合縁奇縁の獣たち...8
酒のグラスに落とした薬はちょうどいい量だった。
醜く愚かな男二人が、三日三晩は目覚めることはない酔いに潰れたのを確認し、オレは酒場を後にした。
髪をかき上げ、フードをかぶる。
艶のある黒髪はつるつるとして、いつもの髪のようにはまとまらずフードからこぼれる。
オレは頭にきていた。
本当にあのガキはガキなのだ。
仕事の前の厄介事などどういうつもりだ。
いらいらしながら歩いてきたせいか、目の前にはもう深い紫の扉がある。
「おかえりなさい」
そう言って出迎えたのは白月だ。
「…蔵馬、なのか?本当に?」
白月からどうやら話を聞いたらしい飛影はオレを訝しげに見る。
「ああそうだ。他の何に見える?」
ガウンを床に放る。
あの馬鹿どもはオレを女だと思っていたが女に化けていた訳じゃない。ただ妖狐の姿では目立ちすぎるから姿を変えただけだ。ガウンのせいで体形はわからなかったのだろう。
「その姿でもあなたは綺麗すぎる。目立ちすぎだわ」
「なにせ元が良すぎて、美しい者にしか化けれなくてね」
笑みを含んだ白月の言葉にオレは軽口を返す。
「どこまでも自惚れたやつだな」
飛影の吐き捨てるような言葉にカチンとくる。
だいたい誰のせいでこんな格好をしていると?
奴隷にこんな生意気な口をきかせておいたのが間違いか?
ふと、いい事を思いついた。
「…ああそうだ、白月、閨での飛影を見てみたいと言っただろう?」
「え?…ええ、まあ」
ちょっとめんくらって白月は答える。
「おい…何の話だ」
こんな面倒をかけておいて、反省の色もなく心底嫌そうな顔をしている飛影。
「白月、ここで見せてやろう」
***
「な、…あ…やめろ…!」
やめろって?
一体誰に言っているオレは?
客間のソファには見慣れぬ黒髪碧眼のままの蔵馬と、なんだかいたたまれないような顔をした白月が並んで座っている。
その目の前の長椅子でオレは…
下衣を脱ぎ捨て足を大きく広げていた。
「あ、あっ、んん…」
自分の指で、自分のものを弄る。
人前でする、自慰。
それが蔵馬がオレに命じた事だった。
情けなさと恥ずかしさと憤りとで頭の中が煮えくり返る。
「どうした飛影?いつもオレがしてやってるようにしてみろ」
蔵馬はいつもと違う碧の眼で、酒を飲みながらしれっと言う。
「くそ…!馬鹿、…野郎!今すぐ死ね!ぅア…」
喘ぎ混じりに毒づいたって何もならない。
その間もオレの手が施す稚拙な動きに前はゆるゆると勃ち上がり始めている。
冗談じゃない!嫌だ!
こんな風に人の前で自慰をしているなんて悪夢だ。
先端から滲み出した液で、手がヌルリと滑る。
滑りの良くなったそこを握り、激しく上下させる。硬くなったそこはドクドクと脈打っている。
「左手がお留守だぞ。先っぽに挿れるつもりで弄るんだ」
無表情な命令に手は素直に動く。
指先を尿道に詰め込もうとするかのように、オレは先端も弄る。
「…痛っ、…んあっ…あっあっ」
嫌だ嫌だ嫌だ!
