまあ… と、躯はほくそ笑む。 この鉢の中身と引き換えに、喜んで引き受けてくれるやつが見つかったってわけだ。 あの知略に長けた狐を好きに使えるなんて願ってもない。 書類をバサリと置くと、躯は天井を見上げる。 さて… あいつが戻ってきたら、どうしてやろうか? 至高の石を指先で弾き、躯はもう一度笑った。 ...End. |