好意送信型ツンデレ

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飛影は【好意送信型ツンデレ】です。
またの名を「私の想いに気付いて…」型。
素直に愛情表現する事を恥ずかしく思い、
相手の前ではつい意地を張ってしまうタイプ。

-ツイッター診断メーカーより「ツンデレタイプ別診断ったー-
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「魔界のことは、よくわかんないけど」

女は、煙草に火をつけ、ふうっと煙を吐き出す。

「黙って何もしないで待ってるだけで手に入るものって、人間界にはあんまりない気がするな」

つぶれ顔の姉だと聞いていた女は、つぶれ顔にはちっとも似ていない。

「…魔界でもさ、そうじゃないの?」
「……何が、言いたい?」
「言ってること、わかってるくせに」

返答に詰まるオレに小さく笑うと、女は去ってしまう。
一筋の煙だけを、廊下に残して。

「……ちっ」

勘のいい、女だ。
言われなくとも、わかっている。

欲しいものが、ある。
だからオレは、ここにいるのだ。

欲しくて欲しくてたまらないものがあるから、ここにいる。
***
蔵馬が、しゃべっている。
蔵馬が、笑っている。

「飛影」

蔵馬が、オレの名を呼ぶ。
低いが甘い、妖しい声で、オレを呼ぶ。

蔵馬が敵を見る、あの冷たい眼差し。
容赦のない、華麗な、技。
敵の返り血が、白い肌に、赤い滴となって落ちる、その様。

その瞬間瞬間に、
息が、できなくなる。

言葉に、視線に、仕草に。
オレがこれほど胸を高鳴らせているなんて、蔵馬が知ったらどうするだろう。

このオレが。オレともあろう者が、
息もできないくらい、焦がれているなんて。
***
貴様のせいでこんな茶番に巻き込まれたのだと毒づいたオレに、蔵馬は苦笑し、肩をすくめてみせた。

ー暗黒武術回ー

このいかれた奴らのいかれた大会に招かれたと戸愚呂に知らされた時、オレの中にあったのは、ただ純粋な、喜びだけだった。
オレは、心底嬉しかったのだ。

まだ、蔵馬と一緒にいることができる。まだ、側にいていいのだ。
そう思うと、舞い上がるような気分だった。

「厄介なことになりましたね」

船を降り、宿泊所に向かう道すがら、呑気にそう言う蔵馬にオレは、貴様のせいだと毒づいてやった。
蔵馬の側にいるだけで、胸の中がふわふわとあたたかいなんて、おくびにも出さずに。

幽助たちがホテル、と呼んだその建物。

「二人部屋だね。じゃあ、幽助と桑原くん。飛影はオレとね」

まるで当然のことのように、オレと蔵馬は同じ部屋で。

「行きますよ。飛影」
「…貴様と一緒か」

頬が熱くなるのをごまかすために、吐き捨てるような言葉を投げる。

「ええ。オレと一緒がいいでしょう?」

見透かすような言葉にドキリとしたが、幽助は騒がしいし、桑原くんとは気が合わないでしょう?という蔵馬らしい言葉が返された。
蔵馬はいつだって、そうだ。
物事が上手くおさまるように、冷静に考えている。

オレが蔵馬のことを考える時とは、だいぶ温度差がある。
***
怪我をしたり、腕を使えなくしてみたりと、順調にとは言い難かったが、まわりの予想に反してオレたちは勝ち進んだ。
幽助はみるみる力をつけてきていたし、つぶれ顔も、オレには意外に思えることだったが、粘り強く、しぶとい強さを見せていた。

「飛影。行こう」
「よせ、飛影」
「飛影」

蔵馬が、オレの腕を引く。
肩に、触れる。

それは、オレを止めるためであったり、単純に呼び止めるためであったり、何気ない動作の一つでしかない。

指先。
手のひら。
その、温度。

息が、できなくなる。

いつだって部屋に戻れば二人きりだというのに、けれども何もできることはなかった。言えることも、ない。
オレは靴だけを脱ぎ捨て、ベッドにもぐる。
蔵馬がシャワーを終えるころには、オレはいつものように、寝たふりをする。

「とうとう、決勝戦ですね」

もちろん、返事はしない。

「寝ちゃったの?」

カーテンを閉め自分のベッドに戻ろうとした蔵馬が、オレのベッドの側で、ふと足を止める。
適当にオレがかぶったふとんを、蔵馬は丁寧に、かけなおす。
肩や首まできちんとおおうように、ふわりと。

「おやすみ、飛影」

明かりが落とされ、やがて隣のベッドから、規則正しい寝息が聞こえ始めた。

どうしたら、いい。
どうすれば、いい?

