Jack


「お菓子をあげるから…」

だから、と
飛影の耳元で、蔵馬が囁いた

…だから、いたずらさせて?
***
骸骨を思わせる、ちょっと怖い笑みを浮かべたかぼちゃ、ジャック・オ・ランタンはもう日本でも広く知られるアイテムだ。
蔵馬のマンションのリビングには、その陽気で不気味なかぼちゃが、フローリングの床にごろごろと転がっていた。テーブルの上には、オレンジ、黒、黄色、赤、紫などの、いわゆる“ハロウィン色”をした菓子がどっさり積み上げられている。

いくつもあるカラフルな大きな箱に、蔵馬はかぼちゃを一つずつ入れ、空いた空間を埋めるように菓子を詰め込む。

「…今度は何をしているんだ、貴様は」
「飛影!いらっしゃい」

ベランダにストンと降りたその者は、ノックもへったくれもなく窓を開け、土足のまま部屋に上がる。
恋人の来訪を蔵馬は満面の笑みで迎えたが、靴、と注意することも忘れない。飛影はブーツをベランダに投げるように脱ぎ捨てた。

「なんだ…これは?」

不審の眼差しを注ぎ、足下でニヤニヤ笑うかぼちゃを蹴飛ばす。

「あ!だめだよ。みんなにあげるんだから」

飛影との会話で蔵馬が“みんな”と言う時は、それはつまり幽助や桑原や螢子や、今は人間界で暮らす、飛影の妹を指す。

「これね、ハロウィンっていうお祭りみたいな…」
「もういい」

あっさりと、飛影は蔵馬の説明を遮る。
どうでもいいと言いたげに、ソファにドサッと腰掛け、部屋中に溢れる“ハロウィン色”を睨む。

「貴様の人間かぶれには飽きた。説明はいい」

クリスマスだの、バレンタインだの。
蔵馬の持ち出す人間界のイベントは、飛影にとっては興味のないものだ。

「このかぼちゃ、中に蝋燭を入れてランプみたいに…」
「説明はいいと言っただろうが。邪魔したな、帰る。心置きなく祭りを楽しめ」
「あ、そーんなこと言うんだ?」

雪菜ちゃんが見たいって言うから、オレが特製かぼちゃで作ったのになー?
楽しみに待ってるって、雪菜ちゃんすっごく嬉しそうだったのになー?

「………」

妹かわいやの兄を黙らせることなど、蔵馬にはお手の物だ。
立ち上がりかけていた飛影は、しぶしぶソファに戻る。

「……で?」
「このかぼちゃをみんなにあげる約束したんだけど、それだけじゃなんだしさ」

そう言うと、蔵馬はテーブルの上の菓子を指差す。

マシュマロ、クッキー、キャンディやチョコレート。ジェリービーンズやキャラメル。
様々な菓子があるが、なんといっても圧巻は馬鹿でかいキャンディだ。小さなキャンディもたくさんあるのだが、賑やかしでしかない。
木の棒のついたうずまき状のキャンディと、杖の形をした、しましま模様のキャンディだ。

お菓子はいっぱい余るから、良かったら好きなだけ持っていっていいよ。
にこにこと機嫌よく、蔵馬は言う。

「……躯に持って帰ってやるか」

百足の女王様は、人間界の物が意外に好きだ。
魔界の貢ぎ物には、辟易しているからだろう。

蔵馬の沈黙に気付いた飛影が顔を上げると、碧の瞳と目が合った。

「なんだ?」
「Trick or treat」
「…?」

お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ、って意味なんだ。

「…それを言うと、菓子が貰えるのか?」

わけのわからん祭りだ。
飛影は眉をしかめる。

「そうなんだけど…ねえ、飛影」

いつの間にか、飛影の隣に蔵馬は腰を降ろしていた。

「お菓子をあげるから…」

だから、と飛影の耳元で、蔵馬が囁いた

…だから、いたずらさせて?
***
「は、っは…やめ…この…クソ狐っ…」
「…お褒めにあずかりまして。飛影もしっぽ生えてるみたいだけど?」
「!!」

飛影はみるみる顔を真っ赤にする。

肩に膝がつくほど大きく広げさせられた両足。
そのまま押し倒されたせいで、尻の真ん中の穴は、天井を向いている。

ヒクッヒクッと収縮するその穴から突き出ているのは、しましま模様の杖だ。

「あ!ああ!バカ!! やめ…!」

持ち手の部分が尻から突き出しているだけで、残りはどうやら飛影の体内で温められているらしい。
その紅白のしましまの持ち手を、蔵馬はぐるっと回す。

「うっあ!! あああっ!」

硬く長い棒が、直腸を掻き回す。
冷たくもなく温かくもない、その甘ったるく硬い、キャンディの感触。

「…ねえ飛影、ちょっと溶けてきたみたいだよ?」

飛影の中、あったかいからねえ?

