I Love You...2紺色のカーテンは、元々かかっていた物で、蔵馬の選んだ物ではない。重い色合いの分厚いカーテンは好みではなく、そのうち替えようと思いつつ半年経ってしまっていた。 けれど今は、このカーテンが光をほとんど通さないことに、蔵馬は感謝したい気分だった。 やわらかな日差しを、その紺色はほとんど消してしまう。 おかげで秋の午後に似合わぬ薄闇の中、二人はベッドで抱き合っていた。 貪るような蔵馬のキスに、飛影は小さく応える。 首筋や鎖骨に吸い付かれ、ぶるっと身を震わせる。 「飛影…」 「ん…?」 なんでも想像するのと実際は違うものだ、と蔵馬は何やら感心してしまう。 例えば、飛影の背中に回した手で、ブラのホックを外す。 何万回とした想像なのに、意外にも片手でスッと外すというようなスマートな動作ではできない。 自分でもそれがおかしくて、蔵馬はクスクス笑う。 「何がおかしい…?」 「いや…あのね、俺、脳内練習、かなりしてたんだけど」 脳内練習、という耳慣れない言葉の意味を理解し、飛影が頬を染める。 「なのにさ、いざとなるとブラ一つ外せない」 「……変態」 「いいじゃない。脳内で考えるくらい」 両手を使って二つ目のホックがようやく外れ、パサリと軽い音を立てて飛影の膝に白いブラが落ちる。 「…あ」 とっさに手で隠そうとした飛影だったが、蔵馬の手が、やさしくそれを止める。 薄闇に、両腕を体の横に垂らしたままの白い胸が光る。 「綺麗…触ってもいい?」 聞くと同時に、蔵馬の手が、小さなふくらみを、そのてっぺんにあるピンク色の粒を覆った。 飛影が、ぎゅっと目を閉じる。 ゆっくりと優しく、揉み解すように、蔵馬の手は動く。 あたたかく、やわらかなふくらみ。 手の平に感じる、ピンク色の粒。 「……っ」 閉じた唇に蔵馬は何度も何度もキスをする。 唇を開かせ、逃げようとする舌を追い、口の中で絡め合う。 ふにゃりとやわらかかった乳首は、上下を繰り返す蔵馬の手の中で硬く尖って存在を主張する。 「……っ、…!」 そこを、指先で摘む。 コリコリとしたそれを指先で転がし、軽く押しつぶすように動かす。 「……ぁ…っ」 「気持ち、いい?」 蔵馬はからかう気持ちで聞いたわけではない。 本当のところ、初めてすることで戸惑いもあったのだ。飛影に痛い思いはさせたくない、と。 「んん…」 半開きになった飛影の唇を舐め、そのまま首筋を伝い、胸元をかすめて硬くなった乳首を口に含んだ。 「あ!…や、め…!」 コリッと歯を軽く立て、舌で転がすように舐める。 重ねた枕に寄り掛かって半身を起こしていた飛影は、力が抜けたせいでずるずると仰向けになっていく。 「あ…ん…」 乳首を口に含んだまま、蔵馬は飛影のパジャマのズボンも脱がす。 安全ピンで留めただけの大きすぎるそれは、簡単に脱がすことができた。 ブラとお揃いの、白いショーツ。 そこに右手を這わせ、布の上から包み込む。 「あ!何、を…!」 「飛影、足、広げて…」 閉じようとする足を開かせて、蔵馬の右手は布の上から飛影を刺激する。 割れ目の中央に添うように、二本の指で押しながら上下させると、飛影がくぐもった声を漏らす。 「う、あ…ぁっ」 ちょうど膣に続く箇所、そこをぐっと強く押すと、じわっと下着が湿り気を帯びる。 蔵馬の指は、濡れてきた下着の上から、リズミカルにそこを刺激する。 飛影の腰がビクッと揺れるたび、白い下着にじわじわと染みが広がって… 「あ!」 下着の中に、指が入ってきた。 その感触に驚いた飛影は思わず足を閉じかけたが、その時にはすでに足の間には蔵馬の体があった。 「やめ!はな、せ…」 「…濡れてる…」 「…っ!!」 下着の中は、温かくぬるりと濡れていた。 その液体の独特のにおいに、感触に、蔵馬の下肢も熱くなる。 「あ、やめ…!」 蔵馬の指が、白い下着を膝まで勢いよく引き下ろした。 ***
