片恋「…わーっ!!」ホテルのドアをバーンと開け、全速力で駆けてきた幽助に、蔵馬と桑原は目を丸くし、居眠りを妨げられた飛影はうるさいと言わんばかりに眉をしかめた。 「うるっせえな浦飯…」 「幽助、どうしたの?」 幽助は頬に赤い跡を残し、ぜーぜー言いながらソファにドサッと腰を降ろす。 「…へ、変な女がっ!」 「女?」 「いや、男もいたかも!なんか!変なカッコしたやつらが大勢…!」 あわあわと要領の得ない幽助の説明をまとめると、つまりこういうことだった。 ホテルの外に、あちこちに妖怪がいて、何人もが自分に声をかけたのだという。 遊んでいかないか、と。 「遊び~?」 なんだそりゃ、と顔を赤くする桑原と、困惑する幽助に、蔵馬が本を閉じた。 「それは、娼婦たちだよ」 「し、娼婦ぅ!?」 「知らないの?セックスしてお金を稼ぐ…」 「知ってるわい!そうじゃねえよ、なんでこんな所に…」 「この武術会の出場者や観客を狙って来てるんだよ」 まあ、娼婦たちはどこにでもいるけど、こういうお祭り騒ぎには必ずいるよ。 稼ぎ時だからね。でも半分近くは男娼だよ。 ポカンと口を開ける二人に、蔵馬は事も無げに説明する。 「武術会なのに…そ、そういうことするやつがいるのか?」 「もちろん。君たち人間と違って妖怪は性にも貪欲だから。ヤらずにはいられないんだよ」 「男娼って…男とヤルやつもいるのか!?」 「妖怪はあんまり性別って気にしないから。入れる穴が違うだけでしょ」 「穴とか言うなー!!」 説明は終わったと言わんばかりに読んでいた本に視線を戻した蔵馬から、幽助が本を奪う。 「何?」 「いや…でもなんでだ?オレたち金持ってないぜ?」 「ああ、いいんだよ。オレたちのチームは特別だからね」 蔵馬は綺麗な顔で、クスッと笑う。 このろくでもない暗黒武術会の、オレたちはゲストだよ?人間チームだよ? 妖怪たちは今回の生け贄の味見をしたいんだよ。まあいわばこの大会の記念にね。 お金なんかなくてもオレたちなら喜んでヤらせてくれるよ。 「でもまあ、危ないからやめておきなよ。ところで顔に口紅付いてるよ、幽助」 するか!! と、真っ赤になって同時に叫んだ幽助と桑原の、それぞれの脳裏に浮かんだ二人の女性。幽助は頬に付けられた口紅を、ぐいっと拭った。 不良のくせに純情、という分かりやすい二人に蔵馬はまたもや笑った。 「そういう…好きでもない相手とそんなことしていいのかよ!?」 桑原の言葉に、蔵馬は今度は吹き出した。 「何がおかしんだよ!?」 「ごめん。妖怪は人間よりだいぶ貞操観念が薄いんだよ。気にしないことだね」 人間二人は子供扱いされたようで、不満だった。 「なんだよオメーばっか大人ぶりやがって…」 「大人なんです」 「そ、そうだ!蔵馬!お前はどうなんだよ!そ、そういう…その…」 「娼婦とも男娼ともヤってません。以上」 これ以上読書の邪魔をされたくない、と蔵馬は本を取り返す。 「オメーは妖怪じゃないのかよ」 「半分だもの。妖怪ほどガツガツしてないよ」 でも…そうだな… 「ヤりたくなったら、飛影とヤるよ」 げえっ!と人間二人はのけ反る。 会話に一切参加していなかった飛影がようやく三人の方を向き、冷ややかに笑った。 「…貴様、オレに組み敷かれたいのか?」 「どっちかというと逆かな。君を下にしたいね」 飛影の冷ややかな笑みは、そのままで。 「オレを?高くつくぞ」 「だよね。冗談です」 「くだらん。オレはもう寝る」 おやすみ、と、にこっと笑う蔵馬と、まだ固まっている幽助と桑原を残し、飛影はすいっと部屋を出る。 ***
たった今出てきた部屋、幽助と桑原の部屋の隣が飛影と蔵馬の部屋だ。ぱたんとドアを閉め、飛影はドアに背を預け、もたれるようにぺたりと座り込んだ。 真っ赤な顔をして。 ーヤりたくなったら、飛影とヤるよー 自分の想いを、見透かされたのかと思った。 蔵馬と…交わり、体内を穿たれる、そんな下卑た妄想が伝わったのかと冷や汗をかいた。 ーヤりたくなったら、飛影とヤるよー 冗談だとわかっている。 蔵馬は、あの人間かぶれの半妖は、オレのことをそんな風に見てはいない。 なのに。 ーヤりたくなったら、飛影とヤるよー その言葉は、いつまでも飛影の頭の中に反響し、 消えてはくれなかった。 それが、期待、というものだったと飛影が理解するのは、もう少し後の話になる。 ...End |