Once more please!!

「…大丈夫?」

まだかすかに乱れている呼吸。
耳元で囁かれた言葉に、我ながら恥ずかしくなるほど大きく頷いてしまったオレに、蔵馬はにこっと笑う。

「そう。良かった。おやすみ」

いつの間にか床に落ちていた薄い毛布を蔵馬は引っぱり上げ、オレの肩まで包み込む。
髪を撫でられ、抱きしめられたまま…。

「……ぇ?」

拍子抜け、した。

これだけ?
一回だけ、なのか?

腕の中にオレをおさめたまま、蔵馬は早くも寝息を立てている。
冴えてしまったままの頭で、熱さの抜けない体で、オレはその寝顔をぽかんと眺めていた。
***
大丈夫?という質問を、オレはもっとしてもいいか、という意味に取ったのに。
ベッドと毛布と蔵馬のあたたかさに包まれたまま、暗がりでかっちり目を開けてオレは考え込む。

なんだ、こいつ。

一回でおしまいなんて、そんなのありか?
人間はみんな、そうなのか?
オレは全然、まったく、もの足りない。つまらない。

ずいぶん前から、蔵馬としてみたかった。
ようやく誘ってきたのが今日のことで、オレはもちろん誘いに乗った。

これで下手くそだったのなら、こっちからもう願い下げだが、すごく上手かったのだ。

舌で指で手のひらで、舐められ噛まれいかされた。
オレの中にみっちりおさまった肉は、大きいけれども大きすぎず、ほんとうにちょうどいいサイズだった。
気持ちよくてたまらないが、これ以上強くしたら痛くなる、そのぎりぎりの境目をなぞるような蔵馬のセックスは、すごくいい。
何より、顔は元々ものすごく好みなのだし。

なんだ、こいつ??

片肘をついて体を起こし、人の気も知らずのほほんと寝ている男を見下ろす。
ぶん殴ってやろうか、などと考える。

…イライラする。
空腹でたまらない時に、すごく美味い料理を、ほんの少しだけ食べさせられたような?
かえって空腹感が増しただけ、のような?

毛布をそっと落とし、音を立てずに服を拾い上げた。
***
行き先を決めていたわけではない。ただなんとなくここにいるのは癪で、いつものように窓から外へ出る。
オレがベッドから抜け出し服を着ている間も、それどころか窓を開けても目を覚まさないまぬけを置いて、夜の人間界に飛び出した。

人間界の夜に本当の闇はないということを、オレはもう知っている。
たくさんの明かりが星のように一面にきらめき、今夜も空を照らしていた。

いくつかの屋根を飛び越え、どこかの屋上に降りる。
目の前には蔵馬の住み家と同じような、マンションとやらが建っている。

たくさんの窓。窓。窓。
明かりのついた窓もあれば、真っ暗な窓もある。明かりがついてはいるが、布で覆われ中の見えない窓もある。
人間たちの入った小さな箱。山ほど積み重ねられた箱。よくもまあ、こんな狭苦しい所に密集して住んでいるものだと、奇妙な感心をしてしまう。

明かりがつき、布で覆われた部屋の中で人間の影が動く。
…この箱のいくつかでは、さっきまでオレたちのように交わっている人間もいるのだろうか。

ふと、思いついた。
覗いてみればいいのだと。

再び宙を飛び、ひとつの部屋のベランダに降りる。
見つかることのないよう、中の人間からは死角になる場所に立つ。

中にいるのは、老いた女と男だった。互いに触れるでもなく、喋るでもなく、大抵の人間が持ってるというテレビとかいう物に釘付けだ。
その真下の部屋へと降りる。家具の少ない部屋では、どことなく桑原を思わせる大柄な男が、これまたテレビを見ながら、一人で飯を食っていた。

目当てのものは、九つ目の部屋で見つかった。
明かりの消された部屋は、人間の目には暗いのだろう。だが、オレにとっては問題ない。
高い所にあるせいなのか、この部屋では窓を少し開けたままだ。

汗をかき、身をよじり、男と女は交わっていた。
小さく声を上げる女と、動物のように腰を振る男。お世辞にも利口そうには見えない、馬鹿そうな男と女。
涎を垂らし、髪を振り乱す女は本当にみっともない。

…まさか、オレもあんな風だったのか?
つい先刻の自分を思い出し、少々気恥ずかしくなってきた。

だめ、などとほざきながら、女もまた上になり下になり、腰を振る。
うめき声とともに、男はガツガツとひたすら貪っていた。

ガラス窓に額を押し付け、絡まる二匹をオレは見つめる。
***
時計というものを持っていないオレには、どのくらいの時間だったのかはわからない。
自然と力が入っていたらしい手をガラスから引きはがすと、指先には跡が残っていた。

