you don't have to worry

一緒に寝るなら、最初からダブルベッドを買えば良かったな。
私も飛影もチビなんだけど、それでもシングルベッドに二人で寝るのはやっぱり狭苦しい。

ていうか、自分のベッドで寝てよ。
まったくもう。

「…寒い…」

目をこすりながら、湯たんぽを抱えた飛影が、私のベッドに入ってくる。
まだ冬本番じゃないっていうのに、先が思いやられる。

「飛影ってば…せーまーい!」
「んん…」

寝ぼけたまま、むにゃむにゃ言いながら、飛影は結局こっちのベッドに強引に入ってしまう。

「もー。しょうがないな…」

飛影の入る分のスペースを作る。
潜り込んできた体に、毛布と布団をかけてあげる。

狭いシングルベッドで、飛影とくっつくというよりは、抱き合うようにして眠る。
落っことしそうになっていた湯たんぽも拾ってあげた。
かわいいアーガイル柄のカバーのかかった、やわらかいファシーの湯たんぽは、蔵馬さんが寒がりの飛影に買ってあげた物だ。
寒がりのくせに、エアコンも電気毛布も好まない飛影は、ちゃぽちゃぽと音を立てる湯たんぽをお腹に抱きしめるようにして眠ってしまう。

「うひゃ」

飛影ときたら、私の足に自分の冷たい足を絡めるのだから参ってしまう。人の足で暖を取るのはやめてくんないかな。
私のあったかいふくらはぎに、飛影の冷たいつま先がピタリとくっつく。
この悪い癖は、蔵馬さんと付き合うようになってからだ。ということは、蔵馬さんはきっと飛影の足をこうやって暖めてあげてるんだろうけど。

私の体温で暖まったベッドで気持ち良さそうに眠る姉の顔。
子供のような顔をして、小さな寝息を立てている、姉。

学校の子たちとか、近所の人たちとか…多分飛影本人でさえ…私たちのことを、甘ったれた妹としっかり者の姉だと思ってる。

飛影は、私から目を離せないといつもこぼす。
お前は何をするかわからないから、と。

「わかってないんだから…」

飛影が、私の面倒をみているんじゃないのに。
私が、この意地っ張りで変わり者の、それでいてどうしようもなくかわいい姉の面倒をみているのだ。

私よりもずっと、飛影は優しい。繊細で、傷つきやすい。
飛影が悲しい目や辛い目に遭ったりするのは、見たくない。
そんなことは、許せない。
だから、ちゃんと守ってあげる。側にいてあげる。

そんなことを考えていると、憶えているはずもない、生まれる前の風景を…ママの胎内で、飛影と一緒に過ごした日々を…思い出しそうになる。
あたたかな、暗がり。
自分と対になった、もう一つの命。

守ってあげる。側にいてあげる。

「…いつか、蔵馬さんに全部託せるようになるまで、ね」

なだらかなふくらみの胸に顔を埋め、目を閉じる。
生まれた時からそうしていたように、姉のにおいに包まれて、私は眠りに落ちた。