そう言って笑う蔵馬を蹴り飛ばしてやりたいが、体を少しでも動かすたびに、長いキャンディが中をえぐる。

人間と違って暗闇でも何も見えなくなることはないのだから、明るかろうが暗かろうが二人には関係ない。
それはわかっているが、リビングの明かりは恥ずかしいほどに部屋を照らす。尻の穴にふざけた異物を押し込まれている自分の姿が容易に想像できて、思わず飛影は目を閉じる。

「ぐっう、ぅあ、っは、抜、け…」
「えー?」

せっかく可愛いのになあ?
お尻の穴から、しましま模様の杖が出てるんだよ?
またもや蔵馬は、ぐるっと中を掻き回す。

「うああっ!! っ、殺すぞ…抜け…!!」
「はいはい」

抗議の声を聞き流し、蔵馬は小さなキャンディを口にする。どぎついピンク色はいちご味だ。
ひと舐めすると、飛影に口づけ、キャンディごと貪った。

「んー!」

…どうしていつも、引き返し地点を見誤るのだろう?
いくら雪菜の名前を出されたとは言え、あの時点でとっとと帰ってしまえばよかった。

甘ったるい味を舌に、穴に、感じながら、飛影は遅すぎる後悔をする。

「ん……」

口の中で、カラフルなキャンディがかちゃりと音を立て、歯にぶつかる。
蔵馬の舌は巧みに動き、飛影の口の中で舌を絡め合いながらキャンディを溶かしていく。

「…あ…ん、あ」

かちゃり。
キャンディは硬質な音を立てながら、溶けて小さくなっていく。

腹をすうっと滑っていった、蔵馬の手。
くちゅ、という濡れた音とともに、すでにビクビクしていたそこが握られる。

「んあ!…っあ…」

ぎゅっと握ったり、ゆるゆるとしごいたり。
蔵馬の指は的確に、棹を太く硬くなるよう育て上げる。

「あ、あああっ!! あ…ん」

先端から、ぬるりと液が滲み出す。
波打つように動く、白い下腹部を押さえ、蔵馬は先端の穴に指で栓をするように、ぐっと押した。

「うあっ!! …ん…くら…」
「口でしてあげるから、座ってごらん」

無理やり起こされ、ソファに座らされ…

「!? 待てっ…ウアアアアアッ!!」

尻の穴に挿入されていた杖は、座らされた拍子にぐっと奥を犯し、曲がった持ち手の部分は、陰茎と穴の間のやわらかな肉に容赦なく食い込んだ。

「うあ!ぐ!っああ、あ、アアアアア!」

目の前で光が弾けるような、強烈な刺激。
恐ろしい痛み、脳天を突き抜けるような快感。

ビチャッという音がするまで、飛影は自分が射精したことにも気付かず、口の端から唾液を滴らせて喘いでいた。

「口でしてあげるって言ったのに。もう出しちゃったの?」
「あ、っは、っは…うああ…」

まだ息が整わない。
滴る唾液はとろんと粘度を持ち、口に入れていたキャンディの甘い匂いを発している。

「いちごのアメ、飲んじゃった?」
「…うあ、あ…あん…アアァ」

長いキャンディは、まだ飛影の体内を蹂躙している。
涙目で喘ぐその姿が、相手をどれだけ興奮させるかわかっていないのだ、この小さな妖怪は。

「…じゃあ、こっちを舐めてあげるよ…」
「…!?」

またもや仰向けにひっくり返される。
尻の穴に刺さる紅白は、持ち手さえほとんど飲み込まれそうになっていた。

「こんなに食べちゃって…意地汚いね、このお尻は」
「ぐっあ!ウアアアアアッ!」

ジュポッ。

勢いよく、杖が抜かれる。
あまりの勢いに、直腸の粘膜が引っ張り出されたほどだ。

「うぐっ、あ、ああ、も、やめ…やめろっ!…うあっ!」
「あまーい」

赤く腫れた穴に、蔵馬は舌を這わす。
中を傷つけてしまったらしく、一筋の血が流れ出したが、それもまた甘い蜜であるかのように綺麗に舐める。

「やめ…く、らま…あっ」
「奥の方も、甘いかなあ?」
「っぐ」

舌が、ぐっと中に侵入する。
溶けたキャンディは、飛影の穴の、入口も中もベタベタに濡らしていた。
糖分でテカテカ光る襞が、意思を持っているかのように蠢く。

「んんっ!ア、ア、アアッ…」
「…奥、の…方も、甘いよ…」

舌を使いながら、途切れ途切れに蔵馬は囁く。
囁き声の度にそこに当たる吐息ですら、飛影の下肢を熱く蕩かす。

