call...side Kurama「じゃあな」彼はたいてい、別れ際にそう言う。 ***
一人きりでの夕食なんて、作る甲斐も、食べる甲斐もない。手早く終えて、ベッドで本を読んでいた。 読んでいた、というのは語弊がある。 本を開いて、考え事をしていただけなのだから。 いつも通り、飛影のことを考えていた。 最近ろくに会いに来てもくれない、愛しい恋人のことを。 ならばこちらから、と、会いに行ってみれば、大怪我をして意識不明でポッドに入っていた、困った恋人のことを。 読みもしない本を開いたまま、魔界に思いをはせていたオレの元に、よく知る気配。 「…あれ?」 まるで妄想が形になったかのようだった。 気配を感じた瞬間、窓が乱暴に開き、飛影は飛び込んできた。 ***
「じゃあな」裸のままベッドから降り、彼は乾いた声で言う。 体のあちこちに吸われた痕を付け、白い足に精液と血の二色の筋を残したままで。 まさに妖怪らしく、淫らに、激しく交わった。 彼が求めるままに、日付が変わるまで何度も突き上げ、散々に鳴かせた。 「あ!あ!ああっ、ん!!」 飛影は、ひどく積極的だった。 自分から口を使い、慣らしてもいない尻を開き、感じるままに声を上げ、喘いでいた。 オレは幾度も彼の耳元で甘い言葉を囁く。 今夜の彼は様子がおかしかったが、オレは結局、いつだってどんな彼だって、愛しているのだから。 飛影は睦言に返事は返さない。それはいつものことだ。 けれど聞こえている証拠に、オレが愛していると囁く度に、彼の内部はきゅ、と一層きつく締まるのだ。 「……蔵馬…」 交わりながら、彼はオレの名を呼ぶ。 なぜかそれは、切羽詰まった響きで。 そんな交わりの後だというのに、彼はあっさりと、じゃあな、と言い捨て服を拾い上げた。泊まっていってと頼むオレに、明日はパトロールがある、などとつれないことを言いながら。 袖のない服は飛影の白い首から肩をむき出しにしていて、その肩には最近癒えたばかりの傷が薄赤い痕を残していた。 肩から首筋のすぐ近くまで続く、傷跡。その傷は、と、問うたオレに、お前には関係ない、と彼はにべもない。 日々、戦闘と訓練に明け暮れているというのに、飛影の肌はなめらかに白い。 この白く綺麗な肌に、他の者が…飛影の命を奪おうとした者が…付けた傷跡など、オレは見たくないのに。 「…じゃあな」 短い、別れの言葉。 それは二三日の別れであっても、一年の別れであっても、きっと同じで。 もしかしてそれは、今生の別れでも同じなのではないかと、オレは時々こわくなる。 ああ、そうか。 オレは、こわいんだ。 だからオレは、 「飛影」 なんだ、と彼は振り向き、不審そうな顔をする。 「…じゃあな、って言わないでくれないか。飛影」 我ながら深刻な響きになってしまい、慌てて軽い口調に努める。 せめて、じゃあまたな、って言ってよ。 その方がほら、すぐにまた貴方に会える気がするからさ。 この間だってオレ、会いに行ったのにポッドに入っちゃってるし。がっかりしたよ。 オレはそんな風に愚にもつかないことを、いかにも軽薄そうに口にし、彼を呆れさせる。 「…何が気に入らないんだ?」 「……じゃあな、って」 彼の白い肌の上で、いまいましく目立つ薄赤い傷跡から、オレは目をそらす。 じゃあな。 じゃあ、またいつか。 じゃあ、さようなら。 そんな意味だったらどうしようと、あるいは、 そんな意味になってしまったらどうしようと、 オレは恐れている。 欲しいものは何もかも手に入れて、何もかも壊してきた。 妖狐蔵馬は、かつてのオレは、そういうやつだったのに。 こんな幼い、小さな妖怪を失うことを恐れて、たかが言葉一つを深読みして、動揺して、傷付いているなんて。 本当に、馬鹿みたいだ。 「おい、どうした…な、っ!?」 小さな体を床に押し倒し、彼が締めたばかりのベルトを、オレは片手で引き抜く。 ズボンを裂くような勢いで足首まで降ろし、汚れた内股に口づけた。 「…蔵、馬…?」 「薬、塗ってあげるよ」 「な、や…あ…!」 足首に絡まるズボンのせいで、飛影はおむつを替える赤ん坊のように足を持ち上げられ、尻をさらす。 肩につくほどに膝を曲げさせ、無理な挿入で裂けたそこを舐めてやる。 「あっ!やめ、くら…んんっ!」 血の味。 舌先に感じるそこは、ヒクッと淫らに動いた。 傷薬と鎮痛剤を兼ねる実を口に含んで噛み砕き、ゆっくりと舌を差し込んだ。 熱くうねる内部の裂傷に、丁寧に、丁寧に薬を付けてやる。 「あ!ァ、イ、ア…」 そっと舌を抜き、零れた薬を舐め取る。 頬を赤くする飛影をちらりと見下ろし、元通りズボンを履かせ、きちんとベルトもとめてやる。 「……変態」 「変態?かもね。でも」 オレが本当は、貴方に何をしたいのかを知ったら、今までのオレなんてかわいく思えると思うけどな。 オレの言葉に、飛影はわけが分からないと言いたげに、眉をひそめる。 「オレに…何をしたいんだ?」 「…貴方を牢に閉じこめて」 誰にも会わせない。誰とも喋らせない。幽助や桑原くんや、もちろん雪菜ちゃんにもね。 このオレ以外の、誰とも会わせない。 貴方が泣いてもわめいても、牢から出さないよ。 「…そして、手錠で互いの手を繋いで、毎日、毎時間、一秒たりともオレの側から離さない。ずっとずっとね」 手錠を鳴らして、交わって、貫いて、声を聞いて。 そうだ。オレはずっとそうしたかった。 今もまだ、本当はそう願っている。 髪の毛の先から、つま先まで、飛影をオレの、オレだけのものにする。 そうして、彼と永遠に一緒に生きて、彼とともに死ぬ。 互いの腕の中で、事切れる。 そうできたら、どれほど幸せだろうか。 赤い瞳が、瞬く。 呆れるか、怒るか、軽蔑するか。 飛影は… 「やってみろ」 そう言った。 飛影の赤い瞳に喜びの色が見えたのは、オレの気のせいだろうか? 「…やれるものなら、やってみるがいい。蔵馬」 マントをばさりと肩に羽織り、彼は窓枠に足をかけた。 「じゃあな、蔵馬」 トン、とその足が窓を蹴った瞬間、小さな声で… …またな。 飛影は、そう言った。 小さな声で、けれども確かな、その声で。 ...End |