*K -術後-あたたかな部屋、清潔なシーツの上で、飛影は目を覚ました。「……?」 見慣れない天井に一瞬混乱したが、薬のにおいと、肩から胸までを覆う厚ぼったいガーゼと包帯に、ここがどこなのか思い出した。 「…蔵馬」 「あ、起きたね」 部屋の片隅の長椅子で、読んでいた本から顔を上げた蔵馬が微笑んだ。 「気分はどう?」 傷を覆う包帯に、飛影はそっと手を滑らせる。 蔵馬の隠れ家にたどり着いた時には焼けつくように痛んでいた傷は、鈍い痛みになっていた。 「オレは、何時間寝ていた?」 あまりの回復ぶりを不審に思い、眉をしかめて飛影は問う。 「丸二日」 「なんだと…!?」 「あのねえ」 横になって休んでいた方が回復が早いっていつも言ってるでしょう。 なのに貴方ときたら、いつだって最低限の治療が終わったら飛び出して行っちゃうんだから。それって結局、完治するのが遅くなるだけなんだよ。 「だから今回はちょっと長めに眠ってもらったよ。出血もひどかったし」 勝手な行いに舌打ちをしかけた飛影だったが、そもそも自分が深手を負ってここへ来たのだ。 それは結果的に、蔵馬に身をゆだねたのと同じことだと、いつになく素直に諦め、ゆっくりと起き上がろうと… 「痛っ!!」 思いがけない場所の痛みに、思わず声を上げた。 「あ…っつ…」 「どうし…、ああそうか。管抜かなくちゃ」 股間に走った鋭い痛みにしかめっ面をした飛影だったが、管、という言葉にようやく手術前の記憶を取り戻し、体にかけられていたシーツと毛布をめくろうとする蔵馬の手を慌てて止める。 「さ、触るな!」 「どうして?痛いし、気持ち悪いでしょう?抜くよ」 「自分でできる!」 「ええ?」 シーツの中に手を入れた飛影だったが、その奇妙な器具の突き出した自分の陰茎に触れた途端、ビクッと手を引っ込める。 触れただけで、痛い。 体を動かすだけで、痛い。 …これは、無理やり引き抜いてもいいものなのだろうか…? 場所が場所だけに、いつもの大胆さを失い怯えた色を赤い瞳に浮かべる飛影に、蔵馬はやれやれと苦笑した。 「ね?オレが抜くから」 「……」 「変な抜き方すると、痛いし」 「……」 「それにさ、貴方が抜いたら、ベッドを汚しちゃうから」 「……!」 ベッドを汚す、という言葉に飛影は顔を真っ赤に染めた。 「ね?」 なだめるような優しい言葉と綺麗な笑み。 結局それに負けてしまった飛影が、そっぽをむくことで不本意な了承を示すのはいつものことだ。 ***
シーツを剥いだ飛影の体は、見慣れた右腕の忌呪帯法、左肩から胸までを覆う、見慣れない包帯だけという姿だ。重ねた枕に寄り掛かるように座った飛影の剥き出しの尻の下に、蔵馬はタオルを敷いた。 無言のまま、蔵馬と目を合わせまいと壁の方を向いたままの飛影の頬は、赤いままだ。 白いシーツ、白いタオルの上に、晒された体。 白い足を大きく広げさせ、その間に蔵馬は手を入れる。 管の差し込まれたピンク色のそれにそっと手をそえると、小さな体がビクッと震える。 「……っ」 「大丈夫。力を抜いてね」 ぐっ、と、管が動く。 尿道をずるっと異物が移動するその気色悪い痛みに、小さなうめき声が上がる。 「…っ、あ、早く…っ」 「うん。すぐだよ…」 ずるっ。 「…っう」 ずるっ。 「ひあ…っ」 ずるっ。 「痛い…っ、くら…」 ちゅぷん。 濡れた音を立て、ようやく管が抜ける。 「ふ、っあ…」 痛みに歪められた顔。硬く閉じられた目。 両足は大きく広げられたまま、異物の抜かれた陰茎は力なく垂れ、両手はシーツを握り、つま先は痛みにこわばり丸くなっている。 その姿が、蔵馬にとってどれほど魅力的に映るかなど、もちろん飛影は知るはずもない。 「はい、おしまい」 ホッとして開かれた赤い瞳が潤んでいることが、どれほど蔵馬をそそるのかも。 「しばらくは、おしっこする時痛いと思うけど」 人間界のバケツにも似た容器に器具を投げ込むと、蔵馬はにこっと笑う。 ようやく蔵馬に視線を戻した飛影が、恥ずかしさに小さく唇を噛む。 「二三日で良くなるよ」 「……ああ。あ、え、くら…っ!?」 足を閉じようとした飛影の動きを、蔵馬の手がやんわりと止める。 「…二三日でも、こんな所が痛いのって、嫌じゃない?」 「な、に…」 長い髪が太股をかすめ、垂れていたものは、あっという間に蔵馬の口の中に納まった。 「や!ア!何、バカや…ろ…っ」 やめる、わけがない。 ねっとりと舐め上げ、先端を舌先でつつく。 刺激に痛みを感じるのか、口の中のものは、ぶるっと震える。 「痛い…やめ…!」 挿入された器具に傷つけられた穴。 やわらかな粘膜に滲んでいるであろう赤い血を吸い込むかのように、蔵馬は口淫を続ける。 「蔵、くらま…っ!! やめろって…!! 汚い…!」 さっきまで排尿するための管が通されていた場所を、執拗に口で愛撫する蔵馬が、理解できない。 きゅう、と吸われ、ゆるく妖気を流され、尻が跳ねる。 「二日前にも、言ったけど…」 「や、ア、あう、あ…っ」 「貴方は…綺麗だよ…」 「んん、ア、ア、アッ…ん」 「貴方の外も中も、全部、綺麗。貴方の出すものさえ…」 オレにとっては、綺麗だよ。 「…このっ…変態……!! ア、アアアアア…!」 傷ついた場所を流れる熱い流れに、白い背がしなった。 ***
「怒ってる?」「……」 「寝ちゃった?」 「……」 頑なに壁を向き寝たふりをする飛影を、毛布ごと包むように後ろから抱きかかえ、蔵馬は問う。 毛布ごしに抱きしめたって、飛影が眠っているかいないかなど、わかっているのだけれど。 「ごめんね。おやすみ」 キスをひとつ、寝たふりを続ける首筋に落とし、蔵馬は明かりを消す。 腕の中の飛影が、寝たふりから本物の眠りに落ちるのは、あっという間だった。 「…ごめんね、飛影」 二日前と同じように、蔵馬はごめんねと呟く。 たいして悪いとも思っていない口ぶりで。 …本当は、足なんか開かせなくたって、抜けるんだけど。 目を覚ます直前に、一秒もあれば、抜いてあげられたんだけど。 「…ご馳走を逃せないってのは、悪い癖だよねー」 眠る飛影には、その言葉は聞こえない。 悪い者に騙されたとも知らずに、いつの間にやら悪い者の胸に顔をうずめて、ひどく心地良さそうに眠っていた。 ...End. ウロフィリア(尿性愛) 排尿行為や飲尿行為、尿そのものへの性的嗜好。ウロラグニアとも言う。広義には「スカトロジー(英語:Scatology)」や「コプロフィリア(糞便性愛)」に含まれる。英語:Urophilia または Urolagnia |