膝の辺りまで下ろされた下着のせいで、身動きが取れない。下着を上げようとした飛影の手は、あっさり押さえられる。 「隠さないで…見せてよ」 「…!っ嫌、だ…あっ!」 蔵馬の指が、ぬるつく狭間を探る。 クチュ、という小さな音に、目を閉じたまま、顔を真っ赤にした飛影が身を捩る。 「んん…っ」 割れ目をなぞっていた指は二本になり、濡れた襞を広げる。 くにゅ、とやわらかな入口を弄り、その奥へ… 「…あっつう!痛っ!!」 「ごめん!」 ズキンと走った痛みに、飛影は思わず声を上げる。 侵入しかけていた指を、慌てて蔵馬は引っ込めた。 「ごめん!痛かった?」 「………っ」 眉をしかめた飛影だったが、深呼吸をし、小さく首を振った。 「…大丈夫、だ…」 「本当に?…ゆっくり入れるから、痛かったら言ってね」 そうは言っても、最初は多少の痛みは避けては通れない。 それは二人ともわかっている。 「…う、…あ…」 蔵馬の指、右手の中指が、ゆっくりと中へ入ってくる。 いつの間にやら膝にひっかかっていた飛影の下着は脱がされ、ジーンズ以外の服を脱ぎ捨てた蔵馬の手で、仰向けにされ、足を広げさせられるという体勢を取らされていた。 「ぅ…あ…」 第一関節、第二関節、徐々に蔵馬の指が熱いそこに埋め込まれていく。 中指の全部がすっぽり納まったのを感じ、飛影はぶるっと震える。 内部を調べるように、解すように、指はゆっくり抜き差しされる。 タンポンさえも使ったことのない飛影は、その異物感に眉間のシワを深くした。 「飛影、大丈夫?痛い?」 「……痛くないわけ、じゃ…ないが…」 「…この辺は?」 「ウアッ!!」 蔵馬の親指が、クリトリスをグッと押した。 「アアッ!んん!」 「気持ち、いいんだ?」 嬉しそうに蔵馬は言うと、執拗にそこを攻める。くりくりと動かされるそこも、あっという間に硬くなっていく。 下肢の蕩けるような感覚に、中を弄る蔵馬の指が二本に増やされたことに飛影は気付かない。 「んあ…」 気持ち、いい、…かも。 そう思い始めた飛影が、固く閉じていた目を薄く開けると、上半身裸で、自分と同じように頬を紅潮させている蔵馬の姿が目に入った。 「くら…ま…」 「飛影…ごめん」 「何を…謝って…?」 「……もう、無理みたい…」 無理? 情けない顔で言う蔵馬に、飛影はキョトンとし、その一瞬後、大きくふくらんだジーンズの股間を見てしまい、さらに真っ赤になった。 ベッドの下から蔵馬が取り出したカラフルな箱に、ジッというファスナーの音に、またもや飛影は目を閉じる。 裸を見られるのがみっともないとか、触られるのが恥ずかしいとか、 そんなことばかり考えていた飛影だったが、自分も見て、触る立場にもなるのだと、ようやく気付いたのだ。 見たく、ない。 さらにきつく、目を閉じる。 蔵馬の…を、見たくない。 見てしまったら、恥ずかしくて、怖くて、逃げ出してしまいそうだから。 「はめにくいもんだね、コンドームって」 その一言に、つい目を開けて、飛影は見てしまった。 「……!!」 あの、あれ、は。 なんで、あんなに大きく? しかも、腹にくっつきそうなほど、上を向いている… 「あ、見たでしょ?」 「…バカ!」 「触ってくれる?」 「……!!」 真っ赤な顔をぶんぶんと横に振り、拒否の意を示す飛影に、蔵馬は笑う。 「何がおかしい!?」 「んー?触ってもらわなくても元気な自分がおかしいな、って」 「変態!」 「飛影を見てたらこうなっちゃっただけー」 「……!!」 飛影の細く白い足。 その膝の裏に手を添えて大きく広げさせ、勃ち上がったそれで、飛影の濡れた割れ目をなぞる。 くちゅん、と音を立てる肉襞は、薄いゴムに包まれた蔵馬の先端に、開き始める。 「あ、あ、あ…」 くちゅん。くちゅん。 濡れた襞を掻き分けるように、肉棒は動く。 「飛影…好きだよ…」 「……ううっ、あ!うあっ!」 先端が、グリッと飛影の中に侵入する。 硬く太いものが自分の狭い入口を押し広げる痛みに、飛影は目を見開いた。 「ア、アアッ!ア、ア…痛う…っ!」 「痛いよね…ごめん、もうちょっとだから…」 蔵馬にとっても初めての性交だ。 自分の欲望を抑えつつ、できるだけ飛影に痛みを与えないようにと、こちらも必死だ。 「痛い!痛…つうっ、ウアッ!」 「飛影、力を抜いて…」 二人の荒い呼吸が、薄闇を震わせる。 蔵馬の腕が、飛影を力強く抱きしめた 「あ!アアアアアア!! …ッンう!アアッ!!」 「う…っ」 何かが裂けるような衝撃とともに、肉棒は丸ごと、飛影の中に納まった。 飛影の大きな目を潤ませていた涙がぶわりとふくらみ、流れ落ちた。 根元まで受け入れた小さな穴は、血を滲ませ、ヒクヒクと痙攣し、蔵馬を締めつける。 