あなたの空と星「くら……ん、あ、っあ…ぅ…」「ん…かわいい……ひえ…」 はだけた深緋の衣の間から、薄紅色に小さく突きだしたものを、長い指が上下にしごく。 窓のないこの部屋は昼日中でも薄暗い。磨き込まれた木の床が、ほてる肌にひんやり心地よい。 「うあ、あ、くら…も…っ」 「もう駄目?もっと?」 大きな手は衣をまくり上げ、白い足を大きく広げる。 白い足の間でひくひくと立ち上がるものを、ぬるりと舐め上げた。 「ああ!ん、あ!あああ!! あっ、くら…?」 小さな体をひょいとひっくり返し、顔の上をまたぐように四つん這いにさせる。 当然顔の前にくる薄紅色の棒をくわえ、そこから一直線に繋がる、これまた小さな穴に指を這わせる。 「くら、やめ!あ、うあ、ああ、っあ!」 「しー、聞こえちゃうよ…」 「あ、っぐ、うあ…ん!!」 くちゅ、と音を立てて指を差し込む。 深緋の衣とよく似た色をした内腑が、指をきつく締め付ける。 「うあ!あぁぁあ、あ、ん!くら!」 「中…すごくあったかい…もう我慢でき…」 がこーん、という大きな音を立て、厚みのある扉が勢いよく開いた。 「くら星!! 織ひえ!! 何をしとる!」 指と口とを繋げたままの二人を、昼の陽が容赦なく照らした。 ***
「いい加減にせんかい!」「反省してますってば」 にこやかに笑うのは、くら星。 ふくれっ面でそっぽを向くのは、織ひえ。 千年ほど前に夫婦になり、いまだに互いに夢中という、天界では知らぬ者のない二人だ。 「陽のあるうちは働け!あれほど言っただろうが!」 「まあまあ、ちゃんと今日の分の仕事は終えましたよ?」 「お前だけじゃろうが!織ひえはまだ今日の分の布を織っておらんぞ!?」 そうなの?と視線を送るくら星に、織ひえは口を尖らせる。 「まだ終わってないと言っただろうが。なのにお前が…」 「織ひえ、くら星が無理やり誘ったのなら…」 神様の言葉に、織ひえは慌てて首を振る。 「別に無理やりじゃない」 脅えたように、赤い瞳がおろおろ動く。 何に脅えているのかは、神様はお見通しだ。 「…仕事をさぼるなら、また一年に一度の逢瀬に戻してもいいんじゃぞ?」 さあっと青くなった織ひえの白い頬を、くら星の大きくあたたかい手が包む。 「大丈夫だよ、織ひえ。神様はちょっと怒ってるだけ」 くるっと振り向き、くら星は数多の姫を虜にした笑顔を見せる。 幾度、そして何人がこの笑顔に騙されたことかと、神様は溜め息をつく。 「大変申し訳ありませんでした。織ひえの今日の反物は倍にしてお納めしますから」 倍、という言葉に思わず眉を下げた神様に一礼し、振り返る。 ほら、行きましょう、とくら星が差し出した手に、小柄な織ひえはぱたぱたと駆け寄り、小さな手を乗せた。 ***
「お前が機織りをすればいいんだ」くら星の手は、天界のどの織り手よりも素早く美しく、布を織っていく。 幅の狭い座板にくっついて座り、織ひえはみるみる織り上げられる布を見下ろし、呟く。 「ぼやかないぼやかない、はい」 くら星が差し出した手のひらを、織ひえは丁寧に舐める。 天の織物は、織り姫たちの唾液で湿らせて織るのが決まりだ。 くら星の仕事は牛飼いだが、他の牛飼いたちとは違い、いつでもすぐに仕事は終わってしまう。 良い草のある草地を見つけることにかけて、くら星は並ぶ者のない腕前だからだ。 手のひらから指先まで、たっぷりと濡れた織ひえの舌が行き来する。 ぴちゃ、という音と、機織りの軽やかな木の音が交互に響く。 夜空の紺に星の銀、織りなす布はぬれぬれと艶を放つ。 もうじき織り上がる、というところで織ひえは、ぱくりとくら星の親指をくわえる。 織り手の姫たちの中でも一番小さい織ひえは、必然的にくら星を見上げる姿勢だ。 「…こら。手が塞がっちゃうでしょう?もう少しで終わるから」 笑みを含んだ声音でくら星はたしなめるが、筬から手を放し、織ひえの股間を探る。 ふわふわとやわらかな衣を押し上げて開き、硬く主張しているものを指で摘んでやる。 「……っ、くら……ぁ」 声を上げた瞬間、開放された右手をくら星は織ひえの尻へと回す。 邪魔な衣を引っぱり尻を剥き出しにし、さきほど解しかけていた穴に唾液で濡れた指をぬるりと押し込む。 「うっあ、っあ、っあ、あ、ああ」 織ひえの両手はくら星の袂を掴み、強く引く。 