鏡に映るもの「変態」投げかけられた言葉に絶句する。 この状況で、この有り様で、こんな言葉を投げかけられると誰が思う? ***
館に訪ねて行っただけだ。いきなり殴られ、ベッドに押し倒された。 この館の中には主以外は妖力を使えないよう結界が張られている。抵抗もままならずあっという間に服を破かれ、奇妙な植物で手足を固定された。 目の前の男は、銀をそのまま糸にしたかのような髪を揺らしてクスクス笑う。長い指が無理やり開かされている腿をゆっくり伝う。 「…っつ、いきなり何しやがる!」 殴られたこめかみから血が伝う。 気絶するほどの力で殴られたわけではないが、頭がガンガン痛む。 「お前は本当に血が似合うな」 いきなり殴られ裸に剥かれ、あげく手足は縛られた。 誰だって怒るだろう。 「これを外せ!」 手と足は一本の蔦で縛られているらしく、手を振りほどこうと暴れると足がますます大きく開く。 「いい眺めだな」 腿を伝っていた指が、萎えているものをつかむ。 「あ!よせっ!」 「なぜ?」 相変わらずクスクス笑ったまま、蔵馬はさらに力を込めてそこを弄る。根元から先端まで何度も強く扱き、指先で引っ掻くように割れ目をなぞる。 「…ん…あっ…あ…あああ!」 情けないほどあっという間に絶頂に押し上げられ先端から白液が吹き出す。出し切った余韻に浸る間もなく、双丘の狭間に指が差し込まれた。 「ぐ…ふ……っ…!うあ、痛ぅ!」 濡らしてもいないそこは、硬く締まって指を押し出そうとする。 「やめ、あ!う…ぁ痛い!」 「痛い?」 分かり切っていることを蔵馬は不思議そうに聞き返す。 しかしそう言いながらも、ベッドサイドのテーブルに盛られた実に手を伸ばす。潤滑液代わりにいつも使っている胡桃ほどの大きさの赤い実。薄い皮を破くとヌルヌルとした液をまとう、弾力のある果実だ。 長い指にまんべんなくその液をなすりつけていた蔵馬が、ふとその手を止めた。 「どうして濡らしておかないんだ、飛影」 「…は?」 何を言われているのかわからない。 さあ抱いてくださいと言わんばかりに用意して来いというのか、こいつは。 「貴様…帰る!これを解け!!」 完全に頭にきて叫ぶ。 だがそれを無視し、蔵馬は再度尻の肉を開き、指で穴を探る。差し込まれるはずの指は入口を開かせてそのまま止まった。 「物覚えの悪い頭だな。体に教えてやるよ」 「…っ、あ、何す…る、やめろ!」 いつもは液を提供するだけだったぬるりとした実が、そのままオレの体内に押し込まれた。 ぐにゅ、と入口を押し開き、冷たくぬるつく…それでいてひどく弾力のある実…が 温かな体内に、ずるり、と入ってくる。 「ひ…ぐ、あぁ……っ……!」 異質な圧迫感。 ぬるぬるした実が、腸を押し広げながら上へ上へと入ってくる。 「な!や、やあ、あ、ァ……っあ!」 驚いたことに、蔵馬はもう一つ実を押し込む。 「うあ!何、あ、あ…」 また一つ、また一つ。 冷たく濡れた実が温かな体内に潜り込む。 「な、あ、蔵馬!やめ…」 押し込まれた実はもう五つ目になろうとしている。いくら胡桃ほどの大きさの実でも、五つも押し込まれればたまらない。 異物に内臓を押し広げられる苦痛。冷たい果実が体温を奪っていくようで寒気がする。 ここに物を入れるのは慣れているはずなのにひどく苦しい。やつは肩で息をしているオレをじっと見ている。 銀糸をかきあげ、涼しい顔で言い放った言葉は… 「変態」 投げかけられた言葉にオレは絶句する。 この状況で?この有り様で? 「…どっちがだ!!」 頭の血管が切れそうだ。 この馬鹿は、いやこの変態は、こともあろうにオレを変態だと!? 「変態」 またもやクスクス笑いながら蔵馬は再度言い放つ。 「ふざけるな!お前がだろう!!」 激高してオレは叫ぶ。 叫んだ事で殴られた頭の痛みも、実を押し込まれた尻の中の痛みも増した気がする。 …実が、出てきそうだ。 無理やり押し込まれた物なのに出す所を見られるのは排泄を見られるような羞恥があってできない。今にも実を出してしまいそうにヒクヒクしている穴に力を込め、体の奥に押し戻す。 「オレが?」 人の気も知らず、狐は白々しく首をかしげる。 「他に誰がいる!?」 「だって、お前はこうされたくてオレの所に来るんだろう?」 「……何…?」 何を言われているのかわからない。 「こうされたいんだろう?痛い苦しいことをして、泣かせて欲しいんだろ?」 …何を言われているのかわからない。 何を…。 何を言っている? 「違う!」 「違わない」 きれいな顔に嘲るような笑みを浮かべ、やつは断じる。 「じゃあなぜオレの所へ来る?飢えてるならあいつに突っ込んでもらえ」 あいつ。 もう一人の、蔵馬。 深い海を思わせる碧の瞳。 やさしい、もう一人の、蔵馬。 「…違う…」 「違わない。ほら」 「…う!あああ!」 指を一本、ぐいっとねじ込まれた。 長い指に押し上げられた果実はさらに奥へ入り込み、内臓を圧迫する。すでに体は冷たい汗でびっしょりと濡れていた。 「あ!っあ、苦し、やめ」 「やめろ?ここはこんなに締めつけて喜んでるぜ?」 指が千切れそうだ、とやつは嘲笑う。 言われた通り、オレの体は入れられた指をきつく締めつけている。冷たい果実ではなく体温のある指の挿入に体は狂喜していた。 羞恥に顔が熱くなる。 蔵馬に会いたい。 この、目の前にいる酷薄な男ではなく、碧の瞳の蔵馬に。 あの腕に抱かれたい。 じゃあ、なぜ? なぜここに来た? 頭の中で響く声は妖狐蔵馬のものではない。 自分の声だ。 今お前の目の前にいる蔵馬はお前を愛しちゃいない。 自分の分身が愛しているというだけのうっとうしい者なのだ。 だからこうして痛い目に合わす。 なのに…なぜ何度も何度もお前はこいつに会いに行く? …抱かれに行く? 「…う…あ…」 「そんなに締めつけるな。指じゃ我慢できないか?」 その言葉が終わらないうちに勢いよく指が抜かれ、かわりに熱い肉棒が押し込まれた。 「ぁあああぁああああ!!!」 慣らしもなにもなく、いきなり最奥まで突っ込まれた。長く硬い肉棒に押された果実はあり得ないほど奥深くを蹂躙する。 「っああ!うぁ…あっ!」 恐ろしいほど奥に、冷たい果実の感触。 未知の領域まで押し広げられる痛みと恐怖で、快感など吹き飛ばされる。 「やめ、あ、抜け!ああ!!」 「なぜ?こうされたかったんだろう?」 体の奥深くで蠢く果実の甘ったるい汁が、グチュグチュと結合部を鳴らす。 「気持ちいいんだろう?もっと喘げ」 「っい、痛、やめろ…うああ!!」 気持ち良くなんかない。 吐き気がするほどの苦痛。 なのに体は貪欲に快楽を求め苦痛にさえ反応し始めている。裏切り者の前は勃ち上がり、粘膜は異物の蹂躙を歓んでいる。 情けなくて、悔しくて、視界が潤んでくる。 「ふ、ぁ、んん…あ…」 「ほらほら、ぼんやりせずにもっと締めろ」 そう言いながら、やつは空いている方の手でオレの首を押さえる。 「知ってるか飛影?首を絞めてすると最高に締まるんだぜ?」 その言葉が終わらないうちに、首にぐっと力がかかる。 「あ!…かはっ」 ただでさえ肩で息をしている状態だった。 あっという間に呼吸ができなくなり、目の前に光が点滅する。 その途端、尻の穴が痙攣を起こしたように強く締まった。 体内で果実の一つが破裂した。 「……っ!!」 閃光のような快感と痛みが襲う。 激しく抜き差しされ、また一つ体の最奥で果実が弾ける。 悲鳴を上げたいのにそうするだけの酸素が肺に残っていない。意識が遠のきかけた途端、首にかかる力がほんの僅かゆるむ。 「あ、かはっ…」 目の前の美しい生き物はきれいな薄笑いをうかべ、それでいて腰の動きは一時も止めずにいる。 「やめ…ろ、お…前なんか…大…嫌いだ」 「嘘だな」 ままならない呼吸の中、どうにか絞り出した言葉はあっさり一蹴される。 「お前はこうされたいんだ。なぜって?お前はオレを愛しているからさ。どうしようもなく、な」 聞きたくない、なのに縛られている手では耳を塞ぐ事もできない。 耳元で囁かれる言葉。 「狂ってるのはオレじゃない。お前さ」 ***