いつも。
いつもそうだ。追い上げられ、蕩かされ、熱さの中で、結局飛影は何もかも受け入れてしまう。

「んあ…あ、あ、あ。…な、んか…」
「どうしたの?」
「……しみ…る…」

先ほどまで体内にあったキャンディが溶けた液が、どうやら腸壁にしみるらしい。

「…う……痛っ……」
「ああ、ごめんね。舌じゃあ一番奥までは綺麗にできないから…」

これで、綺麗にしてあげるよ。

これ、が何を指すかなんて、もう聞くまでもない。
朦朧としてきた意識の中、飛影は自分の膝を抱え、尻を大きく広げる。

赤く腫れた穴を蔵馬の眼前に晒す、その姿。
勝ち気な瞳が、ぼわりと涙目になっている、その姿。

「かわいいよ…飛影、大好き」

狭い穴をこじ開けて侵入してきた肉棒に、背を反らして飛影は大声を上げた。

「アアアアアッ、ぐ、うあ、あ、あ…!!」

最初はゆっくり浅く、段々と深く、強く、蔵馬は突き上げる。
もちろん、萎えた飛影の陰茎を揉み解すことも忘れない。

「ああ!っあ!…あ、あ、あ…あ、んっ」

涙に霞む視界で、飛影は蔵馬を睨む。
その、睨む瞳も大好き、とエロ狐は微笑む。

「くそっ…このバカヤ…うあ!あああ!あぁん!」

自分のものだとは思いたくない喘ぎ声に、思わず飛影は視線を反らす。

「……!?」

視線を感じる。
驚いた拍子に、肉棒を銜え込んだ穴はぎゅうっと締まる。

誰、だ…?笑われて、いる…?

「ん、すごい、よ…飛影…最高…」

笑っているのは、飛影が蹴飛ばしたジャック・オ・ランタンだ。
絡み合う二人の方に顔を向け、ニヤニヤと笑いかけている、ように見える。

「あん!ああ!ん、ん、アア…」
「今日は、一緒に…」

何を思ったか、蔵馬はいきなり肉壺から自身を引っこ抜く。

「うあ……っ!! 急、になに…!…うぐっ」

口を無理やり開かされ、押し込まれた。

一瞬前まで自分の体内に挿入されていたモノが自分の口の中にあると思うと、吐き気が込み上げる。
だが、その肉棒はいつもとは違い、ひどく甘ったるい。

「……?…あ!」

自分の直腸で溶けた、あのキャンディとやらの液をまとっている、そう気付いた飛影は、口から抜こうと必死でもがく。

「嫌、だ…ぐ…うっ」
「美味しいでしょ?今から、一緒に、ね…」
「んぐ、んんんん、んうう!!」

ごぼっと音を立て、口の中に熱くどろりとした精が放たれる。
その衝撃に、不覚にも蔵馬の手の中で脈打つ飛影からも、熱い液体が迸った。

「…うぁ……」

遠のく意識に瞼が落ちる瞬間、目に映ったジャック・オ・ランタンは、
ぽっかり黒いその目で、飛影を笑っていた。
***

「だって、飛影が躯にお菓子持って帰るとか言うから…」

やきもち妬いちゃった。
しれっと言う蔵馬に、飛影は怒る体力すら残っていない。足腰がガクガクして、立ち上ることもままならないのだ。

裸のまま、二人はソファに気だるくもたれる。
クッキーの包みを解き、蔵馬は飛影の口元に差し出す。

「…いらん」
「ごめんてば。残りのお菓子、全部躯に持っていっていいよ」

良かったら、あのかぼちゃもどうぞ。
蔵馬の指差すかぼちゃは、二人の情事を笑って見物していた…ように飛影には見えた…やつだ。

「いらんっ!!」
「ええ?なんで…」

ソファから手を伸ばし、箱に菓子を詰め込んでいた蔵馬が手を止める。

「持ってってよ。オレはこれだけあればいいし」

そう言って蔵馬が振って見せたのは、何やらどろっと濡れてる杖型キャンディ。
棒部分は、溶けて細くなりかかっている。

それは、飛影が温め、溶かした、あのキャンディ…

蔵馬はそれを、ぺろりと舐めてみせた。

「なっ!! こ、この…バカ!! 変態!! 死ね!」

***
ドカンと爆発音の上がったリビングから、爆風で転げたかぼちゃたち。
ジャック・オ・ランタンは、笑みを浮かべたまま、今年のハロウィンを待っている。


...End.
2010.Halloween 10月中限定アップ
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