*K -術前-

返しのついた矢は折れ、飛影の肩から胸へと、大きな矢じりが体内に埋没するように突き刺さっていた。

「だめだな…このまま抜くのは無理だ」

血塗れの寝台。
大量の出血は寝台からぱたぱたと流れ落ち、床をも赤く染めている。

激しく震え、浅く短い呼吸を繰り返す飛影は、自分の傷の上に屈みこむ男を睨んだ。
傷を洗い流し、応急処置に止血だけをした蔵馬は、眉をしかめた。

「返しが付いている。このまま引き抜いても周りの肉をぐちゃぐちゃに壊すだけだよ」
「だったらなんだ?いいからこのまま抜け…っ」

飛影の言葉が聞こえなかったかのように、蔵馬はいくつかの花を、部屋中に咲かせる。

「何を…ぅっあ…して…いる?」

綺麗な水色の大きな花は、あたりに細かな水滴を吐き出し始めた。

「なに、を」
「あまり喋らないで。体力を消耗する。これは消毒。この部屋全体を無菌状態にするから」

青い顔でいぶかしげに見上げる飛影に、蔵馬はやさしく微笑む。

「む、きん…なんの…話…」
「手術して、取り出すよ」
「余計なこと…!」
「人の所へ、大怪我してきたくせに、治療方法に口出ししないでくれないか」

憤る飛影に、蔵馬はサラリと返す。

頭に来て起き上がろうとした飛影だったが、腕を寝台についた瞬間、応急処置しか施されていない傷口から、血がどっと噴き出した。

「…うっあ!! ああ…っ!!」
「大人しくできないなら、縛りつけるよ」

冷たくなった声音に、飛影は舌打ちをすると、諦めたのか、しぶしぶ横になった。

いかにも薬というにおいに部屋はすっかり包まれる。
ほとんどボロ布と化した飛影の服を、蔵馬は丁寧に、それでいて手際よく切り裂き、剥いでいく。
***
白く小さな体を裸にし、傷口のまわりに消毒を施し、蔵馬は鋭く細いナイフをいくつも並べ、奇妙な管を取り出した。

「管、挿れさせてね」
「管……?なん、だ…?…ひっ!!」

長い指が、飛影の陰茎を持ち上げた。

「何…して!はなせ馬鹿!!」

こんな時にさえ性行為をしようというのかと、飛影は困惑する。

「手術の間、管挿れるから」

まったく意味が分からずに、飛影は目を瞬かせる。

「手術の間、この部屋は無菌状態に、つまり清潔な状態にしておかなきゃなんだ」

麻酔をかけるからね。垂れ流されちゃ困るよ。部屋に雑菌が入ってしまう。
だからこの管を穴から挿れて膀胱まで通して、排尿してもらうから。

「な…にを…言って…」
「もう時間がないよ。早く取り出さないと、毒素がまわる」
「待っ、あ、やめっ!! 嫌だ…っ!」
「…大人しくできないなら、縛りつけるってオレ言わなかったっけ?」

相変わらず水滴を吐き出す水色の花の根元から、今度は勢いよく蔦が伸びる。
あっという間に飛影の手足に巻き付き、寝台に括り付けた。

「嫌だ!嫌、よせ蔵馬!い、やだ!!」

飛影の懇願を蔵馬は無視し、左手で持ち上げ、先端の穴がよく見えるように少し上向かす。
綿に染み込ませた消毒液でカリ部分までを綺麗に拭き取り、管を近づけた。

「蔵馬!! やめろ!! 殺すぞ…っ!」
「挿れる時はちょっと痛いよ。力を抜いて」

ピンク色の陰茎の先に、蔵馬は躊躇なく管を挿れた。

「うっあ!痛っう!! っぐ、ア!」
「力抜かないと余計に痛くなるよ。息をゆっくり吸って、吐いて」

経験したことのない痛みに、飛影はハァハァと忙しない呼吸を繰り返し、ますます体を強ばらせる。

「いた、痛、あ、くら…痛い…!」
「まだ全部入ってないよ。我慢して」
「馬鹿、無理…っア、アア、アアアアアアッ!!」

くっ、と、先端が膀胱に侵入するとともに、飛影の陰茎から突きだしている細い管に、液体がさあっと流れ出す。
挿入の痛みに目を潤ませていた飛影は、固く目を閉じ、叫んだ。

「嫌、だ!嫌だ…見るな馬鹿っ…!見るなっ!!」
「どうして?…綺麗だよ」

寝台にぶら下げられた透明の袋に、みるみる液体が溜まっていく。

「いっぱい出るね。おしっこ、我慢してたの?」
「……っ!!」

痛みとは別な意味で、飛影の頬が赤く染まる。

自分の意思とは関係なく、管を通して恥ずべき液体が流れ続ける。
傷の痛み、導尿をされた恥辱と苦痛に、飛影の目から宝石と化す涙が零れ落ちた。

「よしよし、いい子だね」

小さな注射器。
細い注射針が、震える飛影の腕にそっと差しこまれる。

「う……」
「麻酔だよ。ゆっくり眠って」

目覚めたら、手術は終わってるからね。

蔵馬のその言葉を聞き終わるまでもなく、飛影はことりと暗い眠りに落ちた。
***
涙の滲む目元を拭ってやると、蔵馬はいたずらをしでかした子供のような、ばつが悪そうな笑みを浮かべた。

「ごめんね…」

本当は、麻酔をかけてから管を入れても良かったんだけど。
でも、君が痛みや恥ずかしさに悶絶する姿を堪能するチャンスをみすみす見逃すなんて。

「できなくてね…」

クスクス笑う声が、静かな部屋に響く。

「さて、始めますか、ね」

黄金色の液体を通す管。
その管の突き出す、かわいらしい陰茎にキスを一つ落とすと、蔵馬はナイフを構えた。

この管を抜く時の楽しみに、思いをはせながら。


...End.




ウロフィリア(尿性愛)
排尿行為や飲尿行為、尿そのものへの性的嗜好。ウロラグニアとも言う。広義には「スカトロジー(英語:Scatology)」や「コプロフィリア(糞便性愛)」に含まれる。英語:Urophilia または Urolagnia