02.返り血

服をぐっしょり濡らしている液体はずいぶん温かかったのに、みるみる温度を失って肌に冷たくはりつく。

手も、足も、体中が血に濡れている。
噎せるような血の匂い。

その香しい匂いを、オレは胸いっぱいに吸い込む。

血でぬるぬると滑る指で、オレの膝に頭を乗せて横たわる男の長い髪をかき上げる。

「オレは…ずっと前から決めていた…」

横たわる男はとっくに事切れていて…
……オレの言葉は誰の耳にも届かない。

「お前が、オレ以外の者を選んだ時は…」

冷たい唇に、オレは唇を重ねる。
固まりかけている血の滴を、きれいに舐めとる。

「…お前を殺すと」

冷たい身体に覆いかぶさって、きつく抱きしめる。
この身体が、オレを抱き返してくれることは、もうない。

そのままの体勢で、傍らに転がる棘のある薔薇を拾い上げた。
…こいつが、最期に使おうとして…やめた武器。

「蔵馬…」

棘はずいぶん大きくて、鋭くて、
…このために誂えたかのようだった。

「…蔵馬…愛してる」

一度も言えなかった言葉を、今ようやく言えた。

オレは自分の温かい首筋に、
それを、
ゆっくりと、
滑らせた。


...End.