LOVE DISTANCE

「ねえ、次はいつ会えるの?」
「…さあな」

人間界の、蔵馬の住むマンション。
久しぶりに会ったというのに、飛影はそっけない。

「さあなって…冷たいなあ」
「パトロールを免除されている貴様と違って、オレは忙しいんだ」

トーナメントの敗者に課せられたパトロールが嫌で嫌でしょうがない飛影は、嫌味っぽく返す。

「だってオレは人間界にいるから」

いたずらっぽく蔵馬は笑った。

「でも、その代わりオレは運営委員だからね」

敗者に課せられるパトロールを免除する代わりに、蔵馬は第二回からの運営に携わることになっていた。
運営は魔界の有力者たちが代表で行うことになってはいるが、頭が良く事務的な仕事もてきぱきこなせる蔵馬は、運営を手伝わせるにはうってつけだと皆が納得した。

「あ、じゃあ再来週会えるじゃない?」

ちょうど再来週には第二回トーナメントのための会議がある。

「あなたも来るんでしょ?躯と一緒に」

その言葉に、飛影は眉をしかめる。
運営だとか会議だとか、そういった面倒は大嫌いなのに、躯は同行しろと言っていた。

「そんな嫌な顔しないの。幽助も来るんだしさ」

幽助、という言葉に飛影の頬がわずかに緩んだのに蔵馬は気付いた。

「…あの馬鹿に運営だのなんだのが出来るとは思えんがな」
「そのために、オレがいるんじゃない?」

じゃあ、再来週魔界でね。
そう言って笑う蔵馬に、飛影は黙って肩をすくめて去った。
***
好きだよ、と言ったのはもちろん蔵馬からだ。

冗談よせ、だの、貴様は頭がおかしい、だの散々言われたが、
何度も何度も言い続けるうちに、根負けしたのかさっきと同じように、飛影は黙って肩をすくめた。

それを蔵馬は肯定の返事と取ったのだけれど。

「なんだかなー」

キスは、何度かした。

…キスは、なんて言ったら妖狐だった頃の自分が聞いたら卒倒するだろう。
あの頃はキスや言葉は、必要なものとは思ってなかったのに。

されるがままになってただ顔を赤くしている飛影はそれなりに…いやだいぶ…かわいいのだけれど、どう見ても“しぶしぶ”という受け身なキスだ。…中学生だってもう少し積極的だろうに。

それに、何より…

さっきの、あの、ふんわり緩んだ表情。
幽助、という名はいつだって飛影の態度を軟化させる。

もしかして…

「まさか、ね」

いつの間にやらまた雨足は強くなっていた。
今の気分にピッタリだ、そう考え溜め息をつき、蔵馬は窓を閉めた。
***
つゆ?

先週そう問うた飛影に、雨期のこと、と蔵馬は簡潔に答えた。

この国では六月は雨が多いんだ。
梅雨っていうんだけどね。

飛影は先週と同じように雨がしとしとと降る人間界に降り立った。

「会議の時間が変わったんだ。あいつに伝えに行け」

躯はそう言うと、時間をメモした小さな紙を渡した。

「…使い魔を送ればいいだろう?」
「会議が近いせいであちこちに出払っててな。パトロールをサボれるんだから文句ないだろう?」

出払ってる、なんて嘘だってことは飛影も分かってはいたが、パトロールをサボれるのは魅力的だった。
…それに。

あっさり引き受け、先週行ったばかりの人間界を訪れた。

服を濡らす雨は不快だが、パトロールをサボれるのはいつだって歓迎だ。
見知らぬビルの屋上から雨に濡れる人間界を見下ろす。水滴は夜景に煌めきを与えていて、飛影の目に綺麗なものに映った。

…それに。
あいつに会えるのも、…悪くない。

先週会ったばかりだし、来週も魔界で会えるのに。
でも今週も会えるのも悪くない、なんて我ながらいかれてる。

メモを渡しながら躯が浮かべた、からかうような笑みの意味が分からない訳ではなかったが、それでも構わないと開き直れる自分が意外だった。
***
「じゃあここで!どうもありがとう!」
「ここでって…家まで送るよ?」

