ウサギと狐

「ははあ。…これは予想外だなあ」

空になった飲み薬の瓶を持ったまま、蔵馬は意外そうに言う。

「…何がだ?」

ひどく不機嫌な、飛影。
しかし自分で言い出した事なので、さすがにぶち切れるわけにもいかないらしい。

「貴方なら絶対に猫だろうと思ってたんだけど。黒い猫」
「知るか!貴様の勝手な想像だろうが!」

飛影は怒声を浴びせたが、あまりインパクトはない。
それは、彼の逆立ったような黒髪から突き出している、白いふわふわの長い耳のせいかもしれない。

「あはははははは!耳も尻尾もふわっふわ~」
「笑うな!!」
「ウサギ耳、かわい~」
「うるさい!! さっさと行くぞ!」
「尻尾、まんまる~。ズボン、穴開いちゃってるよ」
「殺すぞ!!」

はーい、と笑いを押し殺した間延びした返事をすると、蔵馬は移動用の小さな円陣を地面に描いた。
***
事の発端は、先週の話だ。

「飛影、欲しい物ある?」

いつも通り部屋を訪れていた飛影に、蔵馬はそう尋ねた。

来週、魔界に行くんだ。
昔からの馴染みの競売があってね。
いろんな武具や妖術の道具なんかが出るんだ。

欲しい物があったら競売にかけずに先に売ってくれるって言うからさ。長い間幻になっていた名剣なんかもたくさん出るから、欲しいのあったら買ってきてあげるよ。
何か探している物とかない?
霖晶は変わったやつでね。魔界、霊界、人間界をあちこち回って自分の気に入った物を集めて売ってるんだ。

「…馬鹿か貴様。欲しい物があったら自分で盗む。妖狐蔵馬ともあろう者が落ちぶれたもんだな」
「霖晶の競売は別。彼の収集物はなかなか手に入るような物じゃないんだよ。妖狐だって欲しい物があれば、買ってた」

そこまで言われれば、剣の使い手として飛影も興味を持たざるを得ない。

「…人に選んでもらっても合うかどうかわからん。オレも行く」
「だーめ。貴方は連れて行けない」
「何…?」
「貴方は入れないから」
「なぜだ?貴様が入れて、なぜオレがだめなんだ?」

飛影の眉間にシワが寄る。

「貴方は獣属じゃないから。霖晶の競売は獣の妖怪しか入れない」
「なんだと?」

会った事もないやつから、門前払いを食らうのは面白くない。

「…お前だってそうだろう?妖狐に戻るのか?」
「ううん。このまま。このままでもオレは狐な事には変わりないからね」

欲しい物ある?という質問が再度投げかけられる。

「オレも行く。何とかしろ」
「そう言われても。ルールなんだよ」
「誤魔化せばいいだろう?お前の得意な事じゃないか」
「ひどい言われようだなあ…」

まったく無茶ばっかり言うんだから。
そう言って困った顔をした所で、結局のところ飛影の頼みを断れる蔵馬ではない。

それで結局、こうなってしまったわけだ。
***
16層にあるその小さな森は、全体が巨大なテントのような布…しかも半分透けている…に包まれた、不思議な空間だった。
入口は一つしかなく、そこには山のように金や宝石が積まれている。

「…あれはなんだ?」
「入場料。お金を払わないと入れない」
「入るだけで?」
「そう」
「お前は払わなくていいのか?」

黙って入口を素通りした蔵馬に、飛影が訝しげに問う。
だが、入口に立っていた二匹の狼は、何も言わずに二人を通した。

「オレはいいの。霖晶に許可をもらってるから。ところで、体はなんともない?」

長いウサギ耳を撫で、蔵馬が尋ねる。

「触るな。…この姿だと妖力は落ちるな」
「それはしょうがないよ。変身は肉体に負担をかけるからね」
「…音は、いつもより鮮明に聞こえる…」
「ウサギだからね。伊達に耳は大きくないよ」

