My treasure

「だから、何も見るような物はないと言っただろうが」

室内を見渡し、殺風景だね、と呟いた男に、オレはそう言ってやった。

「まあ、飛影らしいけどね」

蔵馬の所有しているような、隠れ家、とか、宝物庫、と呼ばれる場所でもない。
単純に、以前に盗んだ物やなんかが、適当に投げ込んであるだけの小屋だ。
今は百足に自分の部屋もあるし、あとは大抵、人間界の蔵馬の部屋や、魔界の隠れ家にいることの方が多い。ここは自分でも久しぶりに来たのだ。

蔵馬が一度見てみたいと言うので、連れてきてやっただけだ。

あるのは、何本かの刀と、鞘。包帯、少しの服、少しの傷薬、干からびて転がる果物らしき物。以前はここで時折寝泊まりもしていたので、床には何枚かの厚手の布も敷いてはあるが、お世辞にもいい寝心地とは言えないシロモノだ。

「綺麗な物は、なんにもないんだね」

しみじみと、蔵馬は言う。
妖狐だった頃からの蔵馬の隠れ家はいくつもあり、それぞれ規模は違えど、美しい物がたくさんあった。武具だけではない。何の役にも立たない、ただ美しいだけの美術品も大量にあった。

蔵馬は、そして妖狐も、綺麗な物が好きなのだと言う。

「なんかさ、宝石とか、ガラス細工とか、象眼細工とか、彫刻とか」

欲しくないの?
微笑んで、蔵馬が問う。

「プレゼント、しましょうか?」
「いらん。必要ない」

オレは即答で、断る。

綺麗な物?
そんな物は、いらん。

なぜって

「蔵馬」

オレはマントを脱ぎ捨てる。
埃っぽい布の上に座り、片頬で笑みを作って蔵馬を見上げてやった。

「こんなとこで?」

埃っぽいよ、口では嫌そうにしながらも、蔵馬はもう、オレの服に手をかけている。
あっという間に裸に剥かれ、固い布の上に、裸の体で横たわる。

長くしなやかな腕に抱きしめられる。

艶やかな黒髪、切れ長の目、通った鼻筋に綺麗な唇という整いすぎた顔。
女のような顔とは裏腹に、厚い胸板、逞しい腹部、股間のものは、赤黒く太く、立派なもんだ。

なによりも…この瞳だ。

綺麗な、本当に綺麗な、深海の色をした、碧の瞳。
吸い込まれてしまいそうな、吸い込まれてしまうことも悪くない、とさえ思えてしまう、この碧。

焦がれて、焦がれて、やっと手に入れた、オレの宝物。

長く綺麗な指が、オレの頬から唇を弄る。

綺麗な物、など、オレに必要なわけがない。
何もいらない。何も必要ない。

…世界で一番綺麗な者を、このオレは手に入れたのだから。

綺麗な、綺麗な者。

これは、オレの者だ。
決して、誰にも渡しはしない。

決意を込めて、オレは蔵馬に口づけた。


...End.

Happy Birthday!猫乃しゃん!(Ф∀Ф)ノ
いつも蔵馬好きを迫害しているお詫びに(笑)
実和子