洗濯物と朝ごはん「今こそ本領発揮の唯一のシーズンね、飛影」真顔でそんなことを言う妹に、姉はフライパンを持ったままポカンと口を開けた。 ***
フライパンでいい匂いをさせていたベーコンと目玉焼き、それにドレッシングで和えたブロッコリーを、姉は二つの皿に盛り分ける。調度いいタイミングでこんがり焼けたトーストに手早くバターを塗る。「…朝からなんの話だ。まあ座って食ったらどうだ?」 「いただきまーす。ママは?」 「寝てる。昨日も遅かったから昼まで起きてこないだろ」 休日の朝の姉妹は、いつもより少しだけ寝坊をし、のんびりと朝ご飯を食べるのだ。 「うん、美味しい。ベーコンはカリカリ、目玉焼きはふっくら半熟。飛影上手になったね!」 「…お前がちっとも上手くならないからだろ」 カフェオレのカップに角砂糖を放り込み、雪菜はにこっと笑う。 「いいじゃない。飛影はごはん。私は洗濯」 「洗濯は週二回だろ。飯は毎日じゃないか」 「いいよ?たまには作ろうか?」 「…結構」 カップ越しに、飛影は溜め息をつく。 とはいえ、意外にも料理は嫌いではないのだ。氷菜や雪菜が美味しいと褒めてくれるたび、ちょっとやり甲斐を感じ始めている。 「じゃあ、ケチャップかけてあげる」 「別にい…ん?」 目玉焼きの上に、かぼちゃの形にかけられたケチャップ。 「なんでかぼちゃなんだ?…ああ、ハロウィンか」 「そ。飛影のかぼちゃパンツが、唯一市民権を得るシーズンよ」 ぶっ、と姉はカフェオレを吹き出す。 「なっにが市民権だ!! 人の下着に文句を…!」 「文句じゃないよ?あらようやくオンシーズンねー?って」 「あれは別にハロウィン用じゃない!」 「大丈夫よ。目鼻口の穴を開ければ立派にかぼちゃランタン」 「開けるな!!」 「開けちゃった」 まさか? ベーコンに刺していたフォークを下ろし、飛影はおそるおそる庭を見る。 空は高く、洗濯物は気持ち良さそうに風に揺られている。 …いくらなんでも冗談… 「……お前な…」 「ベーコンいらないの?もらうね」 「…お前は〜!!」 庭に走り出て行った飛影は、一枚の洗濯物をもぎ取るように外し、真っ赤になって戻ってきた。 「お前はやっていいことと悪いことの区別がつかんのかっ!?」 「ジョーク。ハロウィンジョーク」 「んなもんあるか!!」 「いいじゃないカワイイわよ。蔵馬さんと夜のお楽しみにと思って」 「はあ!?」 「ロウソク入れて、火を点けてね、って」 「ロウソ……?バカッ!!」 穴の開けられたかぼちゃパンツは、飛影の腕の中でクシャクシャに丸められている。 困ったように笑っている、かぼちゃパンツ。 ー遠慮してお尻の方に開けたんだから ーバカ!! これ前だぞ! ーえ?嘘?前も後ろも一緒じゃないの? ー違う!ってそういう問題じゃな… 庭の前の小路では、近所の老夫婦が目を細めている。 いつも仲良しだねえ、双子ちゃんは。 あのくらいってのは、箸が転んでもおかしい年頃って、やつなのよ。 そんな会話を交わし、秋空散歩を楽しみながら。 ...End. |