ベランダにしゃがみこみ、思わずため息をつく。

馬鹿そうな男は、馬鹿そうな女と、三回も、した。
三回もして、もう一回しようとしたところで女に今夜はもういいと怒られ、しぶしぶ諦めた。

ーオレが、女じゃないからか?
いや、蔵馬に言い寄る女はいくらでもいた。男も。なのにあいつからオレを誘ったのだ。

ー蔵馬のやつが、弱っちいのか?
かも、しれない。半妖のくせに。人間の男だってあのくらいできるのに。

ーオレが下手くそだったのか?
…かもしれない。久しぶり、だったし。舐めるのとかは、苦手だし。自分からどうこうするのも、苦手だし。

ーオレの体が気に入らなかったのか?
………かも…しれない。

背後で窓がカラカラと閉まり、オレは飛び上がる。
知らない人間の家のベランダにいることをすっかり忘れてた。

いまいましさに舌打ちをし、そこを離れた。
***
蔵馬の部屋に戻ってみれば、なんとなんと、やつは眠りこけたままときた。
オレが消えた気配にも気付かず!? のうのうと!?

頭にきた。
靴のままずかずかと部屋に入り、毛布を力いっぱい引きはがし、頭を叩いてやる。

「……いった!…ん?飛影?」

眠そうに目をしょぼつかせながら、蔵馬がオレを見上げる。

「あれ…飛影。どうしたの」

お前が一回しかしないから、頭にきて起こした、などといえるはずもない。
なんと言おう?

「……腹が減った」
「あ、そう…。何か作るよ」

ベッドのそばに落ちている服を拾い、下だけを身に付けた蔵馬は、そこでようやくちゃんと目を覚ましたのか、オレを振り返る。

「あれ?なんで服着てるの?」

靴まで履いちゃって。家の中では靴は脱ぐんだって言ったでしょう?
ほら、靴は脱いで。サンドイッチかなんか作ってあげるから。

そんなどーーーーーでもいい蔵馬の言葉に、心底腹が立つ。

「うるっさい!!!!」
「な、なに、飛影。どうしたの?」
「どうしたもこうしたもない!! お前が悪い!」
「え?ええ?どうしたの?あ、もしかして…」

困ったような顔をし、蔵馬がオレを見る。

「良く、なかったとか?」
「そうじゃない!!」
「お尻、痛い?」
「そうじゃ!ない!そうじゃなくて!!」
「そうじゃなくて?」
「………短い!!!!」
「なんてこと言うんですか!普通サイズですって!」
「違う!! その短いじゃない!! 馬鹿死ね!!」
「ちょ、落ち着いてくださいよ」

真夜中に。
乱れたベッドのわきで、大声で。
そしてこの内容のくだならさ。しょうもなさ。

何をしてるんだ、オレは。
我に返り、脱力する。

「…もういい!」
「もういいって…待って」

窓にかけた手を、蔵馬につかまれた。
振り払おうとした瞬間、裸の上半身、長い髪、碧の瞳に、胸がどくんと脈打つ。

「待って飛影。何怒ってるのか、教えて…」

この男は、顔もいいが、声もいい。
深くて甘い、染みるような、声。

「飛影?」
「……足りない」

うんと背伸びをして、どうにか首に腕をまわす。
温度に、においに、めまいがする。

「…貴様はあんな……たった一回で足りるのか?」

蔵馬が目を見開いた。

「飛影…?」
「オレが欲しかったんじゃないのか…?ん?一回きりとはお粗末なもんだな」
「…へえ。ずいぶん…挑発してくれるじゃない?」

笑みを浮かべた蔵馬の長い髪を両手で引き、唇を重ねた。
タンクトップの下に手が滑り込んでくる。背骨に添うような指先の動きに、くすぐったいような痺れが走った。
***
競うように服を脱ぎ、まだぬくもりの残るベッドに二人して倒れ込む。
夢中で舌を絡め、互いの体のあちこちに手を這わせた。

すでに硬くなっている蔵馬に、嬉しくなってしまう。
もう前戯はいらない。早く、入れて欲しい。

口に出して言ったわけでもないのに、どうやら蔵馬には伝わったらしい。
碧の目を細め、ニヤッと笑うと、蔵馬は太ももの内側に強く吸い付きながら、尻の奥に指を進める。
さっきしたのと同じように、油のようなものを絡めた指が、ぐっと差し込まれる。