他は、大丈夫?
蔵馬の問いかけに、飛影はなぜか頬を薄く赤らめ、別に、とそっけなく返した。

「そう。なら良かった」

この森に張られたテント、不思議でしょう?
外から透けて見えるけど、入口以外の場所からは入れないんだ。
結界も、一級品だよ。
破れるやつはそうそういない。

だって、昔、オレが作ったんだもの。

「お前が?」
「昔からの馴染みだって言ったでしょう?だからオレは入っていいんだ」
「…ならここから盗む事も簡単だろう?」
「もー。骨の髄まで盗賊だなあ。今日は盗む事は忘れてよ」

蔵馬は嘆く。

「あのね、オレは霖晶の物は盗まないんだってば」
「……」

飛影はなんだか面白くない。
今の蔵馬はともかく、妖狐だった頃なら約束もへったくれもなく、欲しい物を思うがままに手に入れていたはずだ。

なのに律義にそいつの物には手を出さないとはどういう事だろう?以前にそいつと何かあったのだろうか?

……面白くない。
ふわふわの耳を揺らしながら、飛影はまた不機嫌になる。
***
だが、そのひらけた空間に出た途端、飛影は自分が不機嫌だったことを一瞬忘れた。

ずらりと並ぶ、武具。
剣や盾、弓矢。

名剣と名高い物、今では伝説となってしまった幻の弓などが無造作に並べられている。そこには、以前に探していた物もいくつもあり、飛影は思わず舌打ちをした。

「…こんな所にあったのか…」

価値は莫大だろうに、木の床に無造作に並べられていた。
コエンマが見たら発狂するであろう、霊界の所有物であるはずの名品もいくつもある。

ざっと見渡すと、武具は宝石や金を嵌めたりした装飾的な物はあまりなく、実力重視な物が多い。
霖晶とやらのコレクションは、飛影の好みに妙に合っている。

隣の部屋は妖術の道具らしく、何人かの気配がしたが、この武具の部屋には二人しかいない。

と、飛影は思っていたのだが。

「霖晶、相変わらず武骨な剣ばっかりだね」
「剣に宝石付けてどうすんの。いらないでしょ。重いし」
「姿は変わっても、中身は変わらないねえ」

飛影は思わず身構える。

誰と話してる?
部屋にはオレたちしかいないのに…?

「お連れのウサギさん、誰?初めましてだよね?」
「あ、そうそう、紹介するね。オレの恋人。えーと…」

誰が恋人だ!と怒鳴ろうとした飛影は、振り向いた蔵馬の影に隠れていた変な生き物を見て目を丸くする。

「…なんだ、それは」
「霖晶だよ」
「……巨大な…ネズミに見えるが」
「違うよ。ハムスターでしょ?」

蔵馬の膝まで届くか届かないかくらいの生き物は、頷く。
よく見れば、魔界のネズミとは違い、かわいらしい顔をし、尻尾も短い。

「はむすたー?」
「ええとね、人間界のネズミみたいなものかな…」

霖晶どこでハムスターなんか知ったの?
でもハムスターにしちゃ大きすぎるよ?

蔵馬の質問に、人間界でこの生き物を見かけて気に入ったから、最近ずうっとこの姿。でもこれ以上小さいとお茶も淹れられないし、と返事が返される。

霖晶はつぶらな瞳で飛影をじっと見つめる。

「あれ?…君、見覚えあるな…ええと…躯のとこの…あ、思い出した!飛影でしょ?知ってるよ」
「あ、バレちゃった?ごめんね。ダメなのは知ってるんだけどどうしても見たいって言うから」
「しょうがないなあ。今回はいいよ、蔵馬のお連れさんなら。でも、ここにいる間はウサギだからね。こんばんは、ウサギさん。ゆっくり見てってね」
「あ、ああ……」

