くろねこライフ...13

たった十日、この家から離れていただけなのに、俺は懐かしささえ感じて、気に入りの場所に丸くなった。
窓の外はもう夕暮れだったが、一日中陽の当たる場所にあったクッションソファは、ほんわり暖かい。

暖かい。
やわらかい。

この家は、なんだかいい匂いがする。
ゴロゴロ言いながら丸くなり、目を閉じる。

帰ってきた。
ここへ、帰ってくることができた。

「こら、寝る前にご飯でしょう?」

とか言って、ろくな物ないんだけどね。
冷凍してあったシチューと、パンでいい?
ごめんね。忙しくて、買い物も全然してなくてさ。

忙しくて?
そういえば、家の中は少しだが散らかっていた。
ノートやペンがあちこちに置かれ、雑然としている。それはなんだか蔵馬らしくない。

俺の視線に気付いた蔵馬が苦笑する。

「この十日間、必死でネコ語の勉強してたんだよ」
「…本気でか?」
「うん。でも本っ当に難しいね!十日もかかって飛影の名前を発音するのがやっとだった」
「…バカか。無理に決まってる」

呆れる半分、嬉しいような気もして、俺はさらに丸くなる。
鍋で温められたシチューやパンをテーブルに並べ、蔵馬は俺の目の前まで来て、しゃがんだ。

「…おかえり、飛影」
「……にゃ」

近づいてきた綺麗な顔。
俺は目を閉じて、蔵馬の唇の感触を味わう。

ただ互いの唇を合わせているだけだ。
なのに、どうしてこんなにふにゃふにゃした気持ちになるのだろう…?

「さて。テーブルについて。ご飯にしよう」

立ち上ろうとした蔵馬の髪を、俺はつかむ。

「飛影…?」
「…雪菜、は…自分の飼い主なら、俺のことも幸せに…できると言った」
「……飛影?まさか…」
「お前は俺を…幸せ…と、やらに…できるのか?」

俺のその言葉に、蔵馬が目を見張る。

「…必ず。約束するよ」
「必ず…?」
「…自分が幸せになる自信は、もっとあるけどね」

飛影が帰ってきてくれたんだもの。
俺は、もう幸せだよ。

嬉しそうな、その笑顔。
気恥ずかしくて、俺は目を反らす。

「…キザなやつ…恥ずかしくないのか?」
「言っておくけど、俺だって一世一代の告白だったんだから。一回目のも、二回目のも。心臓爆発しそうだったよ」
「なんで…一回目はあんな山奥まで行ったんだ?」

捨てネコになるのかと思った、というのはなんだかみっともないので、言わないでおく。

「……あそこね、俺の父さんが母さんにプロポーズした所なんだ」

だから…その…つまり、げんかつぎにと思ってさ。
いつも自信たっぷりの蔵馬が、恥ずかしそうにそんなことを言うのは、新鮮だった。
***
二十日ぶりに、蔵馬と一緒にベッドに入る。

