8月31日

「ねえ飛影。私たち、本当に双子で良かったと思わない?」
「お前…毎年毎年、同じこと言ってないか?」
***
飛影の部屋で、二人は山ほどの宿題を前にしている。
“夏休みの宿題”というやつだ。

「はい、数学と日本史、世界史。交換に物理と生物と化学と現文と古典と英語、写させて!」
「どう考えても公平じゃない気がするのは気のせいか…?」
「気にしない気にしない。あ!地理も!」
「だいたい、この数学と日本史と世界史だってお前がやったのか?」
「気にしない気にしない」

8月31日のこの会話と光景は、この姉妹にとってはもはや定例行事だ。

まったくあなたたちときたら!
早めに宿題は済ましなさいって毎年言ってるじゃないの!
だいたい二人で写し合うなんてずるじゃないの!
氷菜はぷんぷんしながら、仕事に出かけてしまった。

それもまた、毎年のことだ。
***
朝から始めた宿題を、二人が写し終わったのは夕方だった。
もっとも、三科目だけ写し終わった飛影が、雪菜の分も相当手伝ったのは言うまでもない。
お茶のポットは空になり、クッキーの缶も底を覗かせている。

「ああ、やれやれ。終了!」
「…それはこっちのセリフだ」

ブツブツ言いながら、二人は互いのカバンに宿題の束を詰め込む。

「ん?あれ?入んないー。あ、そうだった」

学校指定のカバンから、雪菜は何やらガサガサと引っぱり出す。

「これあげる。飛影の方が多く宿題してくれたし」
「多くって言うかほとんど俺がし……?…いらんっ!!」

紙袋を開けた飛影は、それを即座に雪菜に突っ返す。

「えー?いいじゃない。せっかくお揃いで買ったのにー」
「いらん!誰が…そんな…は、破廉恥な下着、俺は着ない!!」
「破廉恥って。ママでも使わないと思うけど」

紙袋の中身は、レースでできた、ピンク色の下着だった。
真っ赤になった飛影の手から紙袋を取り、雪菜は中身を取り出した。

美しい花模様のレースで作られたその下着は、淡いピンクが可愛らしい。
ひもの部分も細いレースを幾重にも巻いて作られた、繊細でエロティックな、ブラとパンツ。
やわらかな手触りだが、覆い隠すというそもそもの目的はまるで無視した透け加減。

「カワイイでしょ?私は紫にしたんだ」
「紫ぃ!?」
「高かったんだから。着てよね」
「着ない!色違いなんだから、どっちもお前が着ればいいだろうが!」
「ブラのサイズ、ぜんぜん違うもん」
「………!」

妹の無邪気な一言に、姉はすっかり撃沈した。
***
自分の部屋に戻った雪菜は、携帯を開き、一枚の写真を添付したメールを送る。
写真は、さっきのピンクの下着の写真。
買った時に、ちゃーんと撮っておいたのだ。

“見て見て!飛影とお揃いで買ったの!超カワイイでしょ?飛影が着たとこ見たくないー?”

--送信済み--

「これでよし、と」

多分、飛影は、紙袋ごとクローゼットの奥底にしまっちゃうに決まってる。
そうは、させないんだから。

自分の分にと買った、ピンク色とはカップの大きさがだいぶ違う、紫色の下着を眺め、雪菜はニヤッと笑った。