オレはベッドに起き上がり、大きすぎる窓から差し込む月明かりの中、隣のベッドを見つめる。

こうしていたって、何もならない。
大会を勝ち進んで、勝った。明日はもう決勝だ。
決勝戦が終わったら?何事もなかっかのように、別れるのか?
戸愚呂も、戸愚呂のチームの奴らも、強い。
勝つことすらも出来ずに、オレが、蔵馬が、負けたら?

敗北は、死だ。
背筋にぞくりと、震えが走る。

恐れているのは、自分の死ではない。
自分の死よりも、蔵馬の死を恐れていることこそが、何よりも恐ろしかった。

あの女の言う通り、待っていたって、寝顔を見つめて焦がれていたって、何もならない。
けれど、いったいなんと、告げればいい?

どうしたら…

「ん…」

目を覚ましたのかとビクッとしたが、蔵馬はただ寝返りを打ち、規則正しい寝息は、そのままだった。

明日は決勝戦だ。
今までで一番強い敵と、戦うのだ。
こんなことをしている場合じゃない。

さっき蔵馬がオレにしてくれたように、寝返りでずれた蔵馬のふとんをオレはきちんと肩にかけなおし自分のベッドに戻りかけ…

ふとんごと、蔵馬をぎゅっと、抱きしめた。

勝て。
生き残れ。
そして……オレを…

ありったけの思いを込めて、たったの三秒だけ、オレは蔵馬を抱きしめた。
***
「いい天気」

カーテンを開けた蔵馬は、降り注ぐ日差しにしかめっ面をしたオレに向かって、微笑む。

「…あいつを始末するのには、うってつけの日だね」

蔵馬の言う相手が、鴉を指しているのだとオレもわかっている。
あの黒づくめの薄気味悪い男は、妙に蔵馬に執着していた。

…他人の執着に、とやかく言える立場でもないが。

軽く食事をとり、戦闘服に、オレたちは着替える。
緊張しているなどと認めたくはないが、胸の鼓動はいつもより、少しだけ早い。

「飛影」

外に出るためにドアに手をかけていた蔵馬が、ふいに振り向く。
なんだ、と見上げたオレの視界は、塞がれた。

「…飛影」

自分が蔵馬に抱きしめられていると理解するまでに、数秒かかった。
蔵馬の胸元に、しっかりと、抱きしめられていた。

薄甘い、花の香り。

「……何を…っ」

振りほどこうとしたが、思いがけず、蔵馬の腕は力強かった。

「…昨夜、貴方がこうしてくれたから」

顔から、火が出るかと思った。
恥ずかしくて、情けなくて、試合の前だというのに、心乱されて。

「嬉しかったよ」
「………嘘を…言うな!」

思わず顔を上げると、そこには碧の瞳があった。

森と、海と、空と。
綺麗なものを全部詰め込んだような、蔵馬の碧の瞳。

「嘘じゃ、ないですよ。だから…」

オレの頬を、蔵馬の手がすくう。

「…生きて、この試合を終えよう。飛影」
「オレはっ…オレは問題ない!足手まといは貴様とつぶれ顔だろうが!」

違う。
こんなことを言いたいんじゃない。

どうしてオレは、こんな時にまで。

「………く、ら…蔵馬」
「はい」
「蔵馬!」
「はい」

長い髪をオレは両手で引っぱり、触れるほど近くに、蔵馬の顔を引き寄せる。

「…勝て。蔵馬。無様でもなんでもいい、勝て!」

深く、息を吸い込む。

「死んだら……許さんからな」
「…許さない、の?」

蔵馬が、笑う。
微笑みでも、苦笑でもなく、花のような、笑みで。

「貴方がそう言ってくれるなら…オレは生きる。勝ってみせるよ」

貴方と、一緒にね。
オレたちは、勝てる。
必ず。

蔵馬の言葉は、オレに降り注ぎ、染み込む。

「貴方は…オレのために、勝ってくださいね」

頬に、蔵馬の唇が落とされる。
触れる温度の心地よさに、めまいがした。

「……ああ。オレは勝つ」
「ええ。オレも、貴方もね」
「言っておくが!オレは自分のために勝つんだからな!!」
「もう。素直じゃないなあ」

ま、チーム戦ですからね。ついでに幽助たちにも勝ってもらいませんと、と蔵馬は眉を上げた。
いつもの表情に戻った蔵馬に、オレもニヤリと笑ってみせた。

「行くぞ、蔵馬」
「…唇は、勝利のご褒美に取っておいたんですからね」

バカか、とわめくオレの手を取ると、蔵馬は戦いへのドアを開けた。


...End.



お友達のツイッターの呟きよりお題を勝手にいただきました!(^^)
診断メーカー、なかなか面白いです。