The next day

夕ご飯はどうしようかな。
ママは今日も遅いし。飛影は何時になるんだろう?

そんなことを考えながらテレビを見ている午後九時、玄関の防犯用のロックが外れる電子音。
続いて聞こえたカチャン、と鍵を開ける音に、おかえりー、と私は言う。

「おかえり。お土産は?」

飛影はただいまも言わずにむすっと突っ立って、私を軽く睨む。
でもその顔は怒ってるんじゃない。照れている時の姉の顔だ。

「お土産はー?」
「…お前、知ってたんだな?」
「うん。お土産ちょーだい」
「ない!」

そう言いながらも、飛影は駅弁の入った包みを差し出す。

「ウニといくらだ〜ありがと。雪見れた?」
「…見た」
「綺麗だった?」
「…ああ」
「普通さ、写メとか妹に送ってくるでしょうが」
「……」
「雪、綺麗だよ〜、みたいなメールをさ」

言うだけ無駄だけど。
だって飛影と蔵馬さんは、二人きりの時はお互いばっかり見ているのだ。
それはもう熱心に。バカみたいに。

おまけに憧れの雪景色だ。
きっと、蔵馬さんと、雪景色と、それだけで飛影はいっぱいになってたんだろう。

手を洗ってうがいをし、コートやカバンをきちんとしまい、やわらかいフリースの部屋着に着替えた飛影がリビングに戻ってきた。

「お腹空いてる?」
「いや。俺は蔵馬と食ってきた。氷菜は今日も泊まりか?」
「ううん。遅くなるけど帰るって」
「弁当、二個あるから一個氷菜にやれ」
「はーい。ママは遅いし、先に食べよっと」

ソファに座ったままお弁当を食べ始めた私に、飛影がお茶を淹れてくれる。私のには、ちゃんと氷が入れてある。
自分の分と二つの湯のみをテーブルに置き、隣に座った姉の顔を、お弁当を食べながら私は眺める。

今どき学校に行く時だってすっぴんの女子高生も滅多にいないと思うけど、彼氏とクリスマスを過ごすのにすっぴんというのもまずいない、と思う。こんなに美人の私でさえ、すっぴんで出かけたりはしない。

でも、妹の私が言うのもなんだけど、飛影は綺麗だ。

白い肌に、ピンクの唇。マスカラを必要としない、大きな目。
寒い外から家の中に入ったせいで、頬っぺたも薄くピンク色。

…今日は、いつもよりも、飛影はかわいく見える。
なんていうか、つやつやうるうる、している。
普段の険のある感じが、まろやかにとけている、みたいな。

蔵馬さんの、せいだ。

「…ねえ、飛影。飛影ってさ」
「なんだ?」
「セックスした次の日、三割増でかわいーね」
「な…!!」

多分、蔵馬さんもそう思ってるだろうけど、言わないだろうから言ってやった。
…あの人のことだから、割増の余地なくカワイイとか言い出しかねないけど。

「な…な…バカ!!」
「いたーい!なんでぶつの!?」
「もう!お前は!! 弁当返せ!」
「ちょっともー!いくらがこぼれる!」

真っ赤になって怒る飛影から逃げる。

「雪菜っ!」
「あ?いーのかなあ?昨日彼氏とお泊まりだったことママに言おうかなー?」
「……お前〜!」

私はニヤッと笑って、再びソファに戻る。

「嘘。言わないよ」
「……!」
「お茶、もう一杯欲しいな」

悔しそうにキッチンに向かう後ろ姿に、私は思わず笑ってしまう。

「何笑って…!」
「なんでもないでーす。早くお茶ー」

ママが帰ってくるまでには、あと三時間はかかる。
たっぷりと、カワイイ姉を尋問させてもらうことにしよう。