鍵をかけて鍵を、かける。百足に住む者たちのそれぞれの自室には鍵がある。 初めてこの部屋に案内され鍵をもらった時は、そんな面倒なことをする者がいるのかと、オレは訝しく思ったのに。 筆頭、という望んでもいない地位を得ているオレの部屋には風呂もある。 それさえも余計なものだと思ったのに、今は礼を言いたいぐらいの気分だ。 服を脱ぐ。 鍵をかけた部屋には無論、誰もいない。 なのに、チラリと部屋を見渡してしまうのは後ろめたさだろうか? 石でできた風呂場の床は冷たかったが、オレは構わずそこに腰を下ろし、足を広げた。 「……んっ…」 両手で握って、上下に擦る。 やわらかかったそれはあっという間に硬くなって、先端が上から見えるくらいに勃ち上がっている。 「ア、は…ん…」 我ながら、情けない声が漏れる。 以前はそんなことはなかったのに。 ……以前? 以前って…何以前だ? そんなことを考えているうちに、下腹がぶるっと震え、握りしめていたものがドロッとした液を噴き出した。 「……ン、ア、アアッ…」 絞り尽くすようにギュッと握り、快感をできるだけ長引かせる。 「…ふ、あ……」 頬が、熱い。 自慰をするのが恥ずかしいわけじゃない。 雄なら誰だってすることだし、妖怪にしてはオレは性に淡泊な方だ、と思う。 ……多分。 恥ずかしいのは… 「……っ」 これじゃ全然物足りない、ということだ。 ***
あいつの、せいだ。両手も股間も濡れたままという、みっともない姿でオレはうな垂れる。 前はそんなことはなかったのに。 十日に一度くらい前を弄って、たまったものを、出す。 それで充分満足できたのに。 全然だめだ。 全然足りない。 次の満月まで、躯の率いる軍は遠征パトロールの割当に当たっている。 つまり…まだ十日以上は、人間界には行くことはできない。 もう一回するか、と萎えたそれをつかんだところで、違う、と頭の中で声がした。 違う。 前だけじゃなくて… ……蔵馬が…いつもオレにするみたいに…したら……? ぬるつく両手で、自分の胸を触る。 手を濡らした精液はとっくに冷たくなっていて、裸の胸がヒヤリとした。 そのまま首筋へと手を滑らせて、耳の後ろ、首筋、鎖骨の窪み、と指で刺激する。 蔵馬はいつも唇でそうしてくれるが、さすがに自分ではそれは不可能だ。 …この風呂場に鏡がなくてよかったと、心底思う。 もしあったら、恥ずかしすぎてこんなことできやしないだろうが。 耳の後ろも首筋も鎖骨の窪みも、少しも気持ちよくない。 オレが下手なのか、他人に触れられることで感じるのかはわからないが。 しょうがなく手を胸に戻し、乳首に触れてみる。 男の胸など平らで面白くもないだろうに、蔵馬は大抵しつこく乳首を弄る。 おそるおそる、爪の先で、引っかくように、薄赤い先端を弄る。 「……ぁ…」 悪く、ない…。 指でつまみ、ぐにぐにと揉んでいると、フワフワした気分になってくる…。 少し膨らんだ気がする乳首を揉みながら、オレは小さく喘ぐ。 「あ、んん……」 左手を降ろし、また硬くなり始めているものをつかむ。 片手で胸を、片手で股間を愛撫しながら、オレはずるずると横になった。 「っく、ア、ア…」 床の冷たさも、もう気にならない。 「…ッアアアアア…!」 たっぷりと量のある二度目が出たが、まだ、満足できない。 まだ。 もっと、強く… 横たわった体勢から、オレは四つん這いになる。 顔を床に押し付け、肩で体重を支える。 こうして這いつくばると、尻の肉が大きく開き、その奥の穴が丸出しになるのが見なくてもわかる。感じる冷たい空気に、尻が震える。 「ぅ…嫌…だ…」 誰に強制されたわけでもないのに、オレは馬鹿か。 罵りながらも、右手を後ろにのばし、そっと穴を撫でた。 「あ!ひっ…!」 皺が寄って、窄んでいる、穴。 ヌルつく中指でそこを何度も往復しているうちに、触ってもいない前がビクビクし始める。 「あ!あ!ああっ…?」 撫でていただけの穴がヒクッと口を開けた拍子に、中指の先端が入ってしまう。 「アア、イ、ンン…」 第一関節だけが温かな体内へ潜り、ヒクつく穴を浅く掻き回す。 オレ、は…何をしている? 自分の排泄器官に自分の指を突っ込み、弄って、喘いで、よがって。 この、馬鹿…。変態…! 「アア、ア、んっ!ぐう!」 ぬちゅ、と音を立て、中指が根元まで収まる。 腸内はぐにゅぐにゅ動き、オレの指を締めつける。 締めつけられる指と、 締めつけている穴と。 二箇所で感じるその快楽に、オレは夢中になっていた。 「あ、あ、もっ…と、ア!」 人さし指も、入れる。 倍になった容量に、ズキッと痛みが走ったが、もうそんなことはどうでもいい。 もっと痛くして、 もっと広げて、 もっと奥を触って… 「ア!ア、ア、ア…」 鼻にかかった甲高い声。 それは風呂場に反響して、やけに大きく聞こえる。 「ア、駄目、だ…嫌…く、ら」 額を隠す額の布をむしり取り、口に銜える。 これ以上、このみっともない声を聞いていられない。 「んん、ん…んぅ」 ぐちゅん、ぬぷん。 三本に増やした指でも物足りなくて、オレは必死で抜き差しを繰り返して、前を握る。 親指まで突っ込んでグッと広げた途端、鋭い痛みとともに、強い快感に襲われて、銜えていた布を思わず取り落とす。 「っあ、アアアアン!! ン、くら…」 奥まで差し込んだ中指の先に、目指す場所を見つける。 「アアアア!ア、イ、ウアア…くら…く、……ま…」 いまいましいことにオレの指は短くて、そこに僅かに触れるのがやっとだ。 それでもほんの一瞬掠めるだけでも、脳みそが蕩けそうになる。 「ウアア!アアアアアアッッッ!!」 冷たい床に精を吐き出し、オレは体を震わせた。 「あ、あん…う…」 ……足りない。 まだ、足りない。 自分の指なんかじゃ、こんな偽物の快楽なんかじゃ、オレの体は満足できない。 下腹に残る澱みも、まだ熱く息づく穴も、湿った肌も、体の全てが足りない足りないと喚いているような気さえする。 「くら、ま……」 あいつのせいだ。 あいつのせいで、オレはもうこんなものでは、満足できない。 「……くそっ…」 体を洗いもせず、オレはマントだけを羽織る。 ガクガクする足を、ブーツに突っ込む。 …蔵馬のせいだ。 あいつのせいでこんなことになったのだから、責任は蔵馬にある。 蔵馬が責任を取るのは当然のことだ。 そうだろう? あの、くそったれの、半妖が。 全部あいつが、悪いんだ。 オレは毒づきながら、鍵を開け、通路へ飛び出す。 百足から飛び降り、走り出した。 パトロールなど知ったことか。 目指すのはもちろん、人間界だ。 ...End. |