負け戦「蔵馬!」幽助が、凍矢が、酎が、鈴木が鈴駒が死々若丸が陣がオレが名も知らないやつまでが、蔵馬を呼ぶ。 蔵馬はごく自然に、それに応える。 もう十回目になる魔界統一トーナメントが、もうすぐ開催される。トーナメントの抽選会場は広く、妖怪たちで溢れかえっていた。 ざわめく会場で、蔵馬に声をかける者は絶えず現れる。 古い仲間だけではない。 黄泉やその息子や癌陀羅のやつらもまた、蔵馬の名を親しげに呼ぶ。 …いらいら、した。 誰かに名を呼ばれる度に、律儀に振り向く蔵馬。 蔵馬の肩に腕を回し、バカ笑いをしている幽助。 笑顔さえ見せて、楽しげに対応する蔵馬。 何もかもに、いらいらした。 毎年増える参加者に、瑠璃玉よりもずっと簡略化されたくじが使われるようになったのは何年前のことだっただろうか。 抽選会場には、人間界の何かを模したという小さな穴の開いた筒が並べられ、中にはブロック名の記された棒が入っていた。 「オレ、引く意味あるのか?」 オレの隣では躯が、ボヤきながらガラガラと筒を振り、くじを引く。 ここ三年、躯は続けて優勝していた。同じブロックに当たったやつらはみな棄権してしまうので、躯にとって予選は無意味なものでしかない。 「おい、飛影。聞いてるのか?」 呼ばれていたことに、今気づいた。 長い黒髪から、のんきな笑みから、オレは視線を引きはがす。 「…なんだ?」 「オレは16ブロックだ。お前は?」 躯がくじを引いただけで、すくみ上がって震えている妖怪の持つ筒を受け取り、オレも一本棒を引く。 「8ブロックだな」 「なーんだ。お前が同じブロックなら予選もちょっとは暇つぶしになったのにな」 暇つぶしという言葉にムカッときたが、そろそろ本気出すか、躯がそう言ったのは三年前で、それ以来、躯は負けなしだ。 自分の不甲斐なさを情けなく思うべきなんだろう。けれど。 「暇つぶしだと!?」 「なんだその態度。散々付き合ってやっただろ。悔しかったら暇つぶしって言わせないくらい強くなれよ」 ぐっと詰まる。 そうだ。 この三か月程、トーナメントに備えて追い込みをかけようと、オレは躯との手合わせという名の戦闘に明け暮れていた。 当然、蔵馬に会うのも三か月ぶりだ。 なのに。 なんだあいつ。 へらへら愛想振りまきやがって。 ……さっさと、オレの所へ飛んでこい。 犬みたいに走ってこい。 バカが。 チャリ、と小さな音を立てる冷たい物が、手のひらに押し込まれる。 なんだ?と見上げた先には、片目だけで躯がニヤニヤ笑っていた。 「前回優勝者のオレには、特別に控室があるんだとよ」 たかが抽選会だというのに、部屋?優勝者は特別扱いなのか。 そんな部屋などどうでもいいが、一度もこの女に勝てたことがないという事実を思い知らされ、また腹が立つ。 「百足で来てるのに、わざわざそんな部屋などオレはいらん」 使いたきゃ、使ってもいいぞ。 手のひらに押し込まれた鍵ごとオレの手を握り、躯は言う。 「いらん!」 「そうか?お前どうせあいつらが抽選終えるの待つんだろ?」 「え?…あ、ああ」 躯が顎で指す先には、幽助を中心とした輪ができている。 蔵馬のことをからかわれたのではなかったのかと、オレは内心慌てる。 あやうくかかなくていい恥をかくところだった! オレ、百足で寝る。じゃーな、と躯は行ってしまう。このごった返した会場でも、まるで海が割れるかのように躯の前には道ができる。 手の中の鍵は銀色で、忌々しい狐を思い出させた。 ***