マンションの前で、蔵馬は同僚の女の子に傘を差しかけていた。

「南野くんちここでしょ?ここでいーよ」
「じゃあこの傘持ってって。まだちょっと距離あるでしょ?」
「そお?悪いね」

あたしってば今月電車に傘忘れるの三回目でさ、あ、大丈夫だよ。これはちゃんと返すからね。
そう言いながら女の子は傘を受け取る。

「ほんとにいいの?止むまで寄ってけば?」
「さすがモテる男はスマートに言うね~。一人暮らしなんでしょ?襲うよ?」
「逆じゃない?普通?」
「そんなの大人しく待ってらんないもん」

二人は軽口を叩き合い、ひとしきり笑う。

降りしきる雨は、マンションの入口の影になった部分に佇む人影の気配を隠していた。
飛影は楽しげに会話をする二人をチラリと見ると、まるで最初からいなかったかのようにスッと消えた。

「じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日。そういえば来週は休み取ってるんだっけ?例の彼女に会いに?」
「うん。そう」
「遠距離なのに、こんなに近距離のあたしをふるくらいなんだから、よっぽどかわいいんだ?」

サバサバした物言いの女の子がふざけて口を尖らせる。

「…うん。かわいいよ。すごくね」
「なにそれ!聞かなきゃよかった!」
「だって、さんざん好きだって言い続けてやっと落としたんだよ」
「南野くん相手に?変わった人もいるもんだね」

ま、いいや。
これ以上あたしをふったオトコのノロケなんか聞いてらんないわ。

彼女はそう言って笑うと、わざと蔵馬に水がかかるようにバサッと傘を回し、じゃーねー!と陽気に笑って立ち去った。
***
「おー!蔵馬!遅刻するなんておめーらしくもねーな!」

幽助の能天気な声が会議場の廊下に響く。

「だって…時間が変更になったなんて聞いてないよ」

先ほど黄泉にも遅刻を咎められた蔵馬は、困惑した様子だ。

「あれ?っかしーな?誰も連絡よこさなかったか?躯のところがそーゆーの担当じゃなかったっけ?」
「聞いてないよ」
「そっか。一緒に来ればよかったな」
「だね。前半はどんな感じだった?」
「たいした話はしてねーよ」
「それ、聞いてなかったってことでしょ?」

二人は笑いながら休憩用に用意されていた部屋に入る。
いくつかのソファや椅子、テーブルには飲み物や食べ物が用意されていた。

幽助の向かいのソファに座り、前半の会議で配られたという書類に目を通しながら、よく知る気配を感じて蔵馬は微笑んだ。

「飛影!」

大声で呼んだのは幽助だ。
飛影は不機嫌そうに部屋に入ってきた。
どうぞ、というつもりで自分の隣を蔵馬は指したが、それを無視して飛影は幽助の隣に座る。

「幽助、この馬鹿げた集まりは何時に終わるんだ?」
「あー?おめーだって寝てたんだろーがどーせ」
「…うんざりだ。帰りたい」
「オレだって帰りてーよ。ワガママこくな。あ!北神ー!お前さあ…」

部下を見つけ、あっという間に部屋を出て行った幽助を追うかのように部屋を出て行く飛影を、蔵馬は慌てて追いかけようと…

扉を、長く綺麗な足が塞いだ。

「よお、狐。ずいぶんと遅刻だな」

魔界中に名を轟かす女帝の登場に、部屋にいた妖怪たちは蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
それはもう、ものの見事に、一人残らず。

「…時間変更なんて聞いてませんけど」
「オレはちゃんと使いを出したぜ」
「来てないですよ。ずいぶんとヘボな使い魔を使ってるんですねえ」
「確かに使い魔としてはヘボかもな。お前は喜ぶだろうと思ったが」