「痛っう…あ、ああ…っ」 「ごめんね、やっぱり血が出ちゃった」 ごめん、と何度も謝りながら、震える小さな体を抱き寄せ、蔵馬は頬に、髪に、唇に、涙に潤む目に、キスを浴びせる。 汗をかき、忙しなく上下する二人の裸の胸が、ピタリとくっつく。 激しく脈打つ自分の心臓の反対側、そこにも激しい脈動を感じて、飛影は目を開ける。 蔵馬の、鼓動… それは飛影の鼓動と同じくらい、速かった。 「あ…」 同じ、だ。 蔵馬も、自分と同じくらい、この行為に緊張している。 そうわかった途端、強ばっていた体がふうっと解ける気がした。 「飛影…好きだよ…大好き…」 そう囁く声は、かすれている。 …大丈夫。同じだ。 蔵馬も、俺と同じくらい… 右胸に感じる速すぎる鼓動に、飛影は痛みの中で、少し、笑った。 飛影、と耳元で蔵馬の声がする。 熱い肉棒を納めて痙攣しているそこを宥めるべく、蔵馬がゆっくりと動き出した。 「んっ…!」 ズキン、と局部が痛む。でも… 大丈夫。 蔵馬となら、大丈夫、だ。 「……蔵馬」 口にできない想いを込めて名を呟くと、飛影は覆いかぶさる体に自分も腕を回し、首筋に顔を埋めた。 ***
寝たふり、は、蔵馬には通用しない。それはわかっているが、蔵馬の腕の中で、飛影は目を閉じ、眠っているふりをしていた。 全身が、重くだるい。 セックスが、こんな風に体力を消耗するものなのか、初めてだからなのか、よくわからない。 まだ蔵馬を受け入れていた箇所はズキズキ痛むし、秋だというのに体中汗でベタベタだ。 蔵馬の視線は髪に、顔に、胸にと、寝たふりをしている飛影に注がれる。しかも、毛布の中では、裸の足が、飛影の足に絡められている。 それは飛影にとってちょっと落ち着かない状態ではあったが、もう少し蔵馬の腕の中にいたかった。 ピ、という小さな音に、たった今目を覚ましたかのように飛影は目を開けた。 ベッドのヘッドボードにあるデジタル時計はちょうどの時刻にだけごく小さな電子音を鳴らす物で、それは今が七時であることを表示していた。 「…帰る」 裸の胸を毛布で隠すようにして、飛影は起き上がる。 泊まっていって、と甘えた口調でいう蔵馬の頭を軽く叩き、ベッドから下りた。 「送るよ」 「結構だ」 「送る条件で、服貸すけどな?」 「……お前…!死ね!」 蔵馬が差し出したのは、シャツと、ヒモでウエストを縛ることのできるズボン。 とても外を歩けるような格好ではないが、しょうがない。 雪菜と氷菜が帰ってくる前に、家に着いて着替えなければ。 ***
「こんな所までついてくるな!」玄関の前は木々が作る目隠しのせいで、通りから丸見えの玄関ではない。 とはいえいつ氷菜が帰ってくるかもしれない。土曜日の彼女は、だいたい八時ごろの帰りが多い。 「上がっていって、お茶でも一杯、とかないの?」 「バカ言うな!雪菜や氷菜が帰ってきたらどうする!?」 先ほどとは別の意味で汗をかきはじめた飛影は、帰れ、と近所を気にした小さな声で怒る。 「わかったよ。今日は帰る」 「ああ」 「また明日ね」 「明日だと?」 「制服、月曜日にはいるでしょ?」 制服、という言葉に先ほどまでの行為を思い出し、飛影は赤くなった。 …セックスを、した。 足を広げて、誰にも見せたことのない場所を見せ、蔵馬を受け入れた。 自分の一番近くに、蔵馬は来てしまった。 「明日、取りに行く…」 込み上げてきた恥ずかしさに、飛影は蔵馬から目を反らし、鍵を取り出した。 ふいに、その手を掴まれた。 カチャン、と音を立て、鍵が二人の足下に落ちる。 「おい、なん…」 「飛影、愛してるよ」 しゃがんで鍵を拾ったところだった飛影は、再び鍵を取り落とす。 「なに、を…!」 「飛影、愛してる」 蔵馬も同じようにしゃがみ、飛影と視線を合わせる。 飛影の小さな唇に、蔵馬の唇が重ねられる。 「愛してる。今も、これから先もずっと」 「さ…先のことなんか、わかるか!」 立ち上った飛影は、ガチャガチャと慌ただしく鍵を外す。 二度も間違って暗証番号を押し、ようやく開いたドアに飛び込み、バタンと閉めた。 「じゃあ、明日ね」 笑い声とともにもう一度念を押すと、蔵馬の立ち去る足音がした。 明日。 明日も、明後日も、来月も、来年も。 先のことなんかわからないと叫んだことは間違っていたと、この先長い長い年月をかけて、飛影は思い知らされることになるのだ。 ...End. |