独占欲...side Hiei「知らん」オレの声はいつも通り、我ながら素っ気なく響く。 湯気の立つカップをオレの前に置き、幽助が天井を仰いで溜め息をついた。 「お前が知らないんじゃお手上げだ。最後に会ったのはいつだ?」 「…さあ。覚えてない」 「お前なぁ。蔵馬が行方不明だってのに心配じゃないのかよ?」 「心配する義理はない」 そう答えてコーヒーをすする。 砂糖もミルクも入っていないそれはとても苦い。飲めたもんじゃないその飲み物を、テーブルに戻す。 「とにかく、探さなきゃ。お前も手伝ってくれるだろ?」 「断る」 「お前なあ…」 怒鳴りつけようかなだめすかそうか迷っているらしい幽助を尻目に、暗い窓の外を眺める。室内はこうこうと明かりが灯り、夜の窓はまるで鏡のようにこちらを映していた。その鏡に映るオレは、大きな赤い瞳でこちらを見返している。 自分を美しいと思った事は一度もない。 なのに蔵馬はオレを綺麗だと言った。まるで美しい者を見るような目で見た。 蔵馬の手が、指が、唇が、この体の全てに触れた。 逆立つ黒髪。白い肌。赤い瞳。 どれも蔵馬が愛おしんでくれるなら宝物だ。 聞いてるのかよ、という苛立った声で現実に引き戻される。 「聞いてない。なんだ?」 「だから、手伝う気はないのかって聞いてんだよ」 「ない」 「薄情にも程があんだろ。お前にとっても…その…蔵馬は仲間だろ?」 「…仲間?」 本当は仲間じゃなく、恋人とか何とか馬鹿げた言葉を使いたかったのか幽助は口ごもる。 こいつはわかっていない。 蔵馬が仲間?笑わせる。幽助は何もわかっていない。 来た時と同じように、窓枠に足をかけて言い捨てる。 「あいつはただの…人間界で言うところの知り合いだ」 「ああそーかよ。わかったよ」 勝手にしやがれ、という怒声を背に、オレは窓枠を蹴る。 人間たちの家の屋根を飛ぶようにして走る。 走りながらも、湧き上がってくる笑みを抑えきれない。 幽助は、わかってない。 オレにとって蔵馬は仲間でも恋人でもない。 あれは…オレの命だ。 ***
とろりと重い瘴気が漂う。瘴気の毒素の強すぎるこの界隈では、あまり妖怪も見かけない。 その界隈でも結界の張られたこの森は、オレ以外には生き物の気配がない。 はやる心を抑えて、結界の中に入る。 わずかにピリッとした刺激を感じるが、中に入るのは造作も無い。 もっとも、オレ以外が入れば黒焦げだが。 森の中に侵入者の形跡はまったくないことに満足しながら、森の奥に急ぐ。 暗い小道をたどり、古い、石造りの家の前に着く。 家は灯がともり、窓からこぼれる光や扉に掲げられたランプのせいで 暗い森の中でこの家だけが輝いて見える。 「おかえり」 オレが来るのをわかっていたようにドアが開き、蔵馬が花が咲くように笑った。 「…蔵馬」 蔵馬の名を呼ぶ。 この森はとても寒いのに、それだけで温度が上がったような気さえする。 「おかえり。どこ行ってたの?」 寒かったでしょう?、そう言いながら、蔵馬はオレを抱き上げて家に入る。 何度見ても見蕩れてしまう整った顔は、後ろでゆるく束ねた艶のある黒髪に包まれていた。 深い海の底を思わせる碧の瞳が、オレを見つめている。 ああ。 オレはそっと溜め息をつく。 これを手に入れるのは容易な事ではなかった。 知略に富む蔵馬を罠にかけ、捕まえるのは一世一代の大仕事だった。 長い指がオレの頭を引き寄せ、抱き上げられたままでキスをする。 蔵馬はおかえり、の意味を込めた軽いキスをするつもりだったのだろうが今度はオレが蔵馬の頭を引き寄せ、ゆるく束ねた髪を解く。 