「…ん、ふ!」

ちゅぽんと音を立て、根元まで中指を飲み込む。
中を探るように、指がぐるっと円を描くように動く。

「…あ、は…ぁ、んん」
「油、いらなかったかもね?中にまだ、オレの種が入ってるみたいだけど」

蔵馬の言葉通り、指が差し込まれた場所からじわりとあたたかいものが滲む。
人さし指も押し込まれ、中をかき回される。二本の指は一緒になって動いてみたり、ばらばらに動いて穴を広げたりと、休みなく動く。

「ひ、ぁっあ!んあ!っぁ」

広げられた中に、息を吹きかけられ、腰が跳ねる。
触られてもいないのにぐんっと天井を向いたものを、蔵馬は食べ物か何かのように、ぱくりと口にする。

「っあ!ああっ…ん、ひあ!ん、く」

舐め回され、甘噛みされ。
その間も穴を刺激する指は、動き続け、いきなり引っこ抜かれた。

「ふ、ぁぁあ…」

全身が浮き上がるような感覚とともに、あたたかい口の中に射精した。

「あああぁぁあ、ああ…ん」
「大きな声、出しちゃって…」

くすくす笑いながら、蔵馬はオレの両足を持ち上げ、さらに大きく広げる。
尻の穴を蔵馬の真ん前に見せつけるような体勢に、さすがに恥ずかしくなる。

「ひくひくしてる…小さくて…綺麗なピンク色」

ねっとりと舐められ、下腹がぶるぶるするのを止められない。
少しざらりとした舌が、穴を舐め、そのまま上へ進んでいく。萎えていたものが、たちまち起き上がる。
もう一度口でして欲しかったが、先端までつうっと舐め終えると、蔵馬は口を離してしまう。

「……くら…」
「だめ。後はこっちでいきなさい」

その言葉に“こっち”がひくっと開くのが自分でもわかった。

「あ、開いたよ」
「…うるさ、い!! もっ…う、いいから…んん、ひあ」

硬く太い蔵馬のものが、尻の間を行き来する。
待ち望んでいる穴の上をわざと通りすぎ、大きく何度も、行ったり来たりを繰り返す。

「あっ、あっ、あ、ああ、くら、く、らま…!」
「何?ちゃんと言ってよ」

体液と、油とが、ぬちゃぬちゃ音を立てる。
外の空気を感じるほどに穴は広がって、蔵馬を飲み込みたがっている。

「く…らま…!蔵馬!!」
「オレ、遠慮してたんですよ?」
「な、にが……ああ、あ、そこ、も、う…!」
「あなたが…処女みたいに大人しく抱かれてるから、最初くらい…一回で勘弁してやろうかな…って」

オレほどではないが、蔵馬の呼吸も熱く乱れ始めている。忙しない息遣いに、蔵馬がオレと同じくらい興奮していることが、わかる。
熱に潤む目をなんとか開き、覆いかぶさる男を睨みつけた。