その言葉に、ようやく蔵馬は意味を飲み込む。

「…飛影を寄越したんですか?」
「ああ。あいつ行かなかったのか?」
「ええ。…何をご機嫌損ねてるんだろう」

失礼、と躯の足を避けて外へ出ようとした蔵馬は、再度長い足に阻まれた。

「なんですか?まだ何かご用が?オレ、貴女のところのダメな使い魔を捕まえに行きたいんですけど」
「…お前が遊びのつもりでもあっちはそうは思ってないんだからな」
「…何の話ですか?」
「色事に長けた狐がわざわざ手を出す相手でもないだろう?あれはオレのかわいい片腕なんでね。遊ぶなら他を当たってくれ」
「飛影は、貴女にオレとのことまで話すんですか…」

飛影がそこまでこの女帝を信頼しているとは思わなかった。蔵馬はなんとはなしにがっかりする。

「話すわけないだろう。あいつが。あの性格だぞ」
「え?じゃあなぜ?」
「見りゃわかる。お前を見ている時のあいつの目、お前と会ってきた後のあいつの腑抜けた面」
「…え?」
「百足にいる時でさえ、お前を思い出してポヤッとしやがって…おい聞いてるのか?」
「はい。聞いてます」

笑みを浮かべて、蔵馬は頷く。

「何ニヤついてんだ?」
「失礼ですね。貴女の片腕を虜にした笑顔なのに」
「…はっ!この誑しが。よく言うぜ」
「お褒めにあずかり、光栄ですよ。でも…」

でも、今回は本気ですよ。
なのにオレとしたことが、ちょっと自信無くしてたんですけど。
けど貴女にそんな話を聞かしてもらっちゃたから。

「じゃあ、失礼しますね」

もう一度、花のような笑みを浮かべ、蔵馬は廊下に足早に出た。
しかめっ面の女帝を残して。
***
後で躯にぶっ飛ばされてパトロールのシフトも増やされるとしても、来なきゃ良かった。
廊下に出たはいいが幽助の姿はすでになく、かといって休憩室に戻る気もなく、飛影は手持ちぶさたになってしまった。

前半の会議がすっかり終わる頃にようやく蔵馬は現れた。

…嫌いだ。

あいつなんか、嫌いだ。
あいつがオレのことを好きだなんて言うのを、信用したのが馬鹿だった。

以前躯に言われた。
本当にいいのか。あいつはよした方がいいんじゃないか、と。

なんの話だ、としらばっくれたが、なんの話かはよくわかっていた。
長く生きている者の忠告は、だいたいにおいて当たっているということも。

あいつの方が、オレを好きだと言ったんであって、オレの方から言ったわけじゃない。
そう思った所で、妖狐がそっちの方でもどれほど名を馳せていたかを思い出し、再度不愉快になる。

…誰にでも言うんだろう、きっと。

この会議にはずいぶん大勢の者が出席しているのに、この廊下には人気がない。
僅かに残る妖気が躯がここを通ったことを示していて、さもありなん、と飛影は納得する。
この会議場が中立地帯だとはいえ、あの女を恐れない者はそうそういないだろう。

椅子もなにもない廊下だったから床に座っただけで、別にわざとではなかったのだが。

飛影が床にペタリと座り足を投げ出した途端、ものすごいスピードでその前を横切った小柄な影が、投げ出された足に引っかかって盛大に転んだ。

「うわわわ!」

それは転んだ勢いで壁に派手にぶつかり、一回転して床にドサッと落っこちた。

「いった~!! なんでこんな所に座ってるんだよお前!」

お前のせいで転んだだろ!バーカ!といういかにも子供じみた悪態をつく相手を飛影はまじまじと見つめる。

誰だっけ、こいつ。見覚えはあるのだが。
確か…

「修羅!」

子供の父親の怒声で、ようやく飛影は思い出す。

「ああ…黄泉の所のガキか」
「ガキじゃない!もー!お前のせいでパパに見つかっちゃったじゃないか!」
「人のせいにするな。勝手に転んだくせに」
「こんな所にすわ…あ!お前飛影だな!」