どちらかが何かを言ったわけではなく、自然とくっつき、横になった。
蔵馬は電気を消し、枕元の小さなランプだけを灯す。

解かれたバスローブ。
蔵馬の舌になぞられて、薄いふちを軽く噛まれて、俺の耳はぷるっと震える。

こういうことを蔵馬とするのは二度目になるわけなのに、なんだか、変な感じだ。
この先、何がおこるかわかっているのに…落ち着かない。

…わかっているから、落ち着かないのか?
つまり…何をされるかわかっていて、俺はそれを受け入れているわけだから…

「どうしたの?難しい顔しちゃって」
「な、なんでもない…っん」

首筋を伝っていった唇が、右の乳首に吸い付く。

「ん!んん…っ!あ!」

左の乳首は指で摘まれ、右はねっとりと舌で舐められる。
硬くぷくりと尖ると、指の腹で押し潰され、今度は左を舐められる。
その繰り返しに体が熱くなる。

「にゃ…んん…あっ!くら…ああっ!」

カリ、と噛まれ、しっぽがビクッと跳ねた。

「あ、あ…くら、ま…やめ…」
「下を見て、飛影」

下?
ぼんやりと見下ろした先には、ビクンビクンと勃ち上がった、俺の…それ。

「な…?なん、で…」

まだここには触ってないのに?
慌ててそこを押さえようとした俺の手は、蔵馬の手にあっさり捕まる。

「おい…っ」
「いいんだよ。ここは気持ちいいと、感じる場所なんだから」

蔵馬はクスクス笑い、人さし指一本でつうっとなぞる。

「あ!うにゃあ!」

俺が、君のをするから…

「君は、俺のを、ね…」
「にゃあ…?」

引っ張られた俺の両手は、蔵馬の股間に置かれた。
蔵馬のそれは俺よりずいぶん大きくて、その熱さに俺は驚いて手を引っ込める。

「…握ってるだけでいいよ」

耳の中にそう囁かれ、もう一度手をつかまれ、股間に置かれた。
見るのは恥ずかしくて、目をぎゅっと閉じて、言われた通りに握る。

…手の中が、熱い。

「ん…」

蔵馬の手が、俺の足の間を探り、ぐっと握る。

「ふ、あ…ああっ…」

バラバラに動く長い指が、強く揉むように、力強く上下に扱く。

「ん!あ!あぁ…」

先端から、じわっと何かが染み出てきたのがわかる。
蔵馬の手はその液を竿全体に塗り広げ、ますます早い動きになる。

「あっ!あ!あ!にゃんん…く、らにゃ…」

俺は思わず、硬く大きくなってきていた手の中のものを放し、自分の顔を覆った。

「ん!ん!あ…にゃうんっ!」

だめ、だ。
出る…

「にゃあああっ!! あ…」

どぷっと吹き出した熱い液は、蔵馬の手を汚し、流れ落ちた。

「あ、うあ…嫌、だ…」

どうしたって、この恥ずかしさが消える日がくるとは思えない。
俺は整わない呼吸に肩を上下させながら、唇を噛んだ。

「今日は…飛影の、使うね」
「使う…?」

俺の左足だけを、蔵馬は自分の肩に乗せる。
片足だけを持ち上げられたせいでぐっと開かれた尻の間を、濡れた指が伝ってくる。

「ん!あ…?」

尻の一番奥に塗られたのは、たった今俺が放った液だった。
もう熱さはなく、ぬるっとしたそれ。

「嫌、だ!バカ…っ!んん!!」

指が、ゆっくりそこを押す。
つぷん、と指先が入り、中の方までぬるぬるした液を入れていく。

「あ!っあ!にゃっ…」

中指、だと、思う。
掻き回すように中を広げ、だんだん奥へ入ってくる、蔵馬の指。
奥の方までグチュグチュに濡らし、もう一本、指が増やされる。

「…にゃ…にゃああ…」
「かわいい…もっと鳴き声聞かせて…」

自分が声を上げていたことにようやく気付き、俺はハッと口を閉じる。

「飛影の口を開かせるなんて…簡単だよ?」

頭にきて、なんだと?と怒鳴ろうとした瞬間、二本の指で掻き回されているそこに、電流のような刺激が走った。

「うあ!ああああ!にゃ、うにゃあっ!!」

中で曲げられた指が、内臓に食い込む。
でもそれは、痛いと同時に、ものすごく…

「ここ、気持ちいいでしょ?」

気持ちいい、というか…なんか…変なっ…!

