Anniversary「…人を呼びつけるとはどういうつもりだ?用があるなら貴様が来い」いつもの部屋で、いつもの笑顔で、窓を開けて出迎えた蔵馬に、飛影はしかめっ面で言った。 靴は脱いでよ、という言葉を無視し、飛影は土足で部屋の床に降り立つ。 「何の用だ?」 「まあ座ってよ」 「用が無いならオレは帰…」 そこで飛影は口をつぐんだ。 いい匂いがすると思ったら、テーブルの上にはいろいろな料理が並べられていた。 相変わらず人間界の料理は鮮やかで、手が込んでいる。 中でも一際目立つ。白くて丸い、大きなもの。 赤い果実が円に添うようにぐるっと並べられている。 「…飯を食わすためにわざわざ呼んだのか?」 くだらんことで呼ぶなと言いたい所だが、人間界に初めて足を踏み入れてからまだ一年程。食べれればなんでも構わない、という魔界での食生活が不満なわけではないが、この世界の食べ物は飛影にとって魅力的な物だった。 「それもあるけど、今日は記念日なんだ」 「記念?」 ホールケーキから苺をつまみ、飛影は口に放り込む。 それはデザートなのに、という蔵馬の言葉など知ったことではない。 「あなたと、一年前のこの日、初めて会ったんだ」 だから、お祝い。ファーストアニバーサリー。 自分で言っておいて、蔵馬は吹き出した。 「何がおかしい?」 「いや、オレ、なんか人間の女の子みたいなこと言ってるなー、って」 「一年経ったからなんだっていうんだ?そんなことが人間界では祝いになるのか?」 「そうだよねー」 自分でもおかしくなっちゃった。 蔵馬は笑いながら、美味しそうな料理を取り分け、飛影の前に置いた。 もちろん、その前に靴を脱がすのも忘れない。 一年、か。 初めてこいつに会ってから、一年経ったのか。 出された料理を、飛影は黙々と食べる。相変わらず、人間界の食べ物は美味かった。 死んでいてもおかしくはなかったのに。 敵の前でぶっ倒れるなんて、我ながら間抜けにも程がある。 だが、この半妖はオレを殺すどころか、自分の家に連れ帰って手当てをしたのだ。 あの日、目を覚ましたのは、まさにこの部屋で… …このベッドだった。 食事をしているテーブルからそう離れてはいないベッドを眺める。 …傷の手当てを受け、眠っていた。 まさかこのベッドに何度も一緒に眠ることになろうとは、お互い思っていなかった、はずだ。 飛影はわずかに頬を赤らめ、出された次の皿に手を伸ばした。 ***
「ん…」満腹で横たわったベッドは、ひんやりと清潔で。 いつの間に服を脱がされた飛影は、シーツの滑らかな感触を楽しむ。 「…ねむい」 「お腹いっぱいになるとすぐそう言うんだから。今日はダーメ」 だめ、も何も、蔵馬はすでに飛影を裸にし、白い首筋を唇でなぞっていた。 所々痕を残すように強く吸い、鎖骨や胸元にも唇と落とす。 「んあ…」 蔵馬の技術は巧みで、それでいて力強い。 時折とんでもなく変態的な行為を強要されることもあるが、どうやら今日の蔵馬は“記念日”らしく“マトモな性交”をするつもりらしい。 「どっちがいい?」 しばし迷った後、飛影は小さく、手、と呟く。 口でしてもらうのは極上の快感だが、どうにも気恥ずかしさは拭えない上に、蔵馬の顔を見ることができない。 もちろん一度も口に出して言ったことはないが、キスをしながら、手でイカせてもらうのも飛影は気に入っている。 「あ!…ああ、ん…」 蔵馬の指が半分勃ち上がりかけていたものにからみつく。 その指は少し冷たくて、熱くなったそこにはたまらない。 「うあ!ん、んん…っあ!」 クチュ、という湿った音が聞こえる。 