13.傷

今日は出血が多すぎた。
さすがにめまいがする。

「まったくもう。最近ケガが多いよ。油断してるんじゃない?」

蔵馬がオレの肩から腹にかけての傷に塗った何種類かの薬はあっという間に出血を止めたが、そもそもここに着くまでに血を流しすぎた。

「…寒い」
「あったり前でしょ。こんだけ出血したら貧血起こすのは」

手際よく傷が縫い合わされ、薬が塗り込まれ、包帯が巻かれる。

蔵馬は半分本気で怒っている。
毎度毎度面倒かけさせやがって、という事なのか、オレを心配しての事なのか、わからない。

「…手間をかけたな。帰る」

そう言って立ち上ったオレの腕を、傷に響くような力で蔵馬がつかむ。

「っつ…」
「ダメ。そんなフラフラしててどうするの。今夜は泊まっていって。これを飲んで一晩寝たらだいぶ良くなるから」

小さなカップに、毒々しい液体が入っている。
オレがその中身を眉をしかめて飲んでいる間に、蔵馬はベッドを整え、枕をポンと叩く。
抵抗する間もなく、血やらなんやらでドロドロに汚れ、ボロ切れと化した服を脱がされ、蔵馬の寝巻きを着せられる。

「はい。いいですよ」
「…お前はどこで寝るんだ?」
「ソファでも床でも平気。気にしないで」

そう言ってやつはソファに座り、オレの訪問で邪魔されたらしい読書の続きに戻る。
碧の目がベッドを指し、早く寝ろと促される。

オレは大人しくベッドに横になり、ソファとは反対側の壁の方を向く。それを見ていた蔵馬が溜め息をついた。本を置いて立ち上がり、オレの体を逆向きにする。

「ほら、そっち向いて寝たら傷に響くでしょ。こっちを向いて寝るの」

世話がやけるなあ、そう言いながら蔵馬はオレに毛布を掛け、電気を消した。傷はまだドクドク脈打ってうずくが、横になった途端、猛烈な眠気が押し寄せる。

「まったく。ここは病院じゃないんだからね、飛影。あなたときたらケガした時にしか来ないんだから」

月明かりで本を手繰りながら、蔵馬がぼやく。

だって…

トロリとした眠りの闇に包まれる寸前、オレは口には出せない事を考える。

だって、ケガもしていないのにここを訪れたら…
まるで、お前に会いたかったみたいじゃないか。

…まるで、オレがお前の事を

……好きみたいじゃないか。


...End.