シュガートランス

人間界にはさ、と蔵馬は笑う。

「人間界にはさ、綺麗なものがいっぱいあると思わない?」
***
ガラスでできたカップに、綺麗な色の紅茶がほとほとと注がれる。
辺りにたちまち芳香が広がる。
ちょうどいい日に来たね、と蔵馬が嬉々として並べた菓子。

「…食い物を鑑賞するなんてつくづく人間かぶれなやつだな」

ソファにひっくり返っていた飛影はつれなく返す。

小さなテーブルには、色とりどりの菓子。
それは昼間訪ねてきた幽助が、螢子に持たされてきた物だという。
ケーキって言うんだ、と蔵馬は説明する。それは大まかな総称だけどね。

「総称?」
「多分、一個一個に舌を噛みそうな名前が付いてるんだろうけどね」
「名前?」
「そう。綺麗な名前が付いてるわけ」
「…この一個一個に?全部別の名前が?馬鹿か」

そう言いながらも飛影はテーブルの上に惹きつけられている。

つやつやとした果実やそれを取り巻くクリームの層。きらきらした細く繊細な飴細工や、深くトロリとしたチョコレート。それらは飛影の目に奇妙で、それでいてひどく綺麗な物に見えた。

「綺麗でしょ?しかも美味しいよ」
「食い物を綺麗にしてどうする。食ったらなくなる」
「好きなくせに」
「何?」
「飛影は好きでしょ?綺麗なものが」

蔵馬はにっこり笑って首を傾げる。
黒髪がさらさらと肩を滑る。

「だから、オレの事好きになったんでしょ?」

一瞬何を言われたのかわからず、ポカンと口を開ける。

「…お前、どこまでずうずうし…っ」

開いた口に、蔵馬は指先ですくったクリームとベリーを素早く押し込む。

飛影は薄く頬を染め、それでも吐き出すことはせずもごもごしている。こぼれたクリームが、黒い服の上でやけに目立つ。

飛影が怒るタイミングを逃したのをいい事に、蔵馬は次々と指先でケーキ摘み、与える。

いちご、さくらんぼ、ふわふわのスポンジ。パリパリした飴細工、指の温かさにとろとろと溶けるクリームやチョコレート。

何かに魅入られたかのように飛影はそれらを舌で受け止め、飲み下す。
蔵馬の指に、温かな舌の感触。

「美味しい?」
「…甘い」

クリームのトロリとしたぬめりを見せている赤い舌がぼそっと答える。

ただ、食い物を食っているだけだ。
飛影は手の甲で甘ったるい唇をぬぐいながら蔵馬から目をそらす。

頬が熱い。
下肢にもぼんやりとした熱を感じる。

… ただ食い物を食っているだけで、何をオレはぞくぞくしている?

「手がベタベタになっちゃった」

その声に飛影はハッと我に返る。

「知るか。貴様が勝手にしたことだろう」
「まあね。でも…もったいないよね?」

蔵馬は白や茶色や赤でベッタリ汚れた自分の手を眺め、テーブルに残るケーキの残骸を見つめ、笑みを浮かべた。体温で溶けた甘い流れは手の平まで滴り落ちていた。

「ねえ。これ、使っちゃおうよ」
***
甘ったるい匂いで部屋の中は満たされていた。

「やめろ…この…変態っ…」

ヌルリとした手が、執拗に乳首を弄り、腹へすべり、内股をなぞる。
体温で溶け、飛影の体をとろとろと流れていくクリームの白い流れ。
下腹へ下ろされた指は、包み込むように快感の中心を上下する。

「あっあっ…」

いつもと違う感触を喜んでるかのように、飛影のそこは赤く染まり勃ちあがって、クリームと同じくらい甘い蜜を零していた。

「オレね、そんなに甘い物って好きじゃないんだけど」

クリームを舐めとった乳首に軽く歯を立て、舌で転がす。
カリッ、と小さく音がする。

「ん…!ぁ…」
「けど、貴方の体の上で味わうなら、好きだな」

充血した乳首の上に、新しく掬い取ったクリームを乗せる。
あっという間にデコレーションは体温に溶け、卑猥な様を見せる。

「食う…のかヤル…のか…どっちかにしろ!」

潤んだ紅玉が蔵馬を睨む。

「そうだね…飛影、チョコレート、食べさせてあげる」

テーブルの上のチョコレートクリームに長い指を入れ、たっぷりと掬う。

「…い、らん!やめろ!」

何をされるのか気付いた飛影の抗議もむなしく、尻肉が広げられる。長い指が中心の襞を撫で、つぷりと中に押し込まれた。

「ァああ!!」

普段なら抵抗するはずの肉は、ぬるりとした指を楽々と内部に納める。

「…下のお口も、美味しいってさ」

温かな体内で、指をぐにゅぐにゅと動かす。

「ん、あ、い…ああ!」

熱いそこはたちまちチョコレートクリームを溶かし、局部はぬらぬらと濡れる。二本、三本と増やされた指を苦もなく受け入れる。
甘ったるい匂いを放ち、指が激しく抜き差しされる。

「あああ!ん!いゃ…」
「嫌?じゃあもうやめる?」

ヂュポッという大きな音をたてて、そこから勢いよく指が引き抜かれた。

「あああああぁ!」

飛影は体をのけぞらし、もうとっくに勃ちあがっていたそこから吹き出させた。

「あっ、あ…」
「あーあ。クリームと混ざっちゃった」
「…貴様は…!」

涙目の飛影がテーブルに残っていた皿を投げ付けた。

「…食い物ぐらいまともに食えんのか!」

体中をクリームやチョコレートでベタベタにして怒る飛影はなんだかかわいくて、蔵馬はつい笑い出す。

「何がおかしい!」
「いや、ごめんなさい。貴方って…」
「オレがなんだ!」

蔵馬はこれまたベタベタの手で、飛影の顔をはさむ。

「…食べちゃいたいくらい、かわいい」

今度はオレの食べる番ね。

まだまだ、この夜は長い。


...End.