きすにうれる

「…弱くなんかない」

きれいに空になった皿に、スプーンを投げるように置く。

「ただ、嫌いなだけだ」

そう言って飛影はぷいっとそっぽを向いた。
***
散らかり放題だった部屋を片付け、ざっと洗い物を終えた所に飛影はいつも通り、窓から訪れた。

「いらっしゃい、飛影。もっと早く来れば良かったのに。さっきまで幽助たちが飲みに来てたんだよ」
「オレがそれに参加したがるとでも思ってるのか?」

嫌そうに言うと、靴を脱ぎ捨てる。
思った通りの返答に蔵馬は苦笑すると、恋人のために食事を作りにキッチンへ向かった。
飛影はカウンターテーブルの前の椅子に座り、冷蔵庫にあった材料で手際よく料理する蔵馬を眺めていた。

五分としないうちに、キッチンはいい匂いが漂い始める。エビとたまごとレタスの入った炒飯も、鍋の中で温められているインスタントのスープも、美味しそうな匂いをさせていた。

「たまにはいいじゃない?幽助たちも会いたがってたよ」
「オレは別に会いたくない」
「オレにだけ会いたいって事?嬉しいなあ」
「…黙らんと帰るぞ」
「黙ります。ゴメンナサイ」

蔵馬は笑うと、フライパンから皿へ炒飯をうつし、熱くなったスープをカップに注ぐ。

「有り合わせだけど、どうぞ」

目の前に置かれた食事を、何も言わずに飛影は食べはじめる。

「美味しい?」

とか聞いたところで返事がないのはとっくに学習しているのに、いつも一応聞いてみる。
いつも決まって返事はない。
黙々と平らげている飛影を微笑ましく眺め、蔵馬は自分のグラスに先ほどまでの酒宴の残りの酒を注ぎ、もう一つのグラスに烏龍茶を注ぎかけて手を止めた。

「…たまには、お酒にする?」
「……」
「嘘。冗談だよ。お酒弱いもんね」

飛影は本当に酒に弱い。
妖怪のくせに、魔界の酒どころか人間界の酒でもほとんど受け付けない。
あっという間につぶれて眠ってしまうか、気分が悪くなって蔵馬に介抱してもうらうかの、どっちかだ。

それを知っていて、蔵馬は時々こうしてからかう。

「…弱くなんかない」

飛影はそれを認めない。
いつも返答は決まっていて。

「ただ、嫌いなだけだ」

必ず、そう返すのだ。
***
「…まだ飲んでるのか、貴様」

シャワーから戻ってきた飛影は、用意してあったバスローブを羽織ってはいるが、髪からはぽたぽたと水が滴っていた。

「ごめん。もうやめるよ」

蔵馬はソファで本を片手に飛影を待ちながら、グラスを傾けていた。

「おいでよ。髪拭いてあげる」
「…いい。酒臭い」
「そんなに?」

蔵馬は苦笑すると飲みかけのグラスを置き、どこからともなく取り出した小さな白い実を口に放り込んだ。
たちまち辺りに雨上がりの森林のような芳しい香りが漂い、酒のにおいを消した。

シャワーの後は体や髪を拭く、という習慣を身に付ける気のない恋人のために、蔵馬は寝室にもタオルやドライヤーを置いている。

「機嫌直してよ」

そう囁き、ソファに座らせ髪を丁寧にタオルで拭き、乾かす。
そうしたおせっかいな行為を飛影は喜んでいるようにも見えないが、嫌がっているわけでもない。

彼にとって、拒絶しないのは、承諾と同じ。
***
「ん、ああ…あ、…っうぁ…あ、ん」

ちゃんと、ベッドに行ってから始めれば良かったかな。
ソファはやっぱり、狭苦しい。

下準備のために、狭い穴を舌でほぐしてやりながら、蔵馬はそんな事を考える。
髪を乾かされながらうとうとしている飛影がかわいくて、ついそのままソファに押し倒してしまった。

既に一度達してしまった飛影の放った液体は、ソファの所々に染みを作っていた。

上半身はバスローブを纏ったまま、裸の下肢を大きく広げている様は見物だ。

「あ、あ!んん…く、らま…もう…」
「もう十分ほぐれた?」
「ば、か…!」

飛影の放った液体を指に絡め、ヒクヒクし始めた穴にぐっと押し込む。

「うあ!あ…もう、いい…から…」
「まだ指一本だよ?後で痛い痛いって泣いてもしらないよ?」

そう言いながらも、蔵馬は自分も下衣を脱ぎ、挿入するべく姿勢を変えた。

カチャン。

大きく広げられていた飛影の足先がソファテーブルにぶつかり、乗っていたグラスが揺れた。

「あ、いけない」

テキーラが半分ほど残っているグラスを邪魔にならないよう、テーブルの下に蔵馬は置こうとし…
碧の瞳が、よからぬ企みに光る。

「ねえ、飛影。君はお酒の味が嫌いなんでしょ?」
「は、んん…?な、んの話…早く…くら…」

早く挿れてくれ、などと飛影は口が裂けても言わない。
急にまた酒の話を持ち出した蔵馬に困惑の眼差しを向けていたが、次の言葉に凍りついた。

「弱くはないんでしょ?…お尻から飲んだらさ、味なんかわかんないんじゃない?」
***
「バカ!やめろ!! よせっ…!」

たっぷりとテキーラに浸された指が、体内に挿入される。

「うあっ!っ!あああ!!」

瞬間、穴とその奥の粘膜とが、燃えるように熱くなった。

「あっあ!? っ!うあ…や、めろ…」

指が抜かれ、再度テキーラを纏い、入ってくる。
指というよりは、熱した棒を押し込まれたような感覚だ。

「んあ!あああ!」
「…どう、美味しい?下の口から飲むお酒は?」

どう、だと…?

