one's fate

「…いつからだ?」

飛影がそう呟いた。

いつもなら返事は決まっていて、
うるさい、か、黙れ、だった。

もっとも返事がある方が珍しく、黙殺される方がはるかに多いのだが。

なのに。

「好きだよ、飛影」

蔵馬にしてみればそれはいつも通りの、数え切れないほど口にした囁きで、それに対する返答を求めていたわけではないのだが。
だが思いがけなく返されたその言葉に、行為の後始末をしていた手を止めた。

「え…?」
「…いつからだ?」

飛影はもう一度、蔵馬に問う。

両足はゆるく開かれて、体内に放たれた液を掻き出す蔵馬の指に、時折小さく震えていた。

蔵馬の一瞬の沈黙を戸惑いと取った飛影は、薄く嘲笑う。

「…散々好きだのなんのと抜かしておいて、答えられないのか?」
「……」
「適当な嘘ばかり言っているからだ」

思い出す、たくさんの時間。
だが、どの場面でも既に、この赤い瞳に捕らわれていた気がする。

一体、いつ……?

温かい内部でぐるりと指を回し、蔵馬は記憶を辿る。

「ん…っ」

熱を含んだ吐息。
潤む赤い瞳。

…ああ、そうか。

だからオレは、あれほどまでに生きる事に執着したのか。

すっかり空にしたそこから、蔵馬は指をゆっくり引き抜いた。

「生まれる前から、だよ」
「…寝ぼけているのか…貴様…?」

紅い瞳が睨め付ける。

この瞳。

霊界に追いつめられたあの時、
どうしてあれほどまでに死にたくなかったのか、今わかった。

「貴方に、会う前から。最初から好きだった」
「何をバカな事を言…っ…っあ!」

後始末とは違う目的で、蔵馬はまたもや指を差し込む。
抗議の声とは裏腹に、そこはきつく指を銜え込む。

「やめ…っ」
「…好きだよ、飛影」
「っん」
「最初から。…出会う前から好きだった」

いつか彼がそれを信じてくれるまで、彼の側で言い続けよう。

蔵馬はそう決意し、小さく笑った。


...End