根元から先端へ、指はゆるゆるとしごき、こすり上げる。 先端の小さな穴を引っかくような爪の感触に、飛影の腰がぶるっと震える。 「ぃ、つっ…あ…」 「いいよ。イッて」 そう言われてすぐに出すのは癪だ。 思わず下腹部に力を込めた飛影だったが、蔵馬のもう片方の手が尻の狭間を押し広げ、その奥の息づく穴を指の腹でギュッと押した途端、あっけなく吐精した。 「ああ!アアアァァアアっ!」 吹き出したそれを蔵馬は手の平に受け止めると、ヒクヒク動く尻の奥に、たっぷり塗り込んだ。 その狭い入口を三本の指がいったりきたりする頃には、飛影はすっかり全身を桃色に染め、頭を反らして喘いでいた。 ***
「あ、っあ、っんあ!っあ…」浅い所を突かれる時は、ほんの少し物足りないような、ただただ甘い快感が味わえる。 深い所を突かれる時は、強すぎる快感と同時に身を捩りたくなるような苦痛も味わう。 「あっあっ、う、ぐ、っあ!!…んん、くら、ま…」 「ん?なあに?」 「くらま…おま…え…は…っ」 飛影は律動に合わせて切れ切れではあるが、小さく笑った。 「あの、日…っ!こ、んなこと、を…オレ、と、するようになる…なんて思わなかった、だろ…」 「まさか」 だろうな、と飛影がもう一度笑おうとした時、蔵馬はニヤッと笑うと、ぐうっと奥深くを突いた。 「あ、ぐう!! うあっ…!痛うっ…」 「思わなかっただろうって?まさか。オレはね…」 最初から、あなたに会った瞬間からこうなるってわかってたよ。 だからぶっ倒れたあなたを家に運んで、手当てをしたんだ。 そうでなきゃ自分に襲いかかってきた敵をわざわざ助けると思う? 「え…?あ、あう!」 ぎりぎりまで引き抜き、一気に押し込む。 グチュンと濡れた音を立て、狭い肉壺は肉棒を受け入れる。 思わず声を漏らす飛影の唇を啄ばみ、蔵馬はなおも言った。 あなたを助けて、ここに寝かせて、服を脱がせたんだ。 傷を洗って、薬を塗って…あなたの全身を、全部見たよ。 あなたが自分では見えないような所まで、しっかりと、ね。 「……変態…あっ、あっ!」 「どこが?紳士的だろう?あの時は抱かなかったんだから」 「あ、ああ、あああ!」 「…あの時すぐにでもこうしたかったけど、ケガ人を抱くのもなんだしね」 喋りながらも、蔵馬は腰の動きは一時も止めない。 強く激しく、小さな体を穿つ。 温かく狭い肉の中を、突いて突いて、赤い瞳を潤ませる。 「も、やめ…う…アアアアアッ!!アアッ!!」 甘い苦鳴を上げて、小さな体がベッドに沈んだ。 ***
「…さっきの話…」横たわる飛影が、呟いた。 大人しく一回戦で終了し、二人はベッドに横たわっている。 壁を向く背中を後ろから抱きしめ、蔵馬は短い黒髪に顔を埋めていた。 「さっき?」 「…最初から…オレとこうするつもりだった、ってのは…ほん」 「本当だよ」 だから、 「来年も、再来年も…ずっと側にいてね」 「…嫌なこった」 「助けてあげたのに?」 「恩着せがましい。誰が頼んだ?」 「飛影…」 「…側にいたけりゃ貴様が魔界に来い」 呼び出された揚げ句、ケツが痛くなるような思いをしていられるか。 そう吐き捨てた飛影だったが、その言葉にトゲはない。 「じゃあ、来年も、再来年も、オレがずっと側にいるね」 「…迷惑だ」 そう言いながらも飛影はくるりと寝返りを打ち、蔵馬の腕の中に納まった。 あっという間に寝息を立て始めた飛影を見下ろし、今日何度目になるかわからない笑みを蔵馬は浮かべた。 来年も、再来年も、 十年後も、百年後も。 ずっとずっと側に。 ...End |