このままじゃこいつらの前で出…
「あっ、…ん…ああっ!ああっ!」
下腹がぶるっと波打ったのを感じた途端、熱いものが勢いよく吹き出した。
「あ、あ…ぁ」
白月の綺麗な居間の綺麗な濃紫の絨毯に、汚らしく飛び散ったオレの残骸。
蔵馬は相変わらず無表情に、だが白月は明らかにオレを気の毒そうに見ている。
思わず手で顔を隠す。顔を隠すのに手を使えば裸の下肢は丸見えだ。
自殺することができたら舌を噛み切っていただろう。
「飛影?まだ終わりじゃないだろう?後ろが欲しがってるぞ」
姿形が変わっていたって中身はいつもの蔵馬のままだ。
人をいたぶるやり方を心得ている。
蔵馬はオレの足をひとまとめにして持ち上げ、尻の下に厚いクッションを入れた。
抵抗も出来ずに足を大きく開かれ、見ている二人によく見える角度で最奥の穴が晒される。
その真ん前に座りオレの尻の狭間を眺める蔵馬は、冷ややかな笑みを浮かべていた。
「ほら、ヒクヒク動いて欲しがってる。指を挿れてやれ」
「嫌、だ…嫌だ!」
後孔に先ほどの残滓でぬるぬるしている自分の指が押し当てられる。
初めて自分の指で触れたそこはあたたかく、襞をヒクつかせていた。
「あ、ぁ、あ…」
自分の意思に反して指は襞をもみほぐし、穴の中央、ヒクつく襞の真ん中に指が一本差し込まれる。
第一関節、第二関節、あっという間に中指が根元まで納まる。
「ん、んぅ…」
ぐにぐにと痙攣している内部。
初めて自分で触れた内部はびっくりするほど熱く、指を締めつける。
「あ、は、んうう…」
体が熱い。
体内に納まった一本の指はもどかしいような異物感だ。
「ほらほら。白月が退屈しているぞ。もっと指を増やせ。出したり挿れたり掻き回すんだ」
「ダメよ。そんな角度で入れては…」
クスクス笑いながら蔵馬が命じたのと、眉を寄せた白月がオレを止めたのは同時だった。
「うっ!あ!痛っ!」
勢いよく突っ込んだ三本の指は白月の言う通り上手く入らず、中を傷つけ血が噴き出した。
白い長椅子にポタポタと血が垂れる。
「あ!…ぅあああ!」
痛みに穴がぎゅっときつく締まり、指を抜く事ができない。
その間も中を突いた指を伝い、血が流れ落ちる。
流れ落ちた血はオレの尻や手を伝い、長椅子をますます汚していく。
指を抜こうとしても痙攣を起こしている穴がますます指を締めつけるだけだ。
ふいに、どうしようもなく泣きたくなった。
冷たく笑って見ている碧の眼にも、オレを哀れんでいる紫の眼にも。
なによりもこんなことをされて何も出来ずにいる自分に。
「あ…う…」
「こんなことも自分でできないのか?お前は」
いつの間にかすぐ側にいた蔵馬がゆっくりと上衣も脱がし、のしかかる。
目の前に深い海を思わせる碧。
唇に、首筋に、乳首に、下腹に、温かい唇が這う。
その快感に力が抜けた一瞬、蔵馬がオレの指を後孔からグッと引っ張り出した。
「アアアアっ!うあッ!」
グチュっという卑猥な音を響かせ、指が抜ける。
たらたらと血を流すそこは、何かを待つかのように口を開けていた。
「ア、ぁ…く…痛っう…」
「どうして欲しい?飛影?命令はしないぞ。自分の意思で言え」
目の前の碧眼がぼんやり歪んだ事に気付いた。
「泣くほど欲しいのか?」
小馬鹿にしたようなその声に、初めて自分の視界がぼわぼわと歪んでいる事に気付く。
いらない、ふざけるな。お前なんかいらない!
そう叫びたいのに、指を無理やり抜かれた穴は痛みを訴えつつも何かを望んで口を開けている。
ここに、何か挿れて欲しいと、
挿れてぐちゃぐちゃに突いて欲しいと。
蔵馬に入ってきて欲しいと。
…体がそう望んでいる。
そう思った途端、目の前を歪ませていた液体が頬に零れ落ちた。
「あ、……ぃれ…」
「なんだ?聞こえないぞ?」
そう言いながらも、蔵馬は自分も下衣をくつろげ、硬い先端をオレに押し込む。
「う、あ、アア…んん」
広げられた穴には激痛と、そして相反するとろける快感。
内臓がもっと奥へ蔵馬を取り込もうと、収縮し始める。
欲しい。
もっと奥に。
もっと深いところへ。
理性が欲望の膜に包まれる。
…もう何も考えたくない。
「あ…ぃれ、ろ…挿れてくれ!」
口が裂けても言いたくなかった言葉を、オレは黒髪を引っ張って叫んだ。
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