*大きいのがお好き

「……ん…っ」

男の体は大きくて、オレはまるで幼子のように抱き込まれてしまう。
尻からねじ込まれ、腹を突く律動。

「んん……っぁ、ぁ、ぁ」

大きなものが、腹の中を、内臓を、揺さぶって掻き回す。
痛くて、苦しくて、吐き気が込み上げる。

たまらない。
たまらなく、いい。

快感だけでは、つまらない。気持ちよくない。
苦しさと快感がいっぺんに体の中にある、この感覚が、いい。

「……ん、ふ…ぁ…あうっ!!」

オレはまったくいい気分で、大男の膝の上で揺さぶられていた。
***
大きなやつは大抵出す量も多い。
事を終え寝台から立ち上った途端に、熱くぬるつく液体がどっと尻から太股へと流れ出し、床にまでぽたぽた滴った。

「おい、飛影…。泊まっていかないか…?」

暗黒武術会で会って以来、こいつとは時々寝ているが、いつでも控え目で、無理やりオレを引き止めることはしない。便利な男だ。

「帰る」

あからさまにがっかりした顔をする男が、急にうっとうしくなる。

「何度言えばわかるんだ、いちいち引き止めるな。武威」

泊まって、一緒に眠って、朝を迎えたいとでも言うのか?
寝るだけの相手に執着する気持ちが、オレにはわからない。面倒になって、自分だけ先に部屋を出る。
いかにも連れ込み宿らしい薄暗い廊下には、精のにおいが立ち込めている。

いつも通り、帳場の婆に銅貨をいくつか投げる。
婆はオレをちらりと見ただけで、サッと銅貨を懐にしまった。

大男ばかりを連れ込むオレに、この婆は幾度か男を紹介してくれたこともあった。
二度ほどそいつらとも寝てみたが、体が大きいばかりで肝心な摩羅は普通。面白くもなんともなかった。

それに、大きくなければもちろん駄目だが、大きいだけでは能がない。技量もともなってこそ、価値がある。

「またな、婆」

オレはさっさと宿を出る。

魔界の月は、今夜も禍々しく赤い。
尻の穴も腹の中もズキズキ痛むのに、オレはもう次に誰かと寝ることを想像し、通りすがりの男たちを物色してしまう。

もっと大きな男はいないか。
もっともっと、太く硬く大きく、そして上手い男。

尻からとろとろ流れ出す精が、穿いたばかりのズボンを濡らす。
***
「飛影」

オレにも隠れ家の一つや二つはある。寝泊まりに使っている小さな家に現れた男は、よく知る男だった。
ただ、その姿はいつもとは違う。

「蔵馬」
「久しぶりだな。霊界から言伝があって来た。まったくお前を探すのは一苦労だ」
「…妖狐に戻れるようになったのか?前は十五分くらいが限度だとか言ってなかったか?」
「いや、今はコントロールが効くんでな。好きに戻れる」

体を慣らすためにも魔界ではなるべく戻るようにしてるんだ。
蔵馬はそう言いながら、何もない殺風景なオレの家を見渡す。

「何もないんだな」
「……ああ」

輝くような、銀の髪。
見上げるしかない、長身。
整った、とか、綺麗な、とか、そんな月並みな言葉では足りない、美丈夫。

それに、なにより…。

オレの視線は自然と、白い装束の腰回りに引きつけられる。
妖狐蔵馬は残酷で冷酷で、恐ろしく強い。その話は以前から聞いていたが、もう一つ、聞いていた噂。

閨での妖狐蔵馬の、噂。
男も女も、妖狐蔵馬に抱かれたがっていたと。
誰もが夢中になる…素晴らしい体、素晴らしい技だと。

思わずごくりと喉がなる。

「おい、飛影」

眉をしかめ、蔵馬がオレを見る。
オレの期待に満ちた視線に、どうやら察したらしい。

「お前、まだそんなことをしているのか」

呆れたような、声。

暗黒武術会でも、見かけた大男と片っ端からオレは寝ていた。
闘いは、オレを高揚させた。大男を見かけると、試さずにはいられなかった。

明日試合に当たるかもしれない敵とも寝た。
戸愚呂にさえ手を出そうとしているオレを蔵馬は止め、苦言を呈した。
蔵馬の説教など知ったことではなかったが、どのみち戸愚呂が幻海にまだ未練たらたらなのはすぐにわかって、興ざめしたオレは手を出さなかった。

