全てを君とぐつぐつ煮える大きな鍋からはダシのいい香りがする。よしよしと小さく頷き、幽助は蓋を閉め、屋台の下部の棚から取り出した雑誌を開く。 暑くもなく、寒くもない。雨さえ降らなければ、年に何ヶ月もないいい季節だ。 開店時間までは小一時間ほどある。カラフルでけばけばしい雑誌を開き、幽助はページをめくる。 夢中になりかけたその瞬間、よく知る小さな影が目の前に降り立った。 ***
「よお」ニカッと笑い、片手を上げた幽助の目の前で、飛影はしかめっ面をする。 飛影の視線の行方をたどり、どうやら自分の持つ雑誌らしいと気付き、幽助は笑う。 「なーに見てんだよ。おめーも読むか?」 差し出されたページには、丼か?と言いたくなるような巨乳がある。嘘っぽいピンク色の大きな乳首はつんと立ち、女はとんでもないポーズで扇情的な目つきをし、こちらを仰いでいる。 目を見開き、すぐに汚らわしいものでも見るように眉をしかめ、さっさとしまえ、とでも言うように舌打ちをした飛影に、幽助は大人しくヘイヘイと従い、雑誌を元通り客からは見えない棚に戻す。 「食うか?」 聞きながら、幽助の手は返事を待たずに麺を一玉取り出した。 ゆるく沸いていた鍋の火を強くし、ザルを取る。 「…お前、あの女と別れたのか?」 背もたれのない椅子にひょいと腰掛けた飛影の足は、地面に付いていない。 いつものように大きな刀を背中に背負ったまま、屋台に肘をつき、相変わらず大きな目で幽助を見ている。 「別れたぁ?誰が?」 「お前だ。あの人間の女と」 「螢子と?いや、相変わらずよ?」 ぐらぐら沸き立った湯に麺を放り込み、幽助は首を傾げる。 「別れてないのか」 「別れてねえけど。なんだよ、誰情報なんだよ」 「なら、なぜあんな物を見ていた?」 丼にタレをひとすくい。茹で上げた麺を盛大に湯切りした所で、幽助はようやく、さっき見ていたエロ本のことを飛影は言っているのだと気付く。 「なーに言ってんの飛影ちゃんは。あんなのただの本だろ」 「裸の女だ」 「いやまあ、そうだけどよ」 裸の女、という硬い語感で言われると、とんでもないことをしでかしたような気分に一瞬幽助は陥る。 「あの女と別れたから、他の女を見るんだろう?」 「いや~、それとこれとは別といいますか、ねえ?」 スープを勢いよく注ぎ、サッとかき混ぜ、すべらせるように麺を入れ、ネギにナルトにメンマにチャーシューというシンプルな具を手早く乗せる。この店のチャーシューは一枚と決まっているが、仲間が来た時には幽助はいつも三枚乗せてやる。 「何が、別なんだ?」 パチンと割って差し出してやった箸も受け取らず、眉間に皺を寄せる飛影に幽助は内心肩をすくめる。 これじゃあまるで、面倒な彼女みたいだ。 「別だっつの。ほれ食え。冷めるだろ」 幽助を睨んだまま、それでもラーメンのいい匂いにつられて飛影は箸を取る。 器用ではないが、そうひどくもない箸使いで麺をすすりはじめた。 「お前なあ、あれは実際にいる人間だけど架空のもんなの。ファンタジーよ。現実の相手とは別なんだって」 「どうして別なんだ?」 かじらずに一枚そのまま頬張ったチャーシューで口をもごもごさせながら、飛影は問う。 「別なの。わかってないねー」 「わからん。お前の女はお前があんな物を見ていて怒らないのか?」 「は?見つけたらめっちゃくちゃ怒るに決まってんだろ。ぶん殴られるわ。だからここで読んでんだろ」 「怒るならやめればいい。あの女のことを好きならどうして見るんだ?」 あれは何?これは何?どうしてどうして? 面倒な彼女というよりは、訪ねてきた親戚の子供みたいになってきた。 