「にゃっ!あっあっ!ニャアアアン!!」

ぐいぐいとそこを押される。
たちまち下腹部が焼けるように熱くなる。

また、出る…

「うにゃっ!痛うっ!!」

吹き出しそうになっていた根元を、強くつかまれた。

「ウニャニャニャ!! 痛い痛い痛い!! バカ!放せっ!」

塞き止められた流れは、腹の中に逆流し、信じられないくらい痛い。

「痛いっ!…ニャアアアン!」
「だーめ。二回目は一緒に、ね…」

指が抜かれ、尻が持ち上げられる。

「ん!!…っにゃ」

ズルッ、と…先っぽが挿ってくる。
しっぽがピンと立ち上がり、硬直する。

「ん!あん!うにゃああっ!!」

俺の穴は大きく広がり、なんとかそれを通そうとヒクヒク痙攣している。
敏感な入口が引き伸ばされる、その感覚…。

「ニャア……ニャ…!」
「息を吐いて、ゆっくり挿れるからね…」
「う…あ…」

ぐうっと、ねじ込むように押し込まれる。

震えながら息を吐く。
肉と肉が密着する、ぐちゅっとした感触。

「あん!!」

……挿った。全部。
蔵馬と俺の体は、今ぴったりくっついている。

「いい子だね…」
「にゃっ…あ、ああ…」

尻の中で、ドクンドクン脈打つもの。
蔵馬の…もの。

痛い、のに…

熱い。
熱くて、体中が満たされる…

蔵馬が、俺を抱えるように、ゆっくりと動き出す。

「飛影も、動いて。ゆっくりでいいから…」
「ん、あ…」

足を蔵馬の背に巻き付け、そおっと、腰を振ってみる。

「あ!うああああっ!にゃあっ…」
「そう。いいよ…」

互いに体を動かすことで、結合がより深く、強くなる。
ぎこちないリズムが、次第に蔵馬の動きに合っていく。

ゆらゆらと、深く、深く繋がる…

「あっ!あっ!あっ…ニャ…ああん」

とろけそうな熱さの中で、何度も何度も蔵馬は囁く。
俺はそれに返事をしないのに、何度でも囁く、その言葉。

飛影、愛してる。

愛してるよ。
***
117日目

朝の匂いがした。

俺の方が先に目を覚ます、というのは初めてのような気がする。
蔵馬が着せてくれたのだろう。俺はちゃんとパジャマを着ていた。
目をこすりながらあくびをし、見上げた先には目を閉じた蔵馬の顔があった。

俺を抱えたまま、蔵馬はぐっすり眠っている。
薄く開いた唇のせいでいつになく子供っぽく見えるその顔に、俺はクスリと笑う。
よくわからない、温かいものが、胸に満ちる。

毛布からしっぽを出し、蔵馬の顔をくすぐってやる。

「……ん…ちょっ…くすぐった…」
「起きろ。腹が減った」
「…飛影!」
「ニャッ!?」

ガバッと起き上がった蔵馬に、痛いほど抱きしめられる。

「ウニャ、ウニャニャニャ!」
「良かった…夢だったらどうしようかと思った」

何をする!と思ったが、ホッとした顔でそんなことを言われると、怒るわけにもいかない。

「…寝ぼけるな。飯を作れ」
「おはようのキスは?」
「俺を幸せにするんじゃなかったのか?腹が減ったぞ」
「飛影」

蔵馬が、急に真顔になる。

「なんだ…?」
「俺、必ず君を幸せにするよ。でも」
「でも…?」
「もし、俺が病気になったり、仕事をなくしたりして、君を幸せにできなくなったら…」

俺から離れて、別の人の所へ行って、いいからね。
君が望む場所で、幸せになる努力をしてね。

真剣に、本気で、言っている。
思わず俺は、笑った。

「ちょっと!俺は真面目な話を…」
「構わん」
「え?」

構わん。
お前が俺を幸せにできなくなったら…

「…俺が、お前を幸せにしてやる」

俺は何も考えずに言ったのに、蔵馬はなぜだか赤くなった。

「飛影、それってさ…」
「いいから飯作れ」
「…はい」

笑いながら、ぴょんと蔵馬はベッドから降りる。

「何食べる?いけない、冷蔵庫の中なんにもないんだった!」
「さっさと買ってこい。ツナとトマトのサンドイッチが食いたい」
「はーい。行ってきまーす」

嬉しそうに駆け出してった蔵馬を見送り、俺は大あくびをする。
クッションソファで二度寝をしようと、くるんと丸くなった。

「んにゃ?」

丸くなった拍子に、パジャマから光が零れ出した。

虹のような七色の光。

何かを祝福するかのように胸元の石は、
朝の日差しに、強く強く、輝いた。


...End.
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