*cobweb -生徒会室にて-

「……ん……ぁ、っふ……」

教室の半分ほどの大きさのこの部屋。

午後六時。
この階にあるのは音楽室や実験室ばかりで、普通の教室はない。授業のないこの時間は静まりかえっている。グラウンドで部活に励む生徒の声も、三階のここでは遠く聞こえた。
鍵のかけられた生徒会室は暗く、教室と同じ高い天井に、濡れた音だけが響く。

「………んん、ぐ」

髪を引っぱられ、股間に顔を押し付けられる。
口の中のものが喉を突き、えずいた俺を笑う声。

「…ほら、後ろが休んでますよ?」

噛み切ってやりたいという衝動を押し殺し、俺は言われるままに右手で自分の尻をまさぐる。
尻の穴から五センチほど突き出した試験管は冷たく、俺の呼吸に合わせて上下していた。

「……う、あ……っ!」

滑りを良くするために、試験管にはクリームがいつもべったりと塗られてはいる。
抜き差しをしろと命じられてはいたが、痛くて痛くてたまらない。抜き差しどころか入れてるだけでとんでもない苦痛だった。

「…ぁ、はあ…ぅ……」
「君って、一度にひとつのことしかできないの?」
「うっ、ぐう!!」

舌の動きが鈍っていたのに苛ついたのか、またもや髪を引っぱられ、無理やり前後に動かされる。
口の中を動き回る棒が大きく膨らみ、喉の奥に熱いものを噴き出した。

「っう!! げぅ…ゲェ…ッ!!」

呼び出されている日には、昼飯は食わないことにしていた。
どうせ、吐くことになるのだから。

イった瞬間に、男の手は俺を突き飛ばした。
こいつはいつでも、制服を着たままファスナーだけを開け、銜えさせる。吐いたのはわずかな胃液だけだったが、制服を汚されたくなかったのだろう。

突き飛ばされた拍子に尻餅をつき、試験管がグッと奥に押し込まれた。
自分の指を噛み、悲鳴をどうにか抑え込んだが、痛みのあまり体が大きく反った。

「……っ、ふ……うぅ!」

机に座っていた男は、立ち上がり、ズボンのファスナーを上げる。
床でのたうつ俺を見下ろし、足で尻を蹴った。

「……ーーーーっ!!!」

堪え切れずに、涙があふれる。
口の中は、血と胃液のひどい味がした。

「ほら。してあげるから。お尻こっちに向けなよ」

のろのろしていては、また蹴飛ばされる。
なんとか起き上がり、四つん這いになり尻を突き出した。

…死んだ方が、マシだ。
何度そう思ったことだろう。

「…ん…あ……ッア…ッア」

試験管が、動かされる。
血塗れの指を、もう一度噛みしめた。

「…んっ…んっ…んっ」

ぐるぐる回され、にゅぷにゅぷと突かれ、下腹が熱くなる。
両腕の力がぬけ、冷たい床に頬がつく。

「……ーーん、アッ…う!! ……ぁっは!!!」

入り口付近をごりごりと突いた試験管が勢いよく抜かれると同時に、俺はまたもや床を汚していた。
***
「じゃあ、また近いうちに」

シャツもブレザーも着たままで、ネクタイすらも外していないというのに下半身は素っ裸。そんなザマで床に転がる俺に、綺麗な笑みで男は言う。
長い髪を背にはらい、汚れた試験管をそのまま自分の鞄に放りこみながら。

「………くそったれ」
「それはどうも。部屋を片付けておいてくださいね」

学校始まって以来という秀才。見目も良く、スポーツも万能。高校生ともなれば誰もが面倒がる生徒会長という役を、進んで引き受けたのだと聞いた。教師たちの誰もが、こいつの校則違反の長髪すらも咎めることはない。

弱みを握られ、こいつに脅されていると俺が訴えたところで、誰が信じてくれるだろう。

生徒会長サマは綺麗な顔して、舐めろと命じた。
ケツの穴に試験管を入れ、それを使って目の前で射精して見せろと命じた。

そんなこと、誰が信じる?
この真っ赤に腫れたケツの穴を、噛み跡だらけで肉がえぐれた手を、見せたところで誰にも信じてはもらえないだろう。

馬鹿馬鹿しくて、情けなくて、死ぬほど悔しくて、苦い苦い笑いが込み上げる。
いつものように生徒会室のロッカーから雑巾を取り出し、床を汚した胃液と精液をきちんと拭き取った。

今は一月。二年生のあいつが卒業するまで、あと一年と二か月。

脱ぎ捨ててあった下着とズボンを拾い、身に付ける。
ふいにポケットから転がり落ちたのは、持ってきていたカッターナイフだ。

カチカチと音を立て伸びる、頼りなく細い刃。
鈍い銀色のそれを、じっと見つめる。
***
あいつが卒業するまで、
あと一年と二か月。


...End.




サディズム(加虐性愛)
性的虐待や性的暴力を与える性的嗜好。対語は「マゾヒズム(被虐性愛)」、両面性のある場合は「サドマゾヒズム(加虐被虐性愛)」。英語:Sadism