05.妖術両手で持てるほどの大きさの白い水盤の底には、奇妙な円陣が描かれている。その水盤の周りに一定の間隔で並ぶ青い蝋燭の火は、すでに消されていた。 「何をしてたんだ?」 「ちょっと偵察したい場所があってな」 「妖術か…?」 飛影にしては珍しく、興味津々といった様子で尋ねる。 「興味があるのか?」 「…まあな。戦闘用の妖術以外あまり見たことはないからな」 「そうだな。お前の周りにはあまりこういう術を使う者はいないな」 幽助や躯のように、飛影の周辺の者はどちらかといえば肉弾戦を好む。 時間をかけた作戦や術などはあまり得意ではなさそうだ。 術を使う間は邪魔だったのでゆるく束ねていた銀色の髪を、蔵馬はほどいた。 飛影が一瞬、背に広がる銀糸に見蕩れていたことなど蔵馬はお見通しだ。 「もう、終わったのか?」 「ああ。もう済んだ」 「なんだ。つまらん」 どうやら本当に興味があるらしい。 「そうだな…」 普段よりも長い指、尖った爪の先で蔵馬は水盤の底を指でなぞる。 奇妙な丸や線は水に溶けるように消え失せ、また別の円陣が現れる。 先ほどまでの銀色の線ではなく、赤い線で描かれていく、円陣。 「オレの眼でも、視えない場所も見れるのか?」 ちょっと面白くなさそうに飛影は尋ねる。 それはそうだろう。 死ぬほど痛い思いをして得た眼なのだから。 「お前の邪眼と見れる範囲はそう変わらんさ。だが時間もかかるし場所も選ぶ。邪眼の方がずっと優れている」 一刻を争う時だったらのんびり水盤なんぞ覗いてる場合じゃないからな。 蔵馬はそう言って笑った。 「第一、これは違う。この円陣は遠くを視るための物じゃない」 「そうか。これはなんなんだ?」 水盤を覗き込むようにして、飛影は尋ねた。 「たった今、お前に術をかけたのさ。淫らな気分になれるように、な」 蔵馬は涼しげな顔をして、そう答えた。 ***
水盤の上に、一瞬沈黙が落ちる。「…何を…!オレは…術になどかかってない!」 「かかってるさ」 「かかってない!!」 「かかってるさ…ほら、その証拠に…熱くないか?」 飛影はハッとしたように、目を見開く。 そういえば…なんだか熱い…? さっきまでこの部屋は涼しくなかったか…? 銀糸をかき上げ、蔵馬はクスクス笑う。 「…もうすぐ、全身がドクドクし始める」 その言葉を合図にしたかのように、飛影の体がビクッと震える。 下腹がじんわりと熱を帯び、くすぐったいような感覚を覚える。 「…ぁ…」 「ほら、な」 「っ貴様…そんな…卑怯だぞ…!」 脈打つ胸元を押さえ、飛影は詰る。 「卑怯?油断する方が悪い」 人間たちに関わりすぎて、魔界のルールを忘れたのか? 狐は金色の瞳を細めて、意地悪くそう言い放つ。 そう言われると、飛影は何も言い返せない。 黙ったままくるっと振り返り、そのまま隠れ家を飛び出そうとした。 「おっと」 「放せ!!」 あと一歩という所で、大きな葉の植物が扉を塞いだ。 それを切り捨てようとした飛影の腕を、大きな手が掴む。 「放せと言っ…」 剣を持ったままの腕を捩じり上げられ、硬い石の壁に押し付けられた。 乱暴な、獣のキス。 硬質な音を立てて、力の抜けた飛影の手から剣が落ちた。 「…っつ!」 飛影に唇を噛みつかれたが、蔵馬は構わず舌を差し入れ口内を弄る。 「ん…あ…っぐ…」 血の味のするひどく長いキス。 「っぐ…んん…」 蔵馬がようやく顔を離すと、とろんと瞳を潤ませた飛影が、肩で息をしながらこちらを見上げていた。 血と唾液に濡れた口元は、薄く開いて桃色の舌を覗かせていた。 「続きはどうする?」 ニヤッと笑って蔵馬は問う。 「……ここじゃ、背中が痛い」 頬を赤らめそっぽを向いて言ったその言葉。 素直ではない了承の意。 了解、と 蔵馬は飛影を抱き上げた。 ***
「あ、あ、…ん…そこ…」「イイんだろ?」 仰向けに寝かせ、足を肩につくまで上げさせる。 大きく開かれた尻の奥を、蔵馬は丁寧に舐め回していた。 襞の一つ一つを確かめるように、ゆっくりと舌が這う。 穴の外側だけを執拗に舐めるその動きに、焦れた飛影が声を上げる。 「あっ!あ…もう……」 「もう?もう何だ?」 「……っ!!」 そろそろ中を舐めて欲しい、などと言える訳がない。 きつく唇を噛み、飛影は顔を背ける。 だが飛影よりも素直な局部は、ヒクッヒクッと収縮し始め、小さく口を開けた。 そこから見える紅色の腸内は、濡れた粘膜を蠢かせていた。 「…ぁん…く」 妖狐の時の蔵馬はいつだって意地が悪い。 与えられる刺激にすっかり天井を向いて透明な滴を零し始めている前には、少しも触ってくれない。 