*俺の彼六階建てのこのアパートは、古ぼけているとはいえエレベーターがちゃんとある。なのに、いつだって彼は階段を上ってくる。体重というものを感じさせない、軽やかな足音で。 安普請の鉄筋コンクリートの建物は、物音がやけに響く。 小さく聞こえてきた足音に、俺は思わず笑ってしまう。 彼が、俺に向かって駆けてくる。 ***
ピンポン、と一度だけ鳴るチャイム。もちろんちゃんと聞こえてはいるのだけど、俺はいつでも、一度では出てやらない。 彼が再びチャイムを鳴らすのを、開かない扉に焦れて、二度続けてチャイムを鳴らしてしまうのを、待っている。 ピンポン ピンポン。 二度鳴らすのは、焦っている証拠。 不安にかられている証拠。 きっと彼はうつむいて、途方にくれたような顔をしているはずだ。 ほら、ね。 ドアを開けたそこには、俺の想像した通りの彼。 うつむいていた顔をぱっと上げ、ホッとしたように、薄く口を開ける。 「…蔵馬」 「いらっしゃい。飛影」 白いシャツ、青いネクタイ、チェックのズボン。紺色のブレザーは手に引っかけ、学校指定の黒いカバンを持っている。 中学校の制服は、まるで小学生のように小柄すぎる飛影にはお世辞にも似合うとはいえないし、ろくに着ていない制服は真新しくピカピカで、借り物じみて見えた。 ワンルームにロフトと小さなキッチンがついただけの、いかにも学生のアパートという俺の部屋に、飛影を招き入れる。 十二畳のワンルームはフローリングで、ベッドと机と、食事用の小さなテーブル。本棚には大学の教科書と当たり障りのない本や雑誌。 我ながらそっけない部屋だが、飛影は慣れた様子で、ベッドにちょこんと腰掛けた。 「今日は学校行った?」 飛影は、こくん、と頷く。 「朝から?」 こくん。 「早退したの?」 俺から目をそらし、三度目の、こくん。 今はまだ、午後の一時半だ。早退であることは、聞かなくとも分かっていた。 「早退でもいいよ。よくできました」 いい子だね、とクシャクシャの短い髪を撫でてやる。 ついこの間まで、何年も学校という場所に行くことのなかった引きこもりのガキとしては、上出来だからだ。 「それで、今日はどうしたの?」 「……テスト」 学校指定の物らしい黒いカバンから、飛影はたたんだテスト用紙を取り出し、俺に差し出す。 「何が返ってきたの?」 「数学」 「あとは?」 「国語」 飛影の言葉は、いつだって短くそっけない。 最低限の言葉だけを、短く投げるように言う。 受け取ったテスト用紙を開く。 数学は72点、国語は65点と、どちらも俺の出した60点という及第点をきちんと上回っている。 「合格だね」 俺はにっこりと微笑みかけてやる。 「乾杯しようか?」 冷蔵庫からペットボトルのコーラを出した俺を、ベッドに座ったままの飛影が見上げる。 薄い唇を、きゅっと引き結んで。 「コーラ、いらない?」 「…いらん」 「そう。……じゃあ、飛影は何が欲しいの?」 「…………約束……した」 白い頬が、薄く色づく。 緩めたネクタイ、上の二つのボタンを外したシャツから、鎖骨が覗く。 「約束のご褒美、貰いに来たんだ?」 優しく、尋ねる。 膝の上で握られていた飛影の手が、震える。 「いいよ。俺、午後は授業ないし。シャワーはどうする?」 今度こそ、飛影は真っ赤になる。 平日の昼間の古いアパートに、沈黙が落ちる。 「……浴びる」 消え入りそうな声で、飛影は答えた。 ***
