好敵手...3

途中、という言葉にカッと頬を染めた飛影の抵抗を無視して、蔵馬は覆い被さりながら言う。タンクトップとベルトがナイフのように鋭い葉で裂かれる。晒された白い肌を、長い指がすべる。

「っ貴様、はなせ!! やめろ!!」

首を、鎖骨をなぞった指が、ぷくりと赤い、乳首を押し潰す。

「ん!殺す…ぞ…やめ」

もう片方も、押し潰す。

「……っん」

慣れた行為に反応する体を見下ろし、狐はほくそ笑む。
体中に強く吸い付き、乳首を噛み、操った蔓で足をさらに大きく開かせる。

「…あ、うあ!」

手できゅっと握っただけで声を漏らす相手を、蔵馬は心底愛おしく思う。
どうしてこれを、人に譲ってもいいなどと思ったのだろう?

「幽助のこと、本気で好きなんでしょ?じゃあ出さないでね」
「……っ!!」

下肢に与えられる感覚から、飛影は必死で逃れようとするが、所詮無駄なことだ。
長い指は小さな雄を育て、いとも簡単に追い上げた。

「あっ、あっ…や、ぁ…あ、あっ!!」
「ふうん。君の幽助への想いって、そんなものなの?」
「や、ああ!…っあ、くそっ…!ああ!! あ……っ」
「…相変わらず、早いね」

蔵馬の右手が、あたたかいもので濡らされる。
ぬるつく右手を飛影の尻の奥に擦り付けながら、蔵馬は笑う。

「携帯、壊すの後にすればよかったな」

電話してさ、今ここに幽助を呼べたのにね?
お尻までベッタベタにして悦んでいる君を、見せてあげたいじゃない?

「幽助のことそんなに好きなら、出さないで我慢すればいいのに。君は淫乱だから無理?」

赤い瞳が、刺すような熱さで蔵馬を睨む。
握られ、揉まれ、棒はまた硬く上を向き始めている。

「おっ勃てておいて、そんな目で睨んでもねえ」

ジーンズの前を寛げ、すでに大きくなったものを引っ張り出し、尻の狭間に突きつける。
きつく締まった小さな穴に先端を押し付け、唇を合わせる。

意外にも、飛影は避けも噛みつきもしない。
ただじっと、寄せられた顔を睨む。

「泣いても、いいよ?」
「泣く…だと…ふざけ…っひ!」

先端が、ぐうっと穴を押し広げる。
指で慣らすこともせず開かれた痛みに、くぐもった悲鳴が漏れる。

「…う、うあ、あ…っぐ」

ぬちゅ、と湿った音を立て、せまい穴はみちみちと開かれる。
プチリという嫌な音は、筋肉の輪が裂けた音だ。

「アアア!! うあ!! ッア!あっ痛う!! うあ!」

痛みを逃そうと必死で息を吐く飛影の全身が赤く染まり、背中は綺麗なカーブを描く。

「やあ、うあ、うう!! あ!あ!……ゆ、ぅ、アアアアアッ!!」

いきなりガツンと奥を突かれ、たまらずに飛影は大声を上げる。

「こんな時に他の男の名前呼ぶほど君は淫乱なの?」
「ア、ウ、アア、アアッ!! ぐう、痛ぅ!ア、ア、ア!!」

白い尻に、すっと一筋の赤が伝う。
月明かりの下、神聖なもののようにさえ見える血を指に絡め、蔵馬は自分の口へ運ぶ。

「…美味しい」
「この、変態、あ、やあ、ああ…ぁっう!! アアッ!!アアッ!!アアアア!!」

動きを止めるどころか、傷口を開くように抜き差しは激しさを増す。
手足を戒めていた蔓がすでに解けていることに、飛影はもう気付くゆとりもない。
強引な性交の相手を幽助だと思い込もうとでもしているのか、目をかたく閉じ、解放された足を、蔵馬の背に巻き付ける。

「……ゅ」
「飛影」

そうはさせまいと、蔵馬は飛影の名を呼ぶ。
相手を別の男だと思い込んで抱かれようなどと、この狐は許さない。

「飛影」

名を呼ばれ薄く開いた瞳は、ひどい痛みのためか快楽のためか、潤んで光る。

「あ、あ、あ、ああ、あ…」
「飛影」
「アアッ!! ン、ア、痛っ、つ、う!んん…う…ゆ、う…っ」
「飛影」
「あ!あ、ん!! ああ、あああ、ひ、ぁ…ゆう…」

無人の屋上に、飛影の呼吸が響く。
激しく長く繰り返される抜き差しに、白い尻は鮮血でぐっしょりと濡れている。

「飛影」
「……うあ…やあ…ぁ……ゅ」
「飛影」
「う……く」
「飛影」
「…ん、ん……アア、アア、ア!…くら…まっ……くらま………蔵馬!!」

流れる汗。赤く染まる目元。
小さな口から発せられる、自分の名。

無意識に長い髪を引っぱる手に満足そうに目を細め、熱い体内に蔵馬はようやく注ぎ込んだ。
***
地上から時折聞こえるクラクション。
屋上を吹き抜ける風は冷たく、ほてった体に心地よい。