入口である穴はもちろん、その奥の直腸が燃えるようにカッカと熱い。
なのに奇妙な事に、絞られるようなキーンとした冷たさもある。
柔らかな内臓はあっという間にアルコールを吸収し、飛影の体を蕩けさせた。

「あっあっ…んあ、熱いっ……冷た、い……。は…腹の中、が変だ…うあ…」

飛影は涙目で苦しさを訴える。

力がまるで入らない。
手足が自分の物じゃないみたいに、ぐたりとソファに落ちる。

「もう、限界?じゃああと一口で終わりにするね」
「な、あ…もう…む、り…」

聞こえなかったフリをして、蔵馬は飛影の足を持ち上げる。
足が肩に付くまであげさせ、尻の奥が真上を向くよう体を押さえ込む。

「もう、やめ…ほんとう、にやめ…ろ…」
「あと一口だよ。大丈夫。力抜いて」
「ひと…くち……?」

与えられた刺激に口を開けているそこに、蔵馬は二本の指を挿れ、さらに開かせた。
もう片方の手には、酒の残っているグラスがある。

次の瞬間、悲鳴があがった。

指を挿れて開かせた穴の中に、蔵馬が残りの酒を流し込んだのだ。

「うあ!! あ!アアアアア!!」

飛影は顔まで真っ赤になり、体を跳ねさせた。

「アア!っあ!ああ、ああぁ…」
「…気持ちいいでしょ?酔っぱらうのって」
「あ…あぁ」

蔵馬はゆっくり足を降ろしてやったが、酒は殆ど体内に吸収されてしまったらしく、穴から零れ出たのは僅かな量だった。

「飛影、聞こえる?どんな感じ?」
「……あ」

赤い瞳が、膜がかかったように潤む。
先ほどまでの怒りを含んだ険のある表情ではない。

まさに酔っぱらった状態の、トロリとした表情だ。
悪ふざけが過ぎたかと蔵馬がちょっと反省しかけたが…

「………く、らま…早く…早く…挿れ…」
「え?」
「早くしろ!…腹の中が、溶け…そう…お前のが欲しい……早く!」

髪を引っ張られた。
もちろんご要望にお応えするのはやぶさかではない。

「いいよ…息を吐いて…って、ちょっと!」

よろりと起き上がった飛影は蔵馬をソファに押し倒し、その体に跨がった。

「え、ちょっと待っ…」
「待てない!」

そう言うと、飛影は既に勃ち上がっている蔵馬のモノを掴み、自分の穴に押し当て一気に腰を落とした。

「ああぁあ!! …あん…」
「うわ…っ」

二人は同時に声を上げた。

一人は待ち望んだ内部に突き刺さる刺激に。
一人はその内部のあまりの熱さと締めつけに。

「あっあっ!あん!うあ!」

騎乗の体位で、狂ったように腰を振る飛影。
セックスの時に主導権を飛影が取る事など今までなかった。
予想外の状況に百戦錬磨の蔵馬さえ、らしくもなく余裕をなくしていた。

「ちょ、っと…飛影、落ち着いて…あ!」

激しい上下の動きに加えて、飛影は前後にも腰を動かす。
グチョッ、ヌプッ、という卑猥な水音がいつにない速度で奏でられる。

その音をかき消すかのようなあられもない大声で、飛影が鳴いた。
***
「……うぇ…っ」
「大丈夫?」

朝日の差し込むバスルームで、飛影はトイレに突っ伏し、蔵馬はその背中をさすっていた。

「気持ち…悪ぃ……頭が…痛い。なんだ…?」
「二日酔いじゃない?昨夜お酒飲んだから」
「……酒?…記憶にないぞ…」
「結構酔っぱらってたからね。途中でつぶれちゃったし」
「…貴様が飲ましたのか?」
「誘ったら珍しく飲むって言ったじゃない。それも憶えてないの?」

女のように整った顔に天使のような笑みを浮かべて、いけしゃあしゃあと嘘をつく。
降り注ぐ朝日を受けて、蔵馬は艶のある髪をかき上げた。

「……憶えてない…」
「本当に?」

良かった、という言葉はもちろん飲む込む。

「ごめんね。お酒弱いの知ってるのに飲ませちゃって。今日は一日看病してあげる」
「…弱くなんかない」
「嫌いなだけ、でしょ?分かってるよ」

その日一日の、飛影が気味悪がるほどの蔵馬のやさしい『看病』は、愛情が前提にあるのは言うまでもないが、後ろめたさももちろん多分に含んでいたのだった。


...End