「く…ら、んんん、ん、あ、もう、ごたくは、いっ、イア!」
「なのにまだ…こんな元気が…あったなんて、ね?」

だめだ。もう。
我慢できない。
自分の指でも突っ込んでやろうか。

下肢にそろりと伸ばしかけた手を、ぴしゃりと払われた。

「っひ、あ」
「こら。自分でするのは、今度ゆっくり見てあげるから。今夜は…」

硬い先端が、穴の上でぴたりと止まる。
期待に、喉が鳴る。

「…こっちで…いって」
「っふ!あ、ふ!アアアァァアアア、ンア!」

ぐぶぐぶと、尻の中に腹の中に、硬く熱い肉が満ちる。
自分の腹の上にぴしゃっと降りかかった精液で、二度目の射精に気付く。

「ア!ア!アアア、あ、い…っひ!蔵馬…蔵馬…ぁ!」
「ん…ん…飛影…」

両足を力いっぱい蔵馬の背に巻き付け、思うままに声を上げ、腰を振る。
蔵馬の股間とオレの尻とがぶつかるたびに、ふざけた拍手のように、高く音が鳴る。

「ああ、ああ、あっあっあっ、うあ、ああ」

尻の穴が切れるほどの勢いで、抜き差しが繰り返される。

浅いところが気持ちいい。
深いところがもっと気持ちいい。
自分の体が自分のものでないみたいに、跳ねる。揺れる。

「っ…っ…飛影…飛影!」
「蔵馬…蔵馬…ぁ!ああ、うああ…うっあ!!」

どぶっと中に液体が広がる。
繋がったまま、軽々と体を返される。

四つんばいにされ、大きく開かされたままの足の間に手を突っ込まれる。
再び激しい抜き差しが始まり、力強い手に前をもみくちゃにされ、頭のてっぺんから声が出た。

「ヒアアアア!! あ、くら、ちょ…っ、待て…っヒアアアア、ンン!!」
「待つ?嫌だね」

大きくがつんと、奥を突かれる。
声を上げ、涎を垂らし、シーツをびしょびしょに汚す。
それでも蔵馬は、前も後ろも、少しも緩めない。

「ヒアァンン!! あ、や、も、なんか…あああ、あう!」

根元から先端へ、長い指はまるで中身を絞り取るようにしごき上げる。
手も足も、力が入らない。支えていられない。崩れ落ちそうになった体をたくましい両手がガシッとつかみ、そのまま前後に動かされる。
抜けそうになるぎりぎりまで引き、叩きつけるように、押し込む。

何度も何度も何度も。
ああ。また、中に、出された。

「んあ!! んーーー!! くら、ま!も…!ちょ…っ、あっあっあっあっ!あ」
「飛影……いいよ…すごく…きつ…い……痛い…くらいっ」
「あっ!あっ!ひいぃっ!! 」
「ひ…えい…飛影…」
「ひいぃっ!! ああ!ひいぃぃぃっ!!」

中に出されたものは体内におさまり切らず、外へ漏れ出し、ぐちゅぐちゅ泡立つ。
蔵馬の腰の動きは少しも衰えず、がつんがつん中を打つ。両腕をオレの腰に巻き付けるようにして支え、両手で萎える暇もなくしごかれ、前はひりひり痛い。

「ひいっ!! あっあっあっあっ、うああ、くら、も、やめ…」
「嫌です…ってば…!」
「んああああああ!! うああ…ひい…」

な、な、んか…腸が…出そう、な。
尻の穴が、壊れ、そう…な。
そんなに…揉んだら…千切れ…そうな?

「うあ……」

視界がぐるりと回り、またもや体を返される。
見上げた先には、綺麗な男が汗だくで腰を振りまくっている。

「…くら、ま…くら、ああ、くらまぁ…!!」

どろどろと、ぐちゃぐちゃと、オレの尻と蔵馬の肉とが、音を響かせ続ける。
下肢が痺れ、足は震え、尻の中は痙攣しっぱなしだ。

「ひい…っ…うああ…ひい…ああぁぁぁぁ…」
「…飛影…好き……」
「んああああああーーっ!!」

一回で……やめときゃよかったのか?
後悔がよぎった瞬間、熱いものがまた、腹の中にぶちまけられた。
***
「お腹空いてたんでしたっけ?何か作りますね」

朝になってしまった窓辺を背に機嫌よく言う蔵馬を、睨む気力もない。
オレは素っ裸のまま、湿ったベッドにだらりと横になっていた。

「サンドイッチならすぐできますけど?」
「……いらん」

つい五分前まで、人の上に汗をぼたぼた垂らし、腰を振っていたやつとは思えない笑顔に、腹が立つ。
こっちは立つどころか、起き上がる気力もない。

いったい何回したのだろうか。数を数えるのも途中で面倒になってしまった。
少しでも動けば、尻の中からどろどろだらだら、蔵馬の種がきりもなく漏れてくるだろう。

「飛影?ご飯がいいなら炊くけど?」
「いらん!!」
「何怒ってるんですか?もしかして」

ベッドに座り、真っすぐオレを見る碧の目。
くやしいほど、綺麗な顔。

「もしかして…まだ足りません?」
「ばっ…ばか言うな!」
「遠慮しないで」
「アホか!違う!! 誰が遠慮してるか!」

迫る蔵馬を避けようと後ろへ下がった瞬間、尻からどろっとあたたかいものが流れ出す。
思わず指で押さえたが、その手をつかまれる。

「み、見るな!!」
「ああ、すごいね。お腹の中、いっぱいだ。じゃあ、続きはお風呂でしましょう」
「ここでも風呂でももういい!今日はいい!!」

ひょいと抱き上げられ、腕の中でもがくオレに、蔵馬は輝くような笑顔を見せる。

「オレ、今日休みなんですよ。時間はたーっぷりありますから」

だから、と蔵馬は笑みを深くする。
こんな時なのに、つい見惚れてしまったオレの耳に唇を近づけ、蔵馬が囁いた。

「…短いなんて、二度と言わせませんからね?」


...End