「おい。コエンマからの伝言は伝えたからな」

さっさと帰ろうとしている蔵馬のしっぽを、オレは慌ててつかんだ。

「蔵馬…」

両腕を逞しい腰にまわし、しっぽに顔を埋める。
オレの倍ほどもある背丈。厚い胸板。大きな体。雄のにおい。
きっと摩羅もさぞ立派だろう。

そう考えたら、もう止められなかった。
どうしても、この男とやりたかった。

「…誰とでも寝るのはお前の勝手だがな」

しかめ面をした蔵馬が振り向く。

「オレはお前とはやらんぞ」
「なぜだ?」

ちょっと、驚いた。
男を誘って、断られたことなどない。

「お前とオレの体格差を考えろ。尻が裂けるぞ」
「構わん。上等だ」
「オレは構う。第一お前はオレの趣味じゃない」

ムッとした。
男たちは皆、オレの赤い目や白い肌を“そそる”と言うのに。

「趣味じゃないだと…?」
「ああ。オレはどちらかというと女がいいし、長身が好みでね」

あっちの蔵馬はどうか知らんがな、と妖狐の姿の蔵馬は肩をすくめる。
オレも、肩をすくめてみせた。

“秀一”でもある“あっちの蔵馬”がオレを好いていることは百も承知だ。
オレを抱きたいと思っていることも、知っている。
けれどあいつは小柄ではないが、大柄というほどでもない。摩羅もきっと普通だろう。
そんなものには興味はないと、首縊島のホテルでもそれとなくオレに触れオレを誘う蔵馬を、気づかないふりをすることで徹底的に無視してやった。

「おい、放せ飛影」

答えずに、白い装束の中にオレは右手を入れる。
萎えた状態でも、驚くほど大きなものに、オレは嬉しくなってしまう。

「……なあ、蔵馬…」

布をかき分け、直接つかむ。
先端だけでも、オレの握りこぶし程もある、それ。

「…いいだろう?…蔵馬?」

金色の瞳が細められ、片方の眉が上がる。
何百年も生きた狐にとっては、オレの頼みなんて赤子のおねだりのようなものだ。
叶えられないはずがない。

「…あっちの蔵馬が、抱きたがってる体だぜ?」

ニヤリと笑って、オレは言ってやる。
元々一人の者であるにもかかわらず、妖狐と蔵馬の間には、互いを疎ましく思うような溝がある、それをオレは知っていた。

金色の瞳が、光を帯びる。

「…後で、泣き言言うなよ」

まるで重さなどないかのように、オレの体は片腕だけでふわりと抱き上げられた。
***
「うあ、あ、あ、あ、あひいっイッ!!!!」

入口が裂ける音が、聞こえるような気さえした。

「ヒイッ!ア、ア!あうっ!!!! うううあ!!」

前戯は素晴らしかったが、早く入れたくてうずうずしていたオレは、自分で油を塗り、さっさと股を広げ、尻を突き出した。
中だけで味わいたくて、四つん這いになって目を閉じたオレの体を貫いたのは、衝撃。ただそれだった。

「ひ、イア、アウ!ヒイィーーーーッ!!!!」
「飛影…力を抜け」

信じられないほど大きくて硬いものが、ごりごりと穴を開く。
肉を削り取られるような痛みに、噴き出すように、涙があふれた。

「あ、ふう、あ……カハッ…」

油はたっぷりと使った。
入口だけではなく、中にも流し込んでおいた。

「ヒイ!! ああ!あああ、あ、ウア、アアアン!!」

めりめりと、直腸が開かれる。
やわらかな襞がすっかり伸び切り、びちびちと裂けて暗い体内で血を流すのがまるで目に見えるようだった。

「ヒアッ!ヒアッ!ひい、あ、くら…くらま!!!!」
「…お前が望んだことだからな」
「ヤアアアアアアアアーーーーッ!!!!」

どすん、と、体内に根元まで納まった。
尻に密着する蔵馬の股間が、それを教えている。

息が、できない。
腸が、ぐる、と鳴る。

もはや直腸を越えて腸そのものが、犯されたことに驚き、ぐるぐると抗議の声を上げている。
力が入らず震える手で、そっと腹に触れてみる。
臍のすぐ上、に、薄い肉をまとった剛直が、突き出して…