長い髪に指をからめ離れかけた唇を追い、舌を入れる。 お互いの口内で相手の舌を味わう。 蔵馬が、このきれいな生き物が、オレと舌を絡め合っている。 痺れるような快感にめまいがする。 濡れた唇をようやく離すと、蔵馬がクスクス笑う。 「もう。食事ができてるんだから。続きは後にしようよ」 オレの唇を指で撫で、いい匂いのする居間を指す。 「…食事なんか、後でいい」 今、したい。 その意を込めて、蔵馬の股間に指を這わす。 「…仰せのままに」 蔵馬は笑いを含んだ溜め息を一つつくと、寝室の扉を開けた。 ***
「ねえ、今日はどこへ行ってたの?」「…ん…あっ…あ…ん」 「どこへ行ってたの?」 「あ!…んん…ぅあ…」 それ、どころ…じゃ、ない。 大きく広げた足の間に肉棒を押し込まれながらまともな返事ができるわけがない。 濡れた襞が引き伸ばされ、卑猥な音を立てる。 限界まで広がった穴が、蔵馬をようやく全部飲み込む。 「っう、っふ、あ、あああああっ!」 「教えないと、動かないよ?」 耳元で、笑う声。 体内の異物は、大きく硬く脈打っている。 「ん、ふ…ああ…」 「オレをおいてどこ行ってたの?」 うっすら汗を浮かべたきれいな顔が、不満そうに問い詰める。 「ん…あ、幽助に…会った…お前を探していたぞ」 「ゆうすけ?」 形のいい眉がひそめられる。 「…誰?それ?」 胸の中に喜びがじわりと湧き出す。 蔵馬はもう、誰の事も覚えてはいない。 目に映るのは、触れるのは…オレだけだ。 「さあ、な。オレも知らん」 「なにそれ?」 蔵馬がぷっと吹き出し、ゆっくりと動き出す。 「もう。オレをおいて出かけるなら…」 こうだよ、そう言って緩やかな動きを一変させ、 痛みを感じるほど最奥をぐん、と突く。 「ぁ痛ぅ!痛い!やめ…」 あまりに深くを突かれるのは痛いだけだ。 痛みにのけ反った背を、蔵馬が強く抱く。 「じゃあ答えて。誰なのそれ?何してたの?」 嫉妬。 喜びが歓喜に変わる。 蔵馬が、嫉妬している。 オレを想って、オレを自分だけのものにしたくて、オレを…愛して? 「ただの…知り合いだ」 「…ふうん」 碧の目にはまだ疑いがある。 「…もう会わない」 「本当に?」 「ああ」 オレは罠の仕上げにかかろうとしていた。 「蔵馬、知ってるか?お前はもうここから出られない」 「え?」 オレの首筋に埋めていた顔を、驚いたように上げる。 「術をかけたんだ。…オレの命と引き換えに」 森の周りに張り巡らされた封印。 オレ以外は出入りすることはできない。 …当然、蔵馬はもう出る事はできない。 どうしても出たければ… 「…オレを殺せば、出られるぞ」 蔵馬の下で、やつを睨むようにして宣言する。 ランプの灯りしかないこの部屋で、お互い汗を浮かべた裸のまま見つめ合う。 これはオレの仕掛けた賭けだ。 最初から欲しかった。手に入れたかった。 側にいられるだけでいいと思っていたのに、蔵馬はオレを好きだと言った。 願いは叶ったのに。愛されているだけで幸せだったのに。 だが欲張りなオレはもっともっと、と際限なく欲を膨らませた。 オレはもう蔵馬が他のやつを、見るのも、触るのも、想うのも耐えられない。 蔵馬の手が、オレの頬を包む。 抵抗する気はなかった。 オレはこいつを、自分一人のものにする。 手に入れるか、死ぬかの二択だ。 「…飛影」 夢のように美しい顔が、寄せられる。 オレの耳元に、蔵馬はささやくような声で答えを呟いた。 ...End |