黄泉がひょいと首根っこを持ち上げ、カミナリを落とす。

「誰がついてきていいと言った!修羅!」
「だって…」

どうやら修羅はこの会議に興味津々で、黄泉に内緒で勝手に来てしまったらしい。

「あ、ねえパパ!ほら、飛影だよ!蔵馬の!」

蔵馬の?
どういう意味だ。

目が見えなくとも、黄泉はまわりの全てを把握できている。
修羅がわざわざ大声で告げたのは怒りの矛先をそらそうとしてのことだろう。
なのに黄泉は、まるで今やっと飛影がいることに気付いたとでもいうように、こちらを向いた。

「これはこれは。躯の所の筆頭戦士様か。うちの息子にまでちょっかいを出すのは止めていただきたいものだな」

嫌味っぽい、回りくどい口調。
躯が黄泉を嫌いだというのも頷ける。

「…貴様の息子が勝手に来て勝手に転んだんだろう。何がちょっかいだ」

こんな馬鹿親子を相手にしてはいられない。
早々に立ち去ろうとしていた飛影は、修羅の言葉に立ち止まった。

「大丈夫だよパパ。僕は蔵馬と違ってこんなのにホネヌキになったりしないよ」
「ああそうだな。まったくこんなののどこがいいんだか」

「……は?」

目の前で交わされる会話の意味が分からない。
ポカンとする飛影に、黄泉がこれまた嫌味ったらしく声をかける。

「そんな顔をすることはないだろう?うちの元参謀をあれだけ骨抜きにしておいて。そんな容姿でどんな手を使ったんだか。…蔵馬は同じ奴を二度口説くことなどなかったのに」
「こいつすっごいメイキってやつなんじゃない?パパ」
「お前はそんなことまだ知らんでよろしい!帰りなさい!」
「え~、だってさ…」
「だってじゃない!」

馬鹿親子がぎゃあぎゃあ言いながら廊下を遠ざかって行くのを、飛影は呆気にとられて見送った。
***
「見つけた!なんでこんな所に座ってんの?飛影」

廊下に直に座っている飛影を見つけ、蔵馬は不審げに問う。
飛影は抱えた膝に顔を埋めていて、表情は見えない。

「飛影、どうした?具合でも悪いのか?」
「…うるさい。あっち行け」
「どうして怒ってるの?先週だって人間界に来てくれたんでしょ…」

蔵馬は向かいに座り、抵抗する飛影の顔を上向かせた。

「…何赤くなってるの?」
「…うるさい!」

そう怒鳴って手を振り払って立ち上がろうとした飛影を、蔵馬は押さえ込むように抱きしめた。

「おい!馬鹿、よせ!人が通ったらどうす…」
「ねえ、サボっちゃおうよ」
「…何?」
「後半の会議。オレの昔のアジトが近くにあるんだ」
「貴様、前半だって出なかったくせに何言って…」
「いいから」

蔵馬は無理やり飛影を引っ張り起こす。

「いいから行こう。今すぐ、あなたとしたいんだよ」
***
…なんで、ついてきてしまったんだ?