ぼこりと、オレの腹にできた、ふくらみ。
ほとんど透明の液体が寝具に降り注ぐのを見て、ようやく自分が失禁していることに気がついた。

「うあ……ン、ぐあ……!」
「どうする?抜くか?」
「……ヤァ、ァ…んん…抜く…だと?…あっ!! アアアアアーーーッ!!」

繋がったままぐるりと体を返され、一瞬、気を失いそうになる。
意地の悪そうな、金色の瞳を真下から見つめる。
妖狐はくすくす笑い、オレの腹のふくらみを、指で押す。

「…突き出してるぞ」
「あ、はあっ!はっ…だから…なんだ…?ウア!! ウアアアアアアア!!!!」

ずりゅと抜け、ガツンと穿つ。

「……ああ!!」

放尿し終わった陰茎を、きつく握られる。
妖狐はゆっくりと、腰を使い始めた。

「アアッ!! アアッ!! アアッ!! アアーーッ!!」

ぐちゃぐちゃ濡れた音を立て、浅く浅く深く深く、穿たれる。
掻き回された腹の中で、腸がぐるりと、濁った音で鳴った。

「ヒイッ!! アン!! アウ、アウ、ウウッ!!!!」

たまらない。
こんな、の、初めて…だ。

苦しくて苦しくて、腹が破裂するんじゃないかと思うぐらい苦しくて。
信じられないくらい、気持ち、いい。気持ち、悪い。

「ヒイッ、アウ、アウッウ、ヒアッ!!」

オレの体の中を知り尽くしているかのように、イイ所、痛い所、狂いそうになる所、を、蔵馬は突く。

痛みと快楽の、境目が、わからない。
これこそ、オレの求めていたものだ。

「アアッ…イイ…ァ、デカ…イ…あ……は……ぁん!!」
「こんなのがイイなんて、お前は好き者だな…」
「イイ…!もっと…もっ…と…っ!」

結合部が、熱い。
血や、嫌なにおいのする体液が、ずるずると漏れ出し、オレと蔵馬の体を汚す。
なんなら遅漏といってもいいくらい、蔵馬は長く長くオレを突いた。

「アアッアアッアアッアアアアアア、ン!!」
「…淫乱。その顔を“あいつ”に見せてやりたいな」
「もっと…イイ…ァ!アア、ヤアアアン!!!!」

どうする。
どうしたらいい。

自分で誘っておいて、オレは参ってしまった。

こんな…こんな。

こんなのを味わったら
もう、他のやつとなんか、できない。

「ヒイイィィッ!!!! アアーーーーーーッ!!!!」

どぷっと種を注がれ、濡れたシーツにオレは沈んだ。
***
汚れたシーツの上で、打ち上げられた魚のように体をヒクつかせていたのはほんの数分だったと思う。
身支度を整えた蔵馬が立ち上がるのを、オレは起き上がるどころか寝返りさえも打てないで、呆然と見ていた。

腹がまた、ぐるりと鳴った。
蔵馬の精を奥まで注ぎ込まれた腸が、ぐるぐると、腹を下している時そっくりの音で鳴った。

「……く、ら」
「コエンマとの約束は明日の晩だからな。遅れるなよ」

なんとか右手を上げ、涙や汗や涎でびしょびしょの顔を包帯で拭う。
とても起き上がれそうにないにないオレを見下ろし、蔵馬はやれやれといった風情で何かの植物を召喚した。

指ほどの太さの、ぬるぬるとした植物の長い茎を、尻に三本ほど突っ込まれた。

「ん!っうう…」
「一晩入れておけ。明日には起き上がれるさ」

じゃあな、とさっさと立ち去ろうとする男の衣の裾を、オレは必死でつかむ。

「なんだ?望み通り抱いてやっただろうが。放せよ」
「……な、さない」
「何?」
「……放さない…」

自分では見えなくとも、わかる。
オレは今きっと、夢見心地の顔をしているに違いない。

「放さない……くら…ま」

蔵馬が心底嫌そうな顔をしたのはわかった。
けれど、それがなんだというのだろう。

「放さない…蔵馬」

この男は、こんな風にオレを抱いておいて、逃げられるとでも思っているのだろうか?

逃がさない。
絶対に、逃がさない。

「……飛影?」
「オレを抱け。今晩も、明日も。ずっとずっと」

オレが壊れるまで、な。

笑い出したオレを、薄気味悪いものを見るような視線が、見下ろした。
金色の、眼差しで。

オレは、笑い続けた。
楽しくて楽しくて、

心底嬉しくて。


...End.




ファロフィリア(巨根性愛)
大きな男性器や性機能の高い男性への性的嗜好。「ファルス(英語:Phallus)」信仰としても知られる。
英語:Phallophilia