そう言うと、霖晶は隣の部屋の客の所に走って行ってしまった。

短いふかふかの足で。
***
半時ほどして戻った霖晶は、別室で二人に酒を勧める。

「どうぞどうぞ。飲んで」

パキ、カパ、ポリポリモグモグ。

霖晶は一時も手を止めない。自分は酒も飲まずに木の実を食べる。
頬っぺたを一杯にし、ポリポリモグモグひっきりなしに食べている。

パキ、カパ、ポリポリモグモグ。
パキ、カパ、ポリポリモグモグ。

ごっくん。

割る、開ける、食べる。
延々と続くその繰り返しに、飛影は目まいがしてきた。

これだけの名品を集めるくらいなのだから、見かけによらず名うての盗賊なのだろう。蔵馬の説明によれば、ちょくちょく姿も名前も変えているのであまり素性は知られてないらしい。
手合わせしてみたい気もするが、相手はふわふわのネズミだ。
しかも笑ってないのに笑っているような顔をしている。

「欲しいのあった?」

これほど口の中がいっぱいなのに、なぜ喋れるのだろう?

「オレはこの香炉と水盤。値はいくらでもいいよ。飛影は?」
「オレは…」

飛影の持ってきたのは、細身で小ぶりの刀。
手にしっくり馴染み、大きさも重さもちょうどいい。色も黒一色に鞘だけがくすんだ朱という、そっけなさも気に入った。
それ以上にこの刀とは、相性、みたいなものが、ひどく合う。
一度握っただけですぐに分かった。

「これね。いい剣だよ。何に使うの?」

首を傾げて霖晶が尋ねる。

「何に…?」

剣を何に使うかとはおかしな質問だ。
木の実を割るのに使うとでも思ったのだろうか?

あまりに美味しそうに食べているので、飛影も木の実を一つつまんでみた。

「お尻に入れるの?」
「…っぐ!」

驚きのあまり、噛む事を忘れて木の実を飲み込んでしまった。

「飛影!ちょっと、大丈夫!? 」
「ぅ、ぐ、げほっ」
「まったくもう、霖晶ったら何言い出すんだよ?」

霖晶のつぶらな黒い瞳は、キョトンとしている。

「だってこの子、ウサギになってるじゃない」

飛影を見て、簡潔に言う。

「ウサギだから、なんだってんだ!?」
「交尾、大好きでしょ?」

絶句。

「……は…?なんだと…!? 貴様なんの話をしている…!?」
「ウサギってさ、かわいいんだけど一年中発情期なんだよね」
「ちょ…霖晶!!」
「年中無休で発情期の動物ってウサギだけだよね。以前一緒に何匹かと暮らしたんだけど、朝から晩まで交尾ばっかりしたがるから困っちゃった。蔵馬も大変だね」

ほんとに一日中カクカクしてるんだよねえ。子供が産まれる産まれる。ウサギ屋敷になっちゃったよ。
ポカンとする二人を尻目に、霖晶はそう言うと、またもや木の実を食べだした。

「蔵馬…貴様…!…そういうつもりでオレをウサギにしたのか!?」
「え?違うよ!なんの動物になるかはわからなかったんだよ!」
「信じるか!この嘘つき!変態!!」

またもや木の実でほっぺたを膨らませた霖晶が、おかしそうに言った。

「飛影、君がエッチなんだよ」

凍りつくような、空気。

ふさわしい動物に変身しちゃうからね、あの薬は。
君、相当好き者なんだよ。蔵馬のせいじゃない。

蔵馬を庇うつもりで霖晶が言った言葉は、完全に飛影を逆上させた。

「…っ!ふざけるな!! オレは帰る!」

部屋を飛び出してった飛影を、慌てて蔵馬は追いかけようとした。

「あ、いけない。香炉と水盤、それからこの剣買うね、いくら?」
「いいよ、持ってって。今度、結界を張り直しに来てくれれば。三百年分で手を打つよ」

わかった、また来るよ。
バタバタしててごめん。

「気にしないで。早くウサギさんを追っかけなよ」

短い手を振って、霖晶は笑った。
***
とっくに姿形もないだろうと思っていたが、意外にも飛影は森の外にいた。

「飛影~。そんなに怒らないでよ」
「…戻せ」
「え?」
「今すぐオレを元の姿に戻せ!」
「…ごめん、それは一昼夜は戻らないんだ」

みるみる眉を吊り上げた飛影を見て、蔵馬は焦る。
白い長い耳まで、ピンと立って怒りを表している。

「時間が経てば戻るから…この剣あげるからさ、機嫌直して」

普段なら、いらん、と怒鳴って姿を消すだろうに、飛影は無言で剣を受け取った。
どうやら相当気に入ったらしい。もっともウサギの姿のままで、どこに行けるわけでもないが。