胸元に押し付けられた織ひえの頬の、唇の、その湿った熱さにくら星は、座板から落ちるように抜け出し床に座り、剥き出しの白い尻を抱え込む。 「…ひえ……ひ、え……」 「っう、あ!ああ…待っ……っぐ、あああぁ…」 ばさっと開いた千歳緑の衣から、くら星の柱が天井を向いて飛び出した。 尻の薄い肉を左右にひっぱられた織ひえが目を閉じたのを合図に、一気に貫く。 背がのけ反り、木の壁を震わせる甘い声が響く。 律動とともに織ひえの喉からは、普段の声からは想像もつかない音が迸る。 激しい突き上げに合わせて尻を振り、噛み付くような口づけを交わす。 千年前、いつまでも機織りだけでは哀れであろうと、神様は姫たちのために牛飼いから何人かの婿を連れてきた。 多くの姫の心を射止めた優秀で美しい牛飼いは、綺麗な笑みで、しかし隙もなくきっぱりと求愛を断り、離れてぽつんと佇む織ひえを真っ直ぐ見つめ、良かったらあなたの婿にして欲しいと言った。 自分から求愛することなど、恥ずかしくてとてもできなくて。 けれど、ひと目見た瞬間から織ひえもまた、くら星の虜だった。 どちらがどちらをより愛しているかと問われたら、二人とも顔を見合わせるだろう。 仕事を忘れるくらいに夢中になり、激怒した神様に引き離されたのはいつのことだったか。 しかし引き離されたくら星は牛の世話もままならなくなり、時には天の川に逃がしてしまうことさえあった。 織ひえは機織りができなくなり、食べ物である天の川の星屑も喉を通らず、元から小さな体をさらに小さくした。 かわいい姫の一人である織ひえのやつれぶりに神様はほとほと困り、陽のあるうちはちゃんと仕事をすることを条件に二人を元通りに一緒にしたのだ。 「ああ……くら…く、あ……」 「ひえ……っ、ひえ…愛し……ひえ」 衣をはだけ、尻に肉棒を打ち込まれ、喘ぐ織ひえの半開きの口に、くら星は舌を差し込み、絡めた。 床へと響く振動に、杼がからりと音を立てて落ちる。 目の前に星が瞬くような快感の中、二人は体を揺らし続けた。 「…ひえ……っ」 「ああ、あ、くら…ああああぁ…」 絶頂を迎えた二人は、とろりと熱い液体を放出する。 くら星の蜜は織ひえの腹の中に。 織ひえの蜜はくら星の手のひらを、ぬるりと濡らす。 機織りの音の途絶えた部屋に、荒く乱れた呼吸が響く。 織ひえの尻を乗せたままくら星は筬に手を延ばし、手のひらを光らせる織ひえの蜜を、織りかけの布に染み込ませた。 ***
「これは特別な一反だな」余韻に頬を染めたまま、乱れに乱れた衣を直す織ひえを眺めながら、くら星は残りの布を織り上げる。 綺麗に積み上げた反物の一番上に、織ひえの蜜が染み込んだ反物をぽんと置き、くら星は笑う。 なるほどその一反は、夜空を流れる深い川のように、一際輝いている。 「さあ、仕事はこれで終えましたし。行きましょうか?」 どこへ、などと織ひえも問わない。 今日は二人にとって特別な日なのだから。 濃藍の空に、瑠璃紺の天の川。 天の川の守り人たちは絶え間なく籠を振り、星屑を流す。 七月七日。 神様を怒らせ、一年に一度の逢瀬しかできなかったあの頃、二人にとって本当に特別な日だった。 川のほとりに腰を下ろしたくら星の隣に、織ひえもちょこんと座る。 対岸が見えないほどの大河なのに、天の川はいつも静かに流れている。 「自分で蒔いた種とはいえ、あの時は本当に辛かったな」 無口な織ひえはただ小さく頷き、くら星の千歳緑の衣に顔を埋める。 気が狂いそうに会いたくて会いたくて、何も手に付かなかった。 機織りも、食事も、眠ることさえできずに、ただ星屑に煙る対岸を見つめていた。 「織ひえ」 「なんだ?」 短い髪を撫で、くら星は身をかがめ、そっと唇を重ねる。 「この先の千年も、一万年も、一緒にいてくださいね」 「…いいぞ」 素っ気ない返事とは裏腹に、織ひえの頬は朱色に染まる。 照れ隠しなのか、川へと手をのばし、小さな星を口に放り込む。真似るように、くら星もまた、星を口にした。 星屑は、かりかりと甘く、細かく細かく口の中で砕ける。 ふいに織ひえはくら星の長い髪を引き、砕けた星ごと唇を吸った。 二人の吐息は白く輝き、また細かな星になる。 この星は、どこかの、いつかの、空に輝く星になる。 今夜は空を見上げてみて欲しい。 それはあなたの空に輝く星の、ひとつかもしれないから。 ...End. |
2018年7月7日までの限定アップ。 |