ソファとテーブル。テーブルの上には、いくつかの酒瓶と、グラス。 なんだかよくわからない、果物のような物。 ソファに転がり、目を閉じる。 近付いてくる、気配。 「…さっさと来い」 オレの呟きが聞こえたかのように、扉が静かに開いた。 「へー。今日は抽選だけなのに、優勝者は控室なんてあるんですねえ」 きちんと扉を閉め、蔵馬は鍵をかける。 寝そべるオレの隣に腰を下ろし、グラスに酒を注ぐ。 「誰が座っていいと言った」 オレの髪を撫で、蔵馬はくすりと笑う。 相変わらず綺麗な顔で、綺麗に酒を干して。 「会いたかったよ、飛影」 なんのひねりもない言葉。 「嘘つけ」 「本当ですよ」 「じゃあ」 じゃあなんでオレの所にすぐ来ない、などと聞くのははばかられて、オレの言葉は尻すぼみになる。 「だって皆の前で押し倒すわけにもいかないでしょう?」 「なんだと!?」 「あ、別に良かったですか?」 「ふ、ふざけるな!」 「わざわざ個室を用意してくれるなんて気がきいてますねえ」 「…ここでならいいとでも思ってるのか」 「違うんですか?」 いつの間にやら蔵馬はオレに覆い被さってきていた。 まあ、三か月ぶりだ。キスくらい、いいか…。 キスを受け止め、長い髪に包まれる。 蔵馬の舌は、熱くやわらかい。 「貴方が見てたこと…オレが気付いてないとでも?」 「……ん、は」 「三か月も会ってくれないなんて…ひどい話じゃないですか」 「ん…ぁ」 「意地悪もしたくなるじゃない?」 「……くら…ぁ」 「まったく…勝手なんだから…」 「…ん、あ!」 タンクトップの中を探る指に乳首をぐいっと摘まれた。 ぐにぐにと揉まれ、引っぱられ、思わず声が漏れる。 こんな場所を弄られることでフワフワした気分になるなんて、蔵馬に会うまでは知らなかった。 キスをしたまま、胸元をまさぐられる。いらいらしていた気分さえ、そのフワフワに溶けてしまう。 気持ちよさに長く息を吐いた隙をつかれ、するりとズボンの中に潜り込んできた、手。 「…っ!おい…」 人の制止も聞かずに、長い指が卑猥に動く。 三本の指にキュッと握られ、扱かれ、下肢がぶるっと震える。 「…やめ、こんな所…で…」 「え?そのための個室でしょう?」 「……違っ、ア、ア」 やば、い。 服の中で、出してしま… 「アアっ…?うああ、アアアア…ッ!!」 いきなりズボンを引き下ろされ、勃起していたものがピンと露出する。 蔵馬の人差し指、尖った爪で先端を突かれ、弧を描くように吹き出した液体が、硬い石の床にピシャッと跳ねた。 「…この…っ!バカ野郎…っ」 ここまでするつもりはなかったのに! この、変態狐が!! 「ねえ、飛影」 出し切った先端をつつき、蔵馬は笑う。 「見てみなよ。貴方の格好ったら」 「……何を」 見た。 見て、しまった。 胸元までまくり上げられたタンクトップから覗く乳首は真っ赤で。 膝のあたりまで下ろされたズボン、その上にはだらんと萎えたものが、まだピクピクしている。 尻の奥に、熱い震えが、走る。 今度はオレの番だとでも、主張しているかのように。 「……あ」 「お尻の方は、どうかなあ?」 「…や、め…!」 膝の辺りにわだかまるズボンをそのままに、靴もはいたまま、足をぐいっと持ち上げられる。 明るく広い部屋の真ん中で、わざわざ尻の穴を見せつけるような姿勢に顔から火が出そうだ。 「…ヒァッ!!」 フッと息を吹きかけられ、穴がギュウと窄まるのがわかった。 「やめろ…っこんな所、で、ア、アウ!!」 舐めやがった!! 信じられん! ここをどこだと思ってるんだこいつは!? この建物の中には、黄泉や幽助や酎やなんかがいるというのに! 「あのさ、飛影…」 もしかして、オレが怒ってないとか、思ってます? 三か月も百足に篭りっきりで、躯と二人っきりでさ? 「なっにを、バカ、な…あう!アウアッ!!」 舌先が、ねじ込まれた。 ぬめぬめとしたものが入口の穴を広げるその感触に、ソファの上で、体が跳ねる。 