膝まで下ろしていたジーンズを引っぱり上げ、蔵馬はマントを裸の体に投げてやる。
赤い瞳にあるのは怒りというよりは、もはや呆れたような蔑みの色。

「……こんなことで、貴様はオレを手に入れられたとでも思ってるのか?」

尻から足へと伝った流れはすでに乾きかけてはいたが、赤黒い跡が痛々しい。
小さな体は、ふらつきながらも毅然と立ち上がる。体にまとわりついているだけの裂かれた服を脱ぎ捨て、マントだけを身に纏う。

「貴様はおめでたいやつだな。…後百年も経たずに、あの女は死ぬ」

いくらお前が策を弄したところで、あの女はいずれ死ぬ。百年など、オレたちの時間ではどうということもない。

「そうすれば、何の障害もない。オレは、幽助を手に入れる」

剣を鞘に収め、飛影は吐き捨てるように言う。

「君は本当に馬鹿だね、飛影」
「なんだと…」

今まさに飛び出そうとしていた屋上の縁から、飛影は振り向く。

「安心して。君がどこへ逃げても、誰のもとへ逃げても」

オレは必ず見つけ出して、捕まえてあげるから。
コンクリートの上にあぐらをかき、飛影を見上げ、蔵馬はにやりと笑う。

「…勝手にほざいてろ」

体重というものがないかのようにふわりと宙にかき消えた、姿。

何もなくなった空間を見つめる綺麗な碧の瞳は、白み始めた空の下、なぜか金色に見えた。
***
小柄な黒い影がまるで空から舞い降りたかのように、ストンと明け方のベランダに降りる。
ためらいなくベランダのガラス戸を引く。それは数時間前と、まったく同じ行程だった。

「遅かったな」

中の男に挨拶に何を返すでもなく、飛影はすたすたと部屋に入り、ベッドに倒れ込むように横になった。

「借りるぞ」
「いいけどよ。靴ぐらい脱げよな」
「…くそ…あのやろう……ケツが痛くてたまらん」
「うまくいったてことか?」

タバコに火をつける横顔は、いたずらをしでかした子供のようだ。

「まあまあ、だな」
「なんだそりゃ」

コートも脱げよ、と言った幽助に、下は何も着ていない、と飛影は返す。

「そりゃ………よかったな」
「ああ」

コートの下からのぞく素足のあちこちに血の流れた跡があることに気付き、幽助がわずかに眉をしかめる。

「大丈夫かよ?痛くねえの?」
「痛いにきまってるだろうが。冷やせば少しはましになる。冷たい水で絞った布でも持ってこい」
「蔵馬のやつ、トチ狂ってんな」
「そうだな。狙い通りだ」

ベッドに横になったまま、飛影が小さく唇を噛み、幽助を見る。

「……くだらんことに付き合わせて…悪かったな」

らしくもない殊勝な言葉を口にした飛影に、幽助は二カッと笑い、冷たい水で濡らしたタオルを差し出し、自分よりも小柄なその妖怪の髪を、クシャクシャと乱してやる。

「いーってことよ。らしくもねえこと言うな」

オレだって、お前の話に便乗させてもらったわけだしな。

タバコの箱の上に無造作に置かれた石は、ボウと光っている。
これで手に入れられなかったら、どうやってコエンマ脅そうか考えてたとこだったんだぜ、などと物騒なことを言い、幽助は新しい煙草に火をつけ飛影に差し出す。
薄明るい部屋の中、煙草の火は場違いに赤い。