「子供だなー。飛影は」 カチンときてたちまち眉を吊り上げた飛影を宥めるかのように、幽助は飛影のラーメンにもう一枚チャーシューを入れてやる。 「あんなもん、男なら誰だって見るって」 「誰でも?……桑原もか?」 飛影の声に紛れもない怒りが滲む。 それはそうだ。かわいい妹の側をちょろちょろしているだけでも目障りなのに、好きだの愛してるだのと散々ぬかしておいて、他の女の裸を眺めているなど飛影には到底許せない。 自分もチャーシューを口に放り込み咀嚼しながら、うーんと幽助は考え込む。 「…いや。桑原のヤローは多分見ねえな。あいつはそういう所、潔癖だからな」 「お前は汚れているのか」 「いやいやいや、オレは普通。桑原は異常。なんてったって雪菜ちゃんにベタボレだからなぁ~」 飛影が嫌がる話題だとわかっていて、幽助はニヤニヤする。 そもそも今夜、飛影が人間界にいるのだって、桑原家に住んでいる雪菜をのぞきに来たのだろうと、幽助は見当をつけている。 「なら……蔵馬は?」 「蔵馬か~。うーん、どうだろう。あいつってつかめねえよなぁ」 人間の女になんて興味がないとか涼しい顔して言いそうな感じもするし、エロい物、山ほど持っててもおかしくない気もするし、持ってるとしてもすげえ巧妙に隠してそうな気もするし。 「でもあいつすっげえモテるらしいからな。ファンタジーじゃなくて生身を取っかえ引っかえだったりしてなー」 ガハハ、と笑う幽助に、飛影は冷たい視線を返す。 「…蔵馬は、お前のような俗物じゃない」 「いやいやいや、飛影ちゃんよ、ああいうタイプが一番変態なんだって」 「違う」 「だって何千年も生きてるんだろ?フツウのエロで満足できねえんじゃないの?」 「……違う。お前と一緒にするな」 「おっ、かばうねー。やっぱ親友だねー。今度よ、あいつの家で飲み会とかしてオレらでこっそり探そうぜ。ぜってーあるって」 あいつ酒強えーから潰すの大変そうだよな。オレ、自慢の酒持ってくぜ。 目を輝かす幽助と対照的に、飛影の目はみるみる暗く沈んでいく。 「おい、飛影?」 いつもなら飲み干すスープを半分ほど残し、足のつかない椅子からひょいと降り、ビルの狭間の暗がりに飛影はサッと消えた。 ***
いつでも来て。鍵はあなたのために開けてある。 蔵馬の言葉通り、今日も窓の鍵は開いている。 ベランダへ降り立った飛影は土足で家に入り、入った瞬間それに気付き、蔵馬が教えたようにきちんと靴を脱ぐ。 テーブル、ソファ、本棚、大小さまざまな植物の鉢。 窓の反対側にはキッチンがあり、ダイニングテーブルに椅子、冷蔵庫や電子レンジといったごく普通の家電が並んでいる。 短い廊下と玄関を通り、ドアの向こうは小さな寝室だ。 白い寝具のダブルベッドに、部屋の片側には、ここにもいくつかの植物。二畳ほどの広さのクローゼットの扉。 ベッドの側の小さなナイトテーブルには、蔵馬の手製のトロリとした油の入った瓶が、澄ました様子で鎮座していた。 丸みを帯びた瓶ときちんと整えられたベッドに、飛影はそれを使った五日前の夜を思いだし、微かに頬を染める。 コートと刀を床に置くと、もう一度飛影は部屋をぐるっと眺める。 大きな窓からは、暮れていく空が紫とオレンジに染まり始めている。 何事かを決めたかのように飛影は小さく頷くと、まずは並んだ枕を放り投げた。 ***