「や、あ、あ、ああああぁ…ん!! …ん」 くちゅくちゅ。 にちゃり。 体内を侵食してきた舌に、穴どころか腸まで舐められる。 ねっとりと、腸を広げる、その動き。 「んぐっ!んあ!やっ…あっあっあっ…」 くそ。 またイキそうだ。 まずい。 ちゅぽん、と水音を立て、舌が抜かれる。 瞬間イキそうになったが、なんとかギリギリ、耐えた。 「さて、どうします?」 「……あ?」 引っかかっていたズボンを脱がされ、足を深く折り曲げられる。 自分の足と足の間から見上げる蔵馬の顔は、意地の悪そうな、笑みを浮かべている。 「続き、します?」 「な……」 前は腹に付きそうで、尻の穴はぱくぱくしているこの状況で、それを聞くのか!? オレはもう待ちきれなくて、下腹をぶるぶる震わせているというのに!? 「きっさま…!」 「だってー。飛影がここじゃちょっととか言うしー」 ぬるぬるとなぞってみたり、軽く押してみたり。 待ち望んでいる穴を、蔵馬の指は絶えず刺激する。 「やあ、あっ、あ、あ、ああ…」 「オレは飛影のこと愛してますからね。貴方の望む通りのことを、したいんだ」 しれっと言うその口を、ぶん殴ってやりたい。 この陰険でエロでサディストで変態のクソ狐が!! 「………ぃ…ろ」 「ん?」 「ぃ…れ……っ」 「はい?よく聞こえませんけど?」 「ーーーー!!!!! いれろ!!! 早く!さっさといれろっ!!」 ああ。 言ってしまった。 おまけにイッてしまった、なんて言ってる場合か!! ずぼずぼずぼずぼぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ、人のケツの穴に抜き差しをする、蔵馬。 嬉しそうに腰を振って出し入れをしている姿は、まるで犬だ。 「アッ!アッアッアッアッアッ!!」 「ひえ…い…飛影…飛影…好き…だ、よ…」 「アッ!アッアッアッアッアーーーーッ!! ヤアア!!」 ああ、なんでオレは、こいつを。 このバカを。 汗を落としていても、綺麗な顔。 わずかにしかめられたその形のいい、眉。 宝石みたいな、瞳。 だめだ。 オレは、こいつが。 こいつのことが。 オレは心の底からの溜め息をつき、蔵馬に合わせて腰を大きく振り始めた。 ***
「予選ごときで、なんで苦戦してるんです?」なんとか、どうにか、8ブロックはオレの勝利だった。 終わった途端、地面にばたりと転がったオレに向かって、かけられた言葉。 「貴様が!! あんなに!! したからだっ!!!!」 翌日の予選に響くくらい、した。 というか、された。 狂ったように腰を振るアホ狐に、終いには一発、拳を見舞って止めさせた。 今日になっても、腰はがくがく尻はずきずき、予選だというのにあやうく負ける所だった! 必死で洗ったはずの中から、戦闘で動く度にトロッと液が下りる感触に、まったく冷や汗ものだった。 「だって、いれろって言っ」 「黙れ!!! 殺すぞ!!」 場外には、オレがぶっ飛ばしたやつらがそこここに転がっている。 聞かれたらどうするんだ! 自分はさっさと予選を終えたらしい蔵馬が、寝ころぶオレの腕を引く。 「なんだ?」 「ホテル、取ってあるんです」 本選まで、あと二日もあるじゃないですか。 「楽しみましょう。ね?」 だめだやめておけ!逃げろ!という心の声は聞こえていたというのに、 花の咲くような笑顔を向けられ、オレは結局またもや捕まってしまったのだ。 トーナメントの結果? 聞くな! ...End. |
10月6日は「イレロの日」!とのことで いつもお世話になっている「miao」のモリャさまご生誕日です! お誕生日おめでとう!イレロの日おめでとう!良い一年になりますように! 今年も蔵飛話にお付き合いくださいね 実和子 |