木々が覆い隠す小綺麗なアジトで、飛影は後悔の真っただ中にいた。

躯にどれだけ怒られるか…しかも散々からかわれる…とか
黄泉の嫌味たっぷりの視線だとか…

そういう問題以前の問題だ。

ベッドに並んで座り、手を握られているという、この状況。
馬鹿みたいなベッドの大きさが用途を示しているようで、顔から火が出そうだ。

「…おい」
「なに?飛影」

満面の笑み。
整いすぎた顔立ちは笑うと大輪の花が咲くようで、そんな場合じゃないのに飛影はついつい見入ってしまう。

「…しないからな」

一応、釘を刺しておく。
ところが返ってきた返答は意外なものだった。

「うん。いいよ」

待つから。
今日じゃなくても、あなたがその気になってくれるまで。
ただこうしているだけでも、いいんだ。

そう笑って言うと、飛影の手は握ったまま、蔵馬はぽふっとベッドに横になる。

「あなたが側にいてくれるだけで、十分」
「…永遠にその気にならなくてもか」
「…えー?それは長すぎじゃない?」

蔵馬は苦笑すると目を閉じた。

「安心したら、眠くなっちゃった」
「…安心?」
「そ、安心」
「……」

こっちのセリフだ、なんて、もちろん飛影は絶対に言わない。
本格的に眠ろうとしている蔵馬の頭を、空いている方の手でひっぱたく。

「いた!どうし…」
「寝るな」
「え?」
「…眠る前…に、することが……あるんじゃないか…?」

頬を染めた飛影がいつもの黒いコートをするりと脱ぎ、床に投げ捨てた。
***
「ん……」
「抑えないでよ。声、聞きたい」
「う…るさ…黙、れ…」

部屋の隅に小さなランプを一つだけ灯した寝室はちょうどいい暗さで、飛影の白い肌を浮き上がらせる。
首筋を探っていた唇は、今は胸元の飾りを甘噛みしていた。

「…あ、っ!…そんな所、触る…な…」
「待ち切れないから早く下を触って欲しいってこと?」
「ば、かやろう…違っ…!」
「そお?…下もなんだか硬くなってきてるけど?」
「……!」

ランプ一つの明かりでも、飛影が顔を真っ赤にしていることはわかった。

つま先から内股まで、丹念に舌が這う。
ただそれだけのことで、すっかり勃ち上がったそこは蜜を零す。

「うあ!ん、ああ!」

棹を伝う蜜を舐め取り、蔵馬はそれを口に含んだ。

「っやめ、ろ!馬鹿!そんな…こと、必要ない!」

悲鳴のような制止の声は聞こえないふりをして、蔵馬は口淫を続ける。
舌を使い、軽く歯を立て、飛影を追いつめる。

「あ、あ、…ああ、んあぁ!」

白い背がしなる。
他人の口の中に射精してしまった驚きに、慌てて身を起こそうとした飛影の耳に、それを飲み下す信じられない音が聞こえた。

「な…?…き、さま…この…変態!」
「そお?じゃあ…こんなのはどう?」
「え…ちょ、やめ…!」

力の入らない体を押し倒し、足が肩につくほど大きく広げさせる。
あまりの恥ずかしさに足を閉じようともがく飛影は、次の瞬間固まった。

ピチャリ。

その音は、飛影の尻の最奥を舐める、蔵馬の舌が立てた音だった。

「……!!」

飛影は今度こそ本気で抵抗をした。

こいつ、狂ってる!
ただ突っ込めばいいものを何をしている!