シャワーの水音を聞きながら、机の上に散らばっていたレポートの資料をきちんと片付ける。ついさっき受け取った、中間テストの用紙もきれいにたたみ直し、飛影のカバンに戻した。「氷菜さん、喜ぶな」 美しい、けれども少しも似ていない、飛影の母親。 彼女は自分の息子が、ごくたまにとはいえ学校に通うようになり、きちんと定期テストを受けるようにもなったことにいたく感激し、涙を浮かべて俺に礼を言ったっけ。 水音が止み、俺のスウェットの上だけを着た飛影が、部屋に戻ってきた。 グレーのスウェットは飛影の膝近くまでを隠しているが、別に俺が大柄なわけではない。十三歳という年齢にしては、彼が小柄すぎるのだ。 「ここに、座って」 片付けた、机を指す。 飛影は躊躇することもなく、机に座り、床に跪く俺を見下ろした。 「そうじゃないでしょ」 普通に腰掛けた飛影の両足をつかみ、持ち上げる。 足を広げた体育座りのような体勢にさせ、手を止めた。何もまとう物のないやせた両足が、グレーのスウェットから折り曲げられた形で突き出す。 「自分で、まくってごらん」 足の間に手をついて、スウェットの裾で隠している股間を、出すように要求する。 「シャワー、浴びたんでしょう?」 シャワーを浴びるのは、口でして欲しいという、彼のいつもの意思表示。 「ほら、飛影」 そろそろと、飛影は手を外す。 途端に伸縮性のある布はずり上がり、隠していた小さなものを露出した。 まだ陰毛すらもないそこで、ぷるぷる誘うもの。 「ねえ、先にキスしてもいい?」 飛影は、無言のまま頷く。 膝立ちのままの俺が背伸びをし、座っている飛影が身をかがめるという姿勢で、俺たちはキスをした。 唇を重ねるだけの、ごく軽いキス。 ただそれだけでも、飛影の吐息の熱さに、彼がすでに興奮していることはわかった。 「……蔵馬…」 「わかってるって」 唇を離し、俺は飛影の足を大きく開かせる。 小さくて、ピンク色で、皮を被っているそれを、口に含んだ。 「ッ、ア!アア、ア…ン」 ぐるりと舐め、ゆるく歯を立ててやる。 皮を剥くために、舌先でそっとなぞるようにしごいてやる。 痛みを与えないよう、優しく、丁寧に。 「ウア、ア、ア、アッ!!」 もう、出てしまった。 いつものことだ。覆い被さっている皮をゆるゆると押し上げ、露出させてやった亀頭に触れるだけで、飛影はあっという間に射精に至る。 口の中でヒクヒクしているものを、チュッと吸ってやると、頭上でまた甘く高い声が漏れた。 「あ、ヤア、あ…くら…まぁ…ヒ、アッ」 口から抜き、親指と人差し指の間にはさみ、こねくりまわしてやる。 ぶるぶる震える白い太ももを、すうっと撫でる。 「今のは、数学の分のご褒美」 飛影が、ゆっくり目を開ける。 赤い瞳にはうっすらを涙の膜がはっていて、俺の下肢をどうしようもなく熱くした。 「…国語の分は、どうする?また今度にする?」 小さな口から出た小さな舌が、ぺろりと唇を舐める。 「……今、欲しい…っ…」 …彼の母親は、息子のこの姿を見ても、俺に感謝をするだろうか? そう考えたら、たまらなくおかしかった。 「今……今よこせ…蔵馬ぁ…」 「了解」 俺の髪を引き、ねだるその顔は、本当に食べてしまいたいぐらいの可愛らしさだ。 …こんなことになるとは、彼も、彼の母親も、俺の母親も、もちろん夢にも思っていなかったはずだ。 もっとも、俺は最初からこうするつもりで、家庭教師を引き受けたのだけど。 「…くら、ま……蔵馬」 「急かさないで、飛影」 まだまだ、君には教えてあげたいことが、たくさんあるんだよ。 小さな体。細い手足。 生意気な子供の、顔つき。 無毛の股間、かわいらしい皮を被った陰茎。 大きくなんかならないで。 いつまでも、このままでいて。 俺が君に、全て教えてあげるから…。 ...End. ペドフィリア(小児性愛) 主に11歳〜13歳頃の少年や少女への性的嗜好。現在では一般的に、年齢や性別を区分した「インファノフィリア(幼児性愛)」や「ニンフォフィリア(児童性愛)」なども含む総称として普及している。英語:Pedophilia |