「ね。百足にもそのままじゃ戻れないからさ。近くに宿があるから」

ご飯のすごく美味しい宿なんだ。
だから、今日は泊まって、明日元に戻ったら帰ろうよ。

フン、とそっぽを向いたものの、このまま百足に戻っては、躯に大笑いの種を与えるだけだ。
そう考え、飛影は大人しくついてきた。
***
どうりで…
どうりでおかしいと思った!

蔵馬の後ろを歩きながら、飛影は頬を赤くした。

この…ウサギの姿になってから…変な気分が続いていたのだ。

…したくて、したくて、たまらなかった。

下腹部や尻のあたりが妙に重たくて熱くて…
…あんな名剣が山ほどある場所にいる時さえ、蔵馬の方に視線を奪われた。

誰が年中発情期だ。
あのネズミ、ふざけやがって…。

先払いの宿の支払いを済ませた蔵馬が、振り向く。

「おまたせ。一番上の階だって」

行こう、と手を差しのべられる。
蔵馬の手。蔵馬の指。

それが自分の足を割り、前を育て、後ろの穴を濡らす、その行為への期待に喉が鳴る。

あの指で握りしめられしごかれて…
あの指が穴を広げてかき回す…

その後は…

いつの間に最上階の部屋に着いていて、何かを話しかけられている事に気付いて飛影はハッとする。

「飛影、聞いてる?先に階下の店でご飯食べ…」

香炉と水盤の入った袋を、床に置こうとしている蔵馬に、飛影は後ろから抱きついた。

「ちょ、え…何?どうしたの…?」
「………」
「…あ」

ひどく熱い体。
想像だけですでに硬くなり始めている飛影の股間が、蔵馬の足に当たる。

「…したいんだ?」
「………」
「今すぐ?」

返事はなかったが、抱きつく腕が強さを増した。

「いいよ。…エッチなウサギさん」

真っ赤になって俯いた飛影の顔を上向かせ、蔵馬は笑ってキスをした。
***
「…かーわいい。ふわふわ」
「…ぅるさい!黙れ…」

裸になった尻には白いまんまるのしっぽ。
短い黒髪から突き出す長い耳。

首筋に、胸元に、小さく噛みつくようなキスを落とされる度に、そのふわふわのしっぽが、長い耳が、ビクッと揺れる。

「あ…ん…ああ…」

やわからかな内股を蔵馬の舌が伝う。

「あ!…ああ…くら…ちょっと…待、て…」

ベッドに押し倒され、蔵馬の下になっている飛影は、尻をもぞもぞと動かす。

「どうしたの?」
「しっぽ、が…ん…つぶされて…痛い…」
「ああ、そっか」

じゃあ、こうしようか?
蔵馬は軽々と飛影の体を抱き上げ、ひっくり返す。

「あ…?それ、は…嫌だ…っ!」

四つん這いにさせられた足の間に、蔵馬が寝そべる。
自分の股間の真下に、蔵馬の顔があるというこの体勢は飛影が苦手とするものだ。

「いいじゃない。硬くなってるここも…」

言いながら、蔵馬は勃ち上がった先端をぺろりと舐める。

「ああ!! んあ!アアアアっ!!」
「ヒクヒクしてるかわいい穴も…」
「ん!あ!ああ!」
「ゆらゆらしてるしっぽも、全部見えるよ」

絶景、と蔵馬は笑う。
そして、反り返って密を垂らすそこをくわえ、軽く歯を立てた。

「い!やめ…いや…だ!…ヒッ!」

シーツに爪を立て、崩れ落ちそうになる体をなんとか支える。
舌が棹を上下する度に、歯が先端を掠める度に、抑えきれない嬌声が上がる。

蔵馬は自分の中指を舐めると、丸いしっぽの下の薄赤い入り口をその指でぐっと押した。

「あっ!あ!!」

入口はいともたやすく口を開け、蔵馬の指をぐにゅっと飲み込んだ。
しっぽが、その刺激にビクンと上がる。

温かくうねる、濡れた内部に指がゆっくり侵入する。

何度交わっても、その最初の異物感は薄れない。
排泄できない異物に戸惑う入口と、快感を求めて更に奥に挿れて欲しいと渇望する、内部。

「あああ!っん!…く、ら…」
「ねえ、飛影……して」

言われた言葉に、飛影は耳を疑う。

「な…ん、だと…?」
「腰を落として、って言ったの。オレの顔にお尻を乗せる感じで、腰を落として。穴も舐めてあげるから」
「バ…カ言うな!できるかそんな事!」

この体勢で、腰を落とせだと!?

「この変態…い、あ!」

蔵馬の左手は、相変わらず前をしごき、飛影が射精しそうになるのをみては、寸前で根本を掴んで阻む。

「あっつう…痛っ!放せ…」

逃げ出そうにも、前を掴まれ、後ろに指を挿入されたままではそれもできない。

「強情なウサギさんだね…」

蔵馬は穴から指を抜き、両手で前をしごいてやる。
その動きは滑らかに力強く、とても堪えきれなかった。

「あ!アアアアアッ!!」

張っていた下腹が大きく波打つ。
熱い液体が尿道を通り、一気に噴き出した。

やっと放出することができた反動で思わず力が抜け、飛影はたまらずに腰を落とした。
***
「ん!んん…!」

顔に付くか付かないかまで落とさせた飛影の尻を支えた両手は、大きく肉を割り開く。
次の瞬間、体内に潜り込んできた舌の感触に、放出したばかりで萎えていた前は、みるみる勃ち上がる。