片足をどうにか振りほどき、蔵馬を蹴飛ばそうとした途端…

「あ!アァァ、ヒッ…嫌、だ!」

舌が、狭いそこをこじ開けるようにねじ込まれた。

「っん!」

内壁を、舐め回される。
舌が動く度に、粘膜は飛影の意思を裏切って、妖しく蠢いた。

「…指、入れるよ」
「ン!あ!ああ…」

長い指が、舌と共に中を掻き回す。
粘膜の温度を確かめるように、指が中を探る。

二本、三本。
増やされる指の隙間から、ぬるりと腸液が流れ出す。

「嫌だ!やめろ!」

増える本数とともに自分の尻が濡れていくのが分かり、羞恥と圧迫感も倍増する。

「どうして?気持ちいいでしょ?」

ようやくそこから舌を抜いた蔵馬が、笑みを含んだ声音で問う。

「何、ばかな、こと…!ただ突っ込めばいいだろう!いらんこと、を、するな!」

息も絶え絶えの抗議。
蔵馬は笑ってあっさりとその抗議を一蹴する。

「…どうでもいい相手ならね。突っ込むだけでもいいのかもね」

でも、あなたはそうじゃない。
…オレがどれだけあなたのことを想ってるか、証明してあげるよ。

熱く濡れた穴から、指がずるりと引き抜かれる。
その刺激に、飛影の背はのけ反った。
***
信じられない。

指が抜かれたことに安堵する間もなく、熱い肉棒が狭い入口をこじ開け、未開の地を押し広げる。

「っあ…!ああ…んん…んう!」

苦、しい。
内臓が押し広げられ、内部に異物が入り込む、その圧迫感ときたらない。

「大丈夫、だよ…力を抜いて」

何が、大丈夫か。
ひどい圧迫感と、味わったことのない羞恥に、飛影はパニックを起こしかけていた。

「嫌、だっ…もうやめろ…もうよせ!」

他人が、自分の体の内部を触っている。蹂躙している。
誰にも…誰にもこんなことをさせたことはなかったのに。

蔵馬はクスクス笑うと、飛影の頬に唇を落とし、耳元で囁く。

「…そんなに下にばっかり集中しないで。目を開けて。オレを見て」
「あ、んん…ぁ」
「目を開けて」

飛影はようやく固く閉じていた目を開ける。
涙でゆるゆるとぼやける視界に、碧の瞳が映った。

「…ぁ、く、らま…」

その瞳の色はいつもと変わらない、森と海とを同時に思わせる色で、なぜか飛影を安心させた。
痛いくらいに力を込めていた下肢が、僅かに緩む。

「…ね?オレを見てて」
「ん…ぁ…」

ほう、と息を吐いた飛影の足を抱え直し、蔵馬はゆっくりと最奥まで自身を突き入れた。
***
「…ぁあ!…っあ!…っぅあ!」

突かれるリズムに合わせて甘ったるい声が響く。

飛影はいつの間にか自ら腰を揺らし、蔵馬の背中に細い足をきつく巻き付けていた。
挿入した瞬間こそ僅かに出血があったが、それも治まり、快楽の波に身を任せて喘いでいる。

「…ああ!…あ!…んん!」

感極まったかのような、声。
それを眺める蔵馬の方も、余裕はない。

「あ…」

狭い内部の熱い締めつけに、たまらず蔵馬が小さく声を漏らした。
その声に、飛影が薄く目を開ける。

「どう、した…?妖狐、ともあろう者が。色事師と…しても、有名だった…んだろう?」

律動に合わせて、飛影が切れ切れに囁く。

「余裕、なんか、ない、よ」

蔵馬はふっと息をつくと、体を支えていた手の片方を外し、飛影の頬に添える。
紅い瞳は、わずかな苦痛と大きすぎる快楽に潤んで、のし掛かる男を見上げている。

「…こんなに、夢中になったこと、ないもの」

その言葉に頬をより一層赤く染めた飛影の奥深くを、蔵馬は味わうように突いた。
***
「…どうするんだ。まったく。躯に殺される」
「オレだって黄泉に散々嫌味を言われるよ」

二人は情事の余韻のままに、シーツにくるまって互いに腕を回していた。
会議を揃ってすっぽかしたことはかなりヤバい事態なのだが、二人が本気で気にしているようには見えない。

「まあ、いいじゃない。なんとかなるでしょ」
「幽助が…困ってるんじゃないか?」

その言葉に、蔵馬が急に真顔になる。

「なんだ…?どうした?」
「…幽助のこと、好き?」
「なんだ藪から棒に…」
「あなたが、オレより幽助のこと好きなんじゃないかって、心配だったんだ」
「…ああ。好きだ」

渋面になった蔵馬に、飛影がニッと笑う。

「…冗談だ。あいつのことは違う意味で気に入ってるがな」
「…浮気はダメだからね」
「人のこと言えた義理か。…貴様だって……先週女と…」
「あ!」

蔵馬が大声を上げて起き上がる。

「ねえ、だから先週来なかったの?オレが女の子といたから?」
「…別、に。ただ邪魔をするのも悪いと思ったからだ」
「やましいことなんかないよ。傘を忘れた同僚だよ」
「……どうだかな」
「ね、も一回しよ」
「…はあ?なんでそういう話になる!?」
「嬉しいから」

蔵馬が目を輝かせて言う。

「ヤキモチ妬いてくれたんでしょ?」
「違う!」
「違わない!」

そう叫ぶと、蔵馬はシーツを引きはがし、床に投げ捨てる。

「…飛影。大好き」

その夜。

部屋の中には二匹の獣の息遣いと擦れた声、抜き差しの濡れた音だけが長く長く響いていた。


...End.



11111キリリク「すれ違う二人」
レイカ様よりリクエストいただきました!
ありがとうございました!(^^)