体が鉛のように重い。朝の奇妙に白っぽい光の中、クシャクシャになったシーツから突き出した自分のつま先は異様に白く死体のように見えた。 足だけじゃない。ベッドもシーツも、白っぽい天井も、この部屋の何もかもが死んでいるように見える。 もうとっくに冷えきっているベッドの半分が、この部屋にはオレしかいないことを示している。出かけたのか?用は終わったとばかりに。 「……っあ、かはっ」 起き上がろうとした途端にむせる。グラリと視界が傾き、シーツの海に沈む。鈍痛と呼ぶには無理がある痛みが腰から下肢にかけてまとわりつく。ベッドの上に転がる、精液と血にまみれて甘ったるいにおいを放ついくつかの潰れた果実。失神したあと弛緩した穴から出てしまったのだろう。 あまりの恥ずかしさに顔が熱くなる。 無意味な事だと分かっていたが赤く汚れたシーツを力任せに剥ぎ取る。 首の周りがジンジン熱い。そっと手を這わせるながらよろよろと立ち上る。ベッドから少し離れた場所にある銀細工の施された鏡を覗く。 白い朝の光。 冷たく光る鏡の中に映る自分の姿。 あちこちに精液と血がこびりつき、体中痣だらけだ。首にはくっきりと指の形が赤く残っている。切れた肛門から流れ出した血が白い腿にいくつもの赤い模様を作っていた。 腫れぼったい目…いつもより赤く見える目…がこちらを見返している。 浅ましい、情けない、惨めな姿。 光を受けて冷たく輝く精巧な銀細工の鏡は、あの狐によく似ている。 力いっぱい振り上げた拳に、目の前の鏡は耳障りな音を立てて砕け散った。砕けた破片が手を血だらけにするのも構わず、オレは鏡の欠片をさらに細かく砕く。 「よせ」 振り上げた手をつかまれた。 いつの間に戻ってきたのか妖狐はすぐ側に立って、血塗れのオレの腕を掴んでいた。 「気に入ってたのに。いい細工だった」 もはやただのキラキラする破片と化した鏡の残骸を見遣ってつぶやく。血でぐっしょり濡れた腕はあちこちに鏡の細かな破片が突き刺さっている。 蔵馬なら…。 もう一人の蔵馬なら、こんな時に割れた鏡を見たりはしない。 オレの血だらけの腕を、手を見て…オレのことだけを見て、心配して駆け寄ってくる。素晴らしい細工のお気に入りの鏡など一顧だにせず。 痛い。 痛いのは血塗れの腕なのか、裂けた内臓なのか、絞められた首なのか、それとも他の何かなのかわからない。 「どうした?」 からかうような声とともに、妖狐が隣に腰を降ろす。 「何を泣いている?」 「…泣いてなんか…」 その途端、手の甲に当たって跳ね返ったものは氷泪石だ。 「…あ…」 次から次へと、硬質な音を立てて氷泪石が散らばる。 頬にねっとりとした奇妙な感触。 妖狐が頬に伝う涙を舐めていた。 「何する…」 「戻ってやろうか?」 戻る…?何が? 白磁のような顔に紅い舌がひどく卑猥に見える。 「人間の方の、オレにさ。そっちで抱いてやろうか」 笑みを含んだ声が聞く。 そう言いながらやつはオレを抱き上げ、自分の上に座らせた。 「…あ…」 「戻ってやろうか?」 それとも… 耳元で狐が囁く。 「このままで、もう一度抱いてやろうか?」 金色の瞳は、あきらかな嘲笑を浮かべている。 どんなことをされても、結局お前はオレから離れられないのだろう? 目が、そう嘲笑っている。 「…どうする?」 答えなど、とっくに分かっているくせに。 また一つ、氷泪石が床で跳ねた。 ...End. |