ぬめぬめと出入りする舌に、蕾はあっという間に花開き、自ら濡れ始める。

「あああ!も、うやめろ…やめ…」
「力を抜いて…指も挿れるよ…」

舌が解したそこに、中指、人差し指と薬指が加わり、ずぶっと差し込まれた。
小さな穴は襞をのばし、真っ赤に充血している。

敏感な入口の筋肉は痙攣し、その奥の腸壁は貪欲に指を欲する。

自分から誘ったこととはいえ、自分の体が制御できないという事に、飛影は恐怖すら感じる。

「いいか、ら…!もう、いい…」
「充分解れた?挿れてもいいって事?」

言葉で人を嬲るのは、蔵馬の得意技の一つだ。
羞恥に顔を真っ赤にする恋人が、楽しくてしょうがないのだ。

「いいよ…今日は後ろから挿れるよ…」

再び四つん這いにさせられた飛影の後ろから、蔵馬が覆い被さる。

「ね?獣同士の交尾にはふさわしいじゃない?」

頼むから、黙れ。
そう言ってやりたかったが、飛影の口からこぼれるのは、淫らな喘ぎ声と糸を引いてシーツに落ちる唾液だけだ。

穴が、うずいてうずいてしょうがない。
早く挿れてくれないと、自分の指でも突っ込んでしまいそうだ。

「くら…ま!は…やく…っ」
「ウサギさんは本当に好き者なんだから…もう我慢できないの?」

我慢できるはずはないのは蔵馬が一番よくわかっている。
指を抜かれた穴はぽかっと口を開け、直腸の紅色までも見せている。

「あ…っく…」

潤みきっていた飛影の瞳から、涙が溢れる。
待ちくたびれた穴の周辺はビショビショに濡れ、ふわふわだったしっぽも濡れそぼっている。

「ヒッ!」

穴に、熱くて硬いもの…蔵馬の陰茎…が押し付けられる。
その熱さに、自制の効かない下半身は驚喜し、自ら腰を動かして硬いそれを穴に押し込んだ。

ぐちょっ、ぬぷっ。

卑猥な音を立て、飛影の穴は蔵馬を半分ほど飲み込む。
長い耳はその音さえひどく鮮明にとらえてしまう。

「ああ!ああああ…んあ…っぐ…つう…」

…もう、動けない。
体に力が入らない。
痛い。

痛いのに、もっと欲しい。
もっと奥を犯して欲しい。

「蔵…ま、あ…」

その思いを込めて、相手の名を呼ぶ。
背中に覆い被さる相手は、クスクス笑っていた。

「…もっと、奥に挿れて欲しい?」

もう何がなんだかわからなくて、頭の芯が痺れるように熱くて、飛影は小さく頷いた。

「挿れて欲しいんだ?」

頷く。

「お尻の穴の、もっと奥の方へ?気持ちよくなる、あの場所に?」

頷く。

「それで…抜いたり、挿れたり…して欲しいんだ?」

頷く。

「前も、もっと弄って欲しい?」

頷く。