「ただい…」ま、の言葉が蔵馬の喉の奥で消える。 大して広くもない玄関は、下駄箱の靴が全部放り出され、足の踏み場もない。 長い足で優雅に靴の群れをまたぎ、蔵馬は廊下に着地する。 向かって左はトイレとバスルームのドアが並び、右手は寝室、正面はリビングというどこにでもあるような1LDKの間取り。角部屋のおかげでリビングにはベランダが、寝室には大きな窓があるのが蔵馬は気に入っている。 「えー………と?」 なんだこりゃ。 呟くように言うと、蔵馬はネクタイを緩める。 蔵馬はそう散らかす方ではない。というより割に片付いた部屋で暮らしている方だ。しかし電気を付けた今夜のリビングは、まるで台風直撃のさなかに窓を開け放っていた部屋のようにも見えるし、空き巣に散々荒らされた部屋のようにも見えた。 空き巣、が入るわけもない。盗賊が泥棒に入られるなどお笑い草だ。 常に窓の鍵を開けたままのこの部屋は、人間など侵入できないようにごく簡単な結界が張ってある。 それに。 「飛影?」 いることはわかっていた。 最寄り駅に降りた瞬間から、彼の妖気を感じていた。 クッションは放り投げられ、ラグは丸められ、全ての本が引っ張り出され、冷蔵庫の中身までダイニングテーブルの上で汗をかいている。 植物の鉢はひっくり返り盛大に土をこぼし、主である蔵馬に、なんとかしてくれと恨みがましい視線を送っているようだ。 「飛影ー?」 上着とネクタイをソファの背に放り投げ、蔵馬は廊下を渡り、寝室のドアに手をかける。 同じように盛大に散らかった寝室では、夜風が吹き込む開けたままの窓辺に、飛影がちょこんと腰掛けていた。 「飛影?」 風に短い髪を乱したまま、飛影は振り向く。 出会ってもう何年も経つ。何度も体を重ねた。 それでもまだ、振り向いた瞬間の飛影の子供っぽさの残る頬、小さな口、生意気そうな赤い大きな瞳に蔵馬は魅せられる。 「ただいま、飛影。ところで…」 両手で曖昧に部屋の中全体を指し示し、蔵馬は尋ねる。 クローゼットの中身も引っ張り出したのか、そう多くもない二人分の服がばらまかれていた。蔵馬がネクタイを結ぶために使っている、ちょうど上半身が映るサイズの鏡も外され、無造作に床に置かれている。割れなかったのは幸いというところか。 「これは何?どうしたんだ?」 むすっとし、ふてくされたようなその顔。白い手が土で汚れているのは、植木鉢をひっくり返したからだろう。 どこから手を付けたものかと蔵馬は肩をすくめ、取りあえず剥がされ放り投げられたシーツを拾う。 「飛影?」 「…うるさい。お前はいつでも来ていいと言っただろう」 「もちろん。いつでも大歓迎だよ」 いつでも来ていいというのと、部屋をめちゃくちゃにしてもいいというのは違う気もするが、子供の沸点は低い。 カラフルな蛇のように横たわる何本かのネクタイを拾い上げ、スーツを元通りハンガーにかけ、パジャマやシャツを拾い集める。窓辺に座ったままの飛影の視線を感じながら。 「……蔵馬」 「はい」 「どこに隠している?」 面食らって、蔵馬は床に散らばる衣類から顔を上げた。 「隠した?何を?」 「………本、とか」 「本?」 本棚は居間にしかない。そこにはごく普通のありきたりな人間界の本が綺麗に並べられていたはずだ。 人間には読むこともできない魔界の本、薬草の栽培方法や煎じ方を書き記し蔵馬が自分で綴じた本などは、ほとんど魔界の隠れ家に保管している。この家のクローゼットに隠した木箱の中にも百冊ほどあるが、それも全部引っぱり出され、床に散らばっている。 「人間界にある本は居間にある物とこれだけですよ。何か欲しい本があった?」 「…そういう…本じゃなくて」 飛影らしくもなく歯切れが悪い。 蔵馬と目を合わさずに、ぼそっと呟く。 「どういう本なんです?」 「…幽助が持っているようなやつだ」 「幽助?