11.プライド

「そうだなあ。どっちかっていうと薬草に関してはオレの方が得意だよ」

蔵馬は薬草棚からいくつもの瓶や乾燥させた花や葉を取り出し、これまたいくつもの小さな鍋を煮立てていた。

「採取するのは妖狐は上手だよ。でもこうやって煎じたり調合したりは面倒くさがってるんだ」

温室、蔵馬がそう呼んでいる魔界の隠れ家の一つで、オレは何を手伝うわけでもなくぼんやりとその作業を眺めていた。

「…別のやつみたいに言うんだな。どっちみち貴様だろう?」
「うーん。でもねえ。やっぱり妖力がかなり違うから…性格にも差が出るんだよね」
「つまり、今の貴様の方が腑抜けな訳だな」
「失礼な。頭の回転の方は健在ですよ」

蔵馬は苦笑すると、煮立った液体を瓶に小分けにする。

水色、薄桃色、白色、黒色。
色とりどりの液体が入った瓶が並ぶ。

「…何の薬なんだ?」
「いろいろ。傷を治す物とか、人を殺す物とか」
「一緒にするな」
「人を惚れさせる物とか」
「惚れさせる…?」

オレは眉をしかめて、蔵馬を見遣る。

「…貴様はそういう物を…使うのか?」
「オレ?ううん。まさか。でも欲しがる妖怪は多いんだよ。だから価値はある」

金よりこっちを欲しがるやつもいっぱいいるよ。
だから情報屋なんかに情報と引き換えに渡してるんだ。

喋りながらも蔵馬は手を休めず、薄桃色の液体は次々瓶に移される。

「だいたいさ、オレには必要ないじゃない?」
「……?」

こんなもの使わなくたって、あなたはオレの事好きでしょう?
だから、オレには必要ないよ。

蔵馬は笑ってそう言った。

オレは天井を仰いで溜め息をついた。
こいつのずうずうしさ、自惚れの強さ、分かっているのに時々辟易する。

だが、本当に辟易しているのは自分自身に対して、だ。

「…オレは、貴様なんか好きじゃない」
「ほんとに?じゃあこれ飲ませちゃおうかな」
「…貴様、そんな物で惚れられて嬉しいのか?プライドってものはないのか?」
「うん。ない」

蔵馬はあっさり頷く。

そりゃあこんな物なしで惚れさせたいけど、もしダメなら使っちゃうよ。
プライド?馬鹿馬鹿しい。
本当に手に入れたいものは、手段なんか選ばないよ、オレは。

そう囁きながら、いつの間にか蔵馬の顔はオレの目の前にあり、左手は背中を抱いていて…右手は下衣の中に差し入れられていた。

そのままソファに押し倒され、唇が重なる。
服の中で巧みに動く右手にオレはたまらずに吐息を漏らす。
ぼんやり映る視線の先には、薄桃色の液体が満たされた瓶。

…あれをオレに使ったと言ってくれたら、良かったのに。

蔵馬の右手が育てているオレの快楽の中心は、すでにみっともない自己主張をしている。

「んん…あ、あ…ん…」

あれをオレに使ったと言ってくれたら、今ここでこうしているのは、やつの言いなりになって体を開くのは、

オレの意思じゃないと、言い訳が出来たのに。

おのれのささやかなプライドを守りたいがために…

…せめて、言い訳をしたい。
なんて、我ながら腑抜けてる。

オレは小さく舌打ちをすると、自ら下衣を膝まで降ろし、蔵馬を受け入れるべく足を広げた。


...End.