「なあ……」
「なんだ」

二人にとって、煙草など何の味も、快楽ももたらさない。
ただ煙るだけの葉をくわえたまま、互いではなく、窓の外を見る。

「そんなに蔵馬のこと、好きなのか?」
「ああ」

短いが、躊躇いのない返事。

「でもよ」

ビールの空き缶で煙草を消し、幽助は続ける。

「散々いろんなやつとやっといてさ、おめーがオレのこと好きだって言った途端に邪魔するなんてよ。性格、悪くねえか?」

びっくりしたように、飛影が振り向く。

「…いや、悪りい。好きなやつのことそんな風に言われるの、嫌だよな」
「蔵馬の性格がいいなんて思ったことは、一度もないぞ」

今度は幽助の方が驚いて、飛影を見る。

「陰険で、計算高くて、意地が悪くて、男にも女にも見境なくて、そのくせ人が離れるとなったら独占したがる、最低な古狐だ」

切って捨てるような言葉。
だが、険のある言い方ではない。
むしろ、なんだか…

「……なのに、好きなのか?」
「好きだ」
「見た目がか?」
「全部。何もかもだ」

だから、あいつが他のやつに触ったり触らせたりするなんて、許さん。
誰かに抱かれるのも、許さん。
オレ以外の誰かを抱くのも、許さん。

もしこの計画が上手くいかなかったら、蔵馬に触れるやつを全員、殺してやろうと思ってた。

子供のような姿をした者が、淡々と吐き出す言葉に幽助は圧倒される。

「…おかしいか?」

子供じみた、上目遣い。
上向いた拍子に、首筋に散らばるいくつもの跡が目に付いた。

「おかしく…ねえけどよ」

人殺したりすんなよ。
またコエンマに捕まっぞ。

「その…そんなやつがさ、いや、つまりさ、蔵馬が…」
「また、他のやつにも手を出すんじゃないかってことか?」

ばつが悪そうに、幽助はまた煙草を取り出す。

「幽助」
「ん?」
「ここからは…」

オレ次第だ。
他のやつなんか見えなくなるくらい、オレだけ追わせてみせる。
絶対に、絶対に他のやつなんかに渡さない。

「絶対に、だ」

輝く赤い瞳。
強い意思。
宿る強い決意。

そして、深い愛。
どうしようもない独占欲と、愛。

幽助はしょうがねえなあ、と笑うと、箱に残っていた最後の一本の煙草に火をつけた。
飛影が帰ったら真っ先に会いに行こうと思っている女の顔を、思い浮かべながら。
***
「蔵馬」

あの日と変わらず、赤い瞳が腕の中から、蔵馬を見る。
応えるこちらは、碧の瞳ではなくなったが、金色の瞳で、やさしく飛影を見返す。

「幽助から使いが来たぞ」

あの女の、三百回忌だとよ。
どうする?行くか?

蔵馬は苦笑し、腕の中の白くなめらかな裸体を撫でる。

「三百回忌?」
「ああ。二夜後に。何千人も集まるらしいな」
「…三百回忌なんて、聞いたこともないぞ」
「適当な理由をつけて、飲みたいだけだろ」

蔵馬の指先が下腹部をかすめ、小さな性器を包み、飛影が甘い吐息を漏らす。

「ん…」
「まあいいさ。行くと返事を出しておけよ」
「あ…あ…ぁ、くら…イ…」

もう片方の手が穴の上をからかうように行き来し、相変わらず小さなままの体が、びくんと跳ねる。

「や、あ……」
「さっさと幽助に使い魔を送らなくていいのか?」
「……ん…後で…いい…から…」
「集まるのは、相変わらずむさ苦しい男ばかりなのか?」

その言葉に、快楽に閉ざされていた瞳が開く。

「男がいようが女がいようがむさ苦しかろうが…何の関係がある?」
「なんだ?やきもちか?」
「…貴様はオレだけ見てればいいんだ」

銀色の髪をぐいと飛影は引っぱり、赤い瞳を眇める。

「何をいまさら…」

狐はおかしそうに笑うと、飛影の尻の奥に指を差し入れる。
昨夜の種が残る、ぬるぬるとしたそこを指先で愛撫する。

「っあ!あ、くら!」
「お前がこんなに嫉妬深いとは知らなかったぞ」
「ん、んん、あ、あ、あっ」
「もう四百年近くも、オレはお前だけ見ているだろうが…」

やわらかく解れている穴を、ゆっくりと掻き回す。
降り注ぐ銀の糸に、飛影が満足そうに笑う。

「…くら…ま、そこ……もっと…強く…」
「まったく…お前みたいな赤子にこのオレが騙されるとはな…」

金色の目は、楽しそうに輝く。

「何度も言っているがな…ン!ァ、騙される方が…アッ…!…悪い。魔界の常識だ」
「…違いないな。すっかりお前に騙された」
「幽助は…ぁ…あ、う…雷禅そっくりになってきたな…ッあ」
「生意気に話をそらしてるつもりか?」

幽助にも文句のひとつも言ってやらなきゃならんな、妖狐の姿で、蔵馬は笑う。
礼の間違いだろ、と飛影もニヤリと笑って、返す。

この日も、次の日も、二人はこの四百年近い間そうしてきたように一緒に過ごした。
二夜後、二人を迎えた幽助もまた、笑っていた。

雷禅そっくりの姿で陽気に酒を飲み、どれほど慕われているのか伺い知れる数の部下や友人に向かって、こいつらが今も一緒にいるのはオレのおかげなんだぜ、と言い放ち、蔵馬を笑わせ、飛影を赤面させながら。


...End.



123456キリリク「現れた恋敵に蔵馬は…?」
りさ様よりリクエストいただきました!
ありがとうございました!(^^)
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