漫画本とか格闘技雑誌とか?」 「違う!」 急に声を荒げた飛影に、蔵馬は服を拾い集める手を止め、立ち上がった。 初夏の夜風が乱す、短い髪。 子供らしいまるみの残る頬に手を滑らせ、顔を上向かせる。蔵馬は飛影を真っ直ぐ見つめた。 「ちゃんと言ってごらん、飛影」 「……裸の」 「裸の?」 「…裸の女とか…の」 「エロ本ってこと?」 飛影の眉間の間のしわが深くなる。 子供っぽい顔に不釣り合いなしかめっ面に、蔵馬は吹き出す。 「持ってませんよ」 「嘘つくな。幽助がお前なら絶対に隠し持ってると言った」 「なるほど」 それでこの、空き巣に荒らされたような有り様というわけか。 「これだけ散らかすには結構な時間がかかったと思いますけど、残念ながら持ってないです」 「嘘だ」 「じゃあ、オレがそういう本を持っていたとして、それが何か?」 この家中を片付ける面倒を思えば、少々意地悪をしたくなるというものだ。 飛影がいつでも幽助の言葉をすぐに信用するのも、自分をすぐに疑うのも、蔵馬は気に入らない。 「持ってるんだな?」 「それはつまり、オレにそういう物を持っていて欲しくない、というあなたの願いと受け取りますけど、いいですか?」 「ちが…」 「オレにそういう物は見て欲しくない、自分だけを見ていて欲しいということで?」 「うるさい!!」 白い肌がぼわっと赤くなるのはいつ見ても見物だ。 これ以上追いつめれば窓から飛び出して行ってしまうだろうと、手練れの狐は手をゆるめる。 「飛影?このまま帰ろうたってそうはいかないよ。片付け手伝ってくれますよね?」 部屋を見渡し、チッと舌打ちをした飛影だったが、さすがに疑って部屋中をひっくり返した挙げ句にこのまま帰るというのも気まずかったのか、大人しく床に降りた。 ***
幽助の言うことなんか信用するんじゃなかった、という思いと、見つからないような場所に隠しているだけじゃないか?という考えが飛影の頭の中をぐるぐるめぐる。オレは先にリビングを片付けてきますから、と言って蔵馬が消えた寝室で、飛影はいらいらと自分がばらまいた本を木箱に戻す。 何かの蔓を乾かして作ったらしい紐で紙を束ねた古い書物は、中身を確かめるまでもなくその手の本ではない。整然と箱に詰められていた本は、適当に戻しても綺麗に納まらない。続きは蔵馬がやればいいと、本の整理を諦め、飛影は散らばった服に手を伸ばす。 シャツ、ズボン、パジャマ、下着、靴下。 積み上げられた自分と蔵馬の二人分の服に、飛影は溜め息をつく。 畳むのが面倒そうな靴下やボタンの付いた服を押しのけ、畳みやすそうな白い布を手に取る。 白い長方形の大きな布はシーツで、蔵馬がするように、角と角を合わせ、二つに畳んだ飛影はふと手を止める。 「…?」 白いシーツには点々とえび茶色の染みがある。 クローゼットの引き出しの中に入れるのは、洗濯をしてある清潔な服や寝具ばかりだということは飛影ももう知っている。 汚れ物を綺麗なものと一緒にしておくなど、蔵馬の性格からは考えられない。引っぱり出した時に自分が付けた汚れだろうかと、飛影は染みをまじまじと眺め、注意深く、においを嗅ぐ。 どれほど時間が経っても間違うことはない、それは血のにおいだ。 部屋をひっくり返している最中に自分が付けたのだろうかと飛影は訝しんだが、今は体のどこにも、出血しているような傷はない。 けれどこの血は、馴染んだにおいだ。近しい者のにおいとしか思えない。 シーツに顔を埋めたまま、飛影は首をかしげる。 「何してるの?」 ふいに真後ろからかけられた声に、飛影はビクッとシーツを放す。 「いつも言っているだろうが!