月夜の晩に

「…オレは貴様のことなど何とも思っていない」

赤い瞳を細め、飛影はニヤリと笑う。

「貴様が、オレにつきまとっているだけだ。そうだろう?」

はい、と蔵馬は頷き、微笑む。
今夜は魔界の月も、めずらしくやわらかな光を放ち、天にある。

「…側にいたいと、体を交わしたいと、望んでいるのは貴様だ。オレじゃない」

はい、と蔵馬は頷く。

「言葉も、約束も、オレは何も貴様に与えない。それでもいいんだろう?」

はい、と三度蔵馬は頷く。
碧の瞳は、深海のように穏やかに、深い色をたたえたまま。

そして赤い瞳の望むとおりの、深い愛に満ちていて。

「オレの望みは、貴方の側にいることだけ」

包帯の巻かれた飛影の右腕を取り、蔵馬は指先に口付ける。

「今も、これから先も、永遠に」

…貴方の側に、どうかいさせてください。

言葉の一つひとつが、飛影の耳に、胸に、心に染み渡る。
それを顔に出すまいと、飛影は皮肉げに笑む。

「…フン…馬鹿め」
「なんとでも。…ところで」

今夜は、体は交わせるのかな?
いたずらっぽく首を傾げ、蔵馬は問う。

「……させてやる」

傲慢に聞こえる飛影の言葉も、薄く染まった頬で、蔵馬には真意が伝わってしまう。
もちろんそんなことはおくびにも出さず、飛影の薄い唇に、蔵馬は唇を重ねた。

意地っ張りと手練で。
オトナとコドモで。

足りない凹凸を埋めるように、二人は体を交わし合う。

今も、これから先も。


...End.