もう頭がクラクラして、何も考えられない。

頭上で、小さく笑う声がした。

「いいよ。なんでもしてあげる」

その言葉と共に、ぐうっと肉棒が押し込まれる。

「あっあっ!アアアアン!」
「ほら、気持ちいいんでしょ?お尻の穴が、ぎゅうぎゅう締めつけてるよ…」
「あん!あ、あ、あ、ああ!」

律動が始まり、飛影は自らも腰を振る。

パン、パン、という互いの体が打ち合わされる音。
抜き差しされる尻の穴は、ぐちゃぐちゃと汚らしい音を立てる。

何度も何度も、穴を擦り、最奥を突く。

「あん!あん!うあっ、あ!っあっ!!」
「まだ、だーめ。ほら、気持ちいいでしょ?」
「あ!あん!も、無理…切れる…壊れる…っ」

赤い瞳に涙を溜めてウサギは首を振るが、狐は容赦なく直腸を抉る。
懇願も鳴き声も聞こえないかのように、何度も何度も、肉壺が腫れ上がる程に激しく突く。

その時間の長さは、飛影には永遠にも感じられた。

「あ!あん!あっ、あっ!やめ…アアア…っ!!」
「もっと頑張って。お尻をもっと振って。君はウサギでしょ?」
「い、あ、うあ!アアアアアっ!! うあああぁああっ!」

長い、長い絶頂。

熱くドロリとした液体が、同時に二人を満たした。
***
「目、真っ赤だよ」
「……」
「まあ、瞳は元々だけど」
「……」
「泣きはらした赤い目ってのも、そそるね」
「……」
「聞いてるのー?」
「…貴様は黙って食えんのか!?」

飛影の手の中にあった、木のフォークがバキッと割れる。

結局夕食もとらずに夜通し絡まり合って、朝を迎えた二人…もしくは二匹…は、朝食をベッドの中でとっていた。
ウサギが、尻が痛くて椅子には座れない、と言ったからだ。

長く白い耳は昨夜の疲れを表現するかのように、くたっと垂れている。

「耳、くたくただねー」
「……誰のせいだ」
「あ、これも美味しいよ。食べて」
「……」
「さっきから果物と野菜しか食べてないじゃない?」

二本目のフォークが折れた。

「うるさい!! 黙れ!食いたくないんだ!」
「…あ、そっか。ウサギだからだよ。ウサギは肉も魚も食べないからね」

新しいフォークを手渡し、自分はこんがり焼けた魚を食べながら、蔵馬が笑う。

「ねえ、オレってさ、ウサギにとっては最高の飼い主じゃない?」
「…何がだ」
「果物も野菜も、好きな物を好きなだけすぐに育ててあげるよ。それに…」
「それに…?」

年中発情期のウサギでも、喜んでお相手できるけどな?
だからさ、もうちょっとそのままウサギでいたら?

目を輝かして言う蔵馬の目の前で、
三本目のフォークが音高く折れた。


...End