気配を断って近付くな!」 「何言ってるんですか。あなたが夢中になっていたんですよ」 手早くリビングを片付けてきたらしい蔵馬が、やれやれと肩をすくめる。 「全然片付いてないじゃないですか。ほら、手を止めない」 「蔵馬」 染みの付いたシーツを掲げ、飛影は尋ねる。 「洗ってないぞ、これ。この血はなんだ?お前の血じゃないようだが」 「ああ、それ。それは洗ってなくていいんですよ」 飛影の手からシーツを受け取り、蔵馬は笑う。 「あなたの血ですよ、これ」 「オレの?」 どうりで馴染みのあるにおいだと納得しかけ、そもそもなぜ洗わずに置いてあるのかと、顔を上げ、問いかけようとした飛影は、碧の瞳の光に口をつぐむ。 「…蔵馬?」 「これ、憶えてませんか?首縊島のホテルのシーツなんですよ」 「首縊島…?」 不思議そうに細められた赤い目が、次の瞬間、見開かれた。 白い頬がカアッと染まり、蔵馬の手からシーツを奪い返す。 「この…っ、変態!」 「どうして?あなたがオレと初めて繋がって流した血ですよ。大切な記念品だ」 手のひらに小さな炎を呼び起こし、染みの飛び散る布に近づけた飛影の手から、蔵馬は素早くシーツを取り返し、飛影のこぶしを包み、火を消した。 「馬鹿!! 返せ!」 「だーめ。これはオレのですよ」 「何を…!」 頭に来て掴みかかった飛影の腕を捉え、床に散らばったままの服や本を足で素早く押しのけ、空いたスペースに蔵馬は飛影を押し倒し、覆いかぶさる。 押し当てられる唇。 舌先が唇をこじ開け、歯をなぞり、舌を探す。 深い森の中にいるような、蔵馬のにおい。 覆いかぶさる蔵馬の長い髪が頬をくすぐるのに首を振り、なんとか押しのけようと飛影は手を伸ばす。 「ん……む、んん!ぁ…どけ!」 「こら。人間界では騒がない。炎もだめ。いつも言ってるでしょう?」 「貴様がどけば済む話だ!」 「ねえ、飛影。あなたは本当に何もわかってないね」 「何が…」 蔵馬の右手がタンクトップの中に滑り込み、脇腹を撫で上げ、左胸を覆う。 襟元の開いたワイシャツから覗く素肌に、飛影がごくりと喉を鳴らしたのを合図に、長い指先が乳首を摘んだ。 かるく引っ張り、こねるように指先は動く。 「…っ!」 「幽助には悪いけど、女にも男にも、興味はないよ。もっと言えば妖怪にも人間にも。オレは…」 硬くなりかけた乳首を、蔵馬の指先がぎゅっと押しつぶす。 「あ!」 「オレはね、あなたに出会った瞬間から、あなたにしか興味がないんだよ」 「っ、あ、待っ…」 タンクトップの中から手を引き抜き、蔵馬は飛影の体をひょいと抱き上げる。 抵抗する間もなく、シーツもない剥き出しのマットレスに小さな体を座らせ、ズボンを足首まで素早く下ろした。 「待…てと、言っ…っあ、うあ!」 足の間に頭をくぐらせ、膝を割るように広げ、蔵馬は顔を埋めた。 足首に絡むズボンが邪魔で蹴り上げることもできず、飛影はただ背をのけ反らせた。 くちゃくちゃと音を立て、蔵馬の唇が舌が歯が幼い雄を追い上げる。 「あっ…あ、あ、あ…っ」 「幽助の持っていた本では、人間はどんなエロいことしてました?」 「んん、あ、あ…」 「ね、オレが想像の中であなたにどんなことをしているのか、聞きたい?」 「……あ、うあっ…聞き…た……っ、ない…!っあ!!!」 「…相変わらず、早いね」 ちゅぱ、と音を立てて先端を吸い、蔵馬は微笑む。 「……く、ら…っ」 「どんなことをしてるかって言うとね、あなたが想像できないようなことまで、ですよ」 ***
「…あっ…あっ…あっ、く…あ……っくら…」 ***
「…怒ってます?」 |