「も、う…」 飛影の手は無意識に、自分を慰めようと下肢に降りる。 ビクビク揺れるそこに、指が触れるか触れないかのその瞬間を見計らったかのように、蔵馬が直腸に舌をぐっと捩じ込んだ。 「あ!アアアアア!! んっあ!」 その反動で飛影は自身を力いっぱい握ってしまい、熱い流れが一気に噴き出す。 「…あ、んんん!あ…」 自分の手で達してしまった事実に、飛影は驚きと羞恥で赤く染まる。 普段なら自分で手を伸ばしたりなど絶対にしないのに! こいつが…あの…妙な術のせいだ…!! 「…イヤらしくなったもんだな。自分の手でイクなんて」 「き、さまが…」 長い髪を引っ張り、飛影はわめく。 「貴様のせい…っ!!」 「油断する方が悪いと言っただろう?」 「も、う…放せ!あ!あっん!」 飛影の下腹に飛び散った生あたたかい液体を、蔵馬の舌がゆっくり舐めとる。 「変態!やめろ!ん!」 萎えた棹はまたもや硬くなり始める。 片方の手でそれを育て、もう片方の手は待ちくたびれている小さな穴を慰める。 既に三本の指を挿れているが、飛影はそれにも気付かず喘ぎ声を響かせ、シーツに波をつくる。 「随分とここも濡れるようになったな…」 グチョ、グチュ、という蜜が滴るような水音を、飛影の尻の奥が淫らに奏でる。 「い!あ…ヒッ!…アア!」 指が中に吸い込まれるような、直腸の、動き。 力強く指を銜えた、そこ。 蔵馬はニヤリと笑うと、飛影にキスをし、囁く。 「気持ちいいんだろう?」 「よ、くない!っん、あ!ああ!もっ…」 もっと、なのか、もうやめてくれ、なのか。 赤い瞳は強すぎる愉悦に涙を零す。 「もう…無、理…苦し…ひっ!ぐっう!アアアアン!!」 ジュポッ、と勢い良く指が抜かれる。 その摩擦感に飛影が悲鳴にも似た嬌声を上げた。 「あ!あ…」 ぽっかり口を開けたそこに、空気が冷たく感じる。 「ん…っふ…んあ…ぁ」 飛影の口の端から、唾液が一筋流れ落ちる。 「来いよ、飛影」 いつの間にか、蔵馬は仰向けに横たわり、太く大きなそれを真っ直ぐに勃ち上がらせて飛影を見つめていた。 「どうしたらいいか分かってるだろう?…乗れ」 嫌だ。 そんな恥ずかしい真似ができるか…! 飛影はゴクリと唾を飲み込む。 尻の奥が、抗議するかのようにキュウ、と収縮した。 …欲しい。 死ぬほど欲しい。 頭のシンが、指を抜かれた穴の中が、熱くて熱くて溶けそうだ。 あの赤い円陣。 あの赤が目の前に閃光のようにちらつく。 くそっ! 汚い手を使いやがって…! ふらつく足でなんとか立ち上がり、蔵馬に跨がった。 ヒクヒク動く自分の尻の奥にそれを宛てがうと、大きく息を吐き出す。 そのまま飛影は目を瞑って、一気に腰を落とした。 ***
「…卑怯者…」ドロドロに汚れた体でベッドに横たわり、飛影はまだ胸を上下させたまま毒づいた。 散々酷使された穴は赤く腫れ、中に出された液体をダラリと溢れさせていた。 「まだ言うのか?しつこいな」 楽しんだくせに。 蔵馬はケロッとした様子でそう言うと、寝そべったままグラスに酒を注いだ。 「楽しんで…ない!勝手なことを抜かすな!! 貴様がオレにあんな術を…」 「何の話だ?」 「術をかけただろう!オレに!」 「ああ。あれか。あれは嘘だぞ 」 またもや、部屋の中には沈黙が落ちる。 「………嘘…だと…?」 「嘘。信じてたのか?」 蝋燭に火を灯してなかっただろうが。 あの水盤で術を使うには蝋燭が必要なんだ。そんなことも知らないのか? 普段より気持ち良かったのか?なら、お前が淫乱なだけだ。 卑猥な笑みを浮かべたまま、蔵馬は説明する。 「きさ…ま…」 「そんなに騙されやすくちゃ、魔界じゃ命がいくつあっても足りないぜ」 「貴様…っ!!」 怒りに満ちた赤い瞳が、蔵馬を射る。 「……許さ…ん…!」 飛影の右腕の包帯が、はらりと解ける。 「おい、ちょっと待…」 「許さん!!」 次の瞬間、森全体を揺るがすような轟音が鳴り響き、蔵馬の隠れ家を黒い龍が吹き飛ばした。 ***
げほ、と噎せながら蔵馬は立ち上る。「あっ痛…あのガキ…」 冗談のわからんやつだなあ。 蔵馬は服をパタパタ叩いて辺りを見渡す。 隠れ家は瓦礫の山と化し、飛影はすでに影も形もない。 「…まったく…かわいいやつだ」 吹き飛ばされずに残っていた一本の木に、蔵馬は手のひらを当てる。 「さて…冬眠中のお姫様がどこにいるのか教えてくれ」 金色の眼が閉ざされ、あたりにざわりと緑が芽吹く。 樹木は主の命じるままに、居場所を風で囁いた。 ...End. |