*Nostalgic days

何にこれほど、腹が立つのだろう。
そう考えながら、目の前でのたうつ体を躯は見下ろした。

ちょっと人の過去を知ったくらいで、何もかもをわかったような顔をしたことか?
ガキのくせにえらそうに、対等な立場であるかのようなふるまいをしたことにか?

押さえつけた体が跳ねる。
白い肌は、ちりばめられた赤く小さな痣で飾り立てられている。

ああ、そうか。
わかった。

躯が口の中で小さく呟いた言葉は、無論、飛影には聞こえない。

「……っ」

苦しそうに息を吐くその顔に、躯が微笑んだ。
顔の半分を失っても、綺麗な笑み。
冷たく、硬い笑み。

…こいつは…哀れんだ。
ついさっき、オレを見た、あの赤い瞳。
真っ赤な瞳に一瞬よぎったのは、間違いようのない哀れみだった。

「…ふざけやがって」

あたたかな体内に差し込んだ金属の指を、抉るように動かす。
噛みしめていた唇から漏れたかすかな声に、魔界の女王は目を細めた。
***
機嫌の悪い時の躯様には近づくな。
時雨も麒麟もしょっちゅう飛影に忠告してはいたし、その忠告は的を得ていた。

それでものこのこと近づいたのは、自分なら大丈夫だという飛影のうぬぼれだったのか、十日ほども人間界で過ごした帰りで、すっかり腑抜けて油断していたのか。

息を荒げ、身をよじり、必死で逃げようとしている飛影を、やすやすと躯は組み敷く。
赤く綺麗な痣を、ひとつひとつ丁寧に、尖った爪の先で躯は刺した。痣だった穴は、ひとつずつ律義に血を流す。

着衣のままの躯と、丸裸で血を流す飛影。
それは二人の力の差を、はっきりと示していた。

「思い上がってるんじゃないのか?ん?」
「はな……せ!」

躯の両足は飛影の両足を大きく開かせ押さえつけ、片方の腕だけで飛影の両腕を封じ、金属の指を体内で暴れさせていた。

何の潤滑剤もなく硬い指をねじ込まれたそこは大きく裂け、だらだらと血を流している。
鋭い金属の指にやわらかな臓器を弄くられ、飛影は小さく呻いた。

「筆頭なんて呼ばれて、いい気になったか?」

お前とオレとの力の差を、お前はどうもわかってないんじゃないのか?
筆頭?笑わせるな。雑魚どもの中で、お前は一番上なのさ。まさかオレと同じ土俵に立ったつもりでいたのか?

キスできるほど近くで、躯は優しくそう囁く。

あっという間に手首を縛り上げ、躯は空いた手を小さな体にすべらせる。
胸元から腹部へ伝い、無毛の陰部を探る。

「……っひ!」

そこは人間にとっても妖怪にとっても急所だ。
きつく握りしめられ、飛影が青ざめる。

「狐に散々ここを弄ってもらうんだろう?触ってもらって舐めてもらって、お前は涎を垂らして喜んでるんだろうが」

くすくす笑いながら、躯は握る力を少し緩め、上下に擦る。
性奴隷だった頃の記憶も、経験も、躯は忘れてはいない。忘れることもできずにいた。

引っ張り出した古い記憶をのびやかに使い、痛みと快楽を、目の前の体に同時に与える。
痛みに悲鳴を上げることも、快楽に声を上げることも、どちらもしたくないと飛影は歯を食いしばるが、しなやかな指に力強く扱かれ、金属の指に穴を犯され、大きな瞳は絶え間なく揺れる。

血のにおいの立ちこめる部屋には、金属の指がかきまわす濡れた粘膜が立てる音と、飛影の乱れた息遣いだけが響く。

「どうした?よがれよ、いつもそうしてるんだろう?」
「…き…さま……っ」
「ああそうか。舐めて欲しいのか?」
「…やめ…!!」

大きく広げられた足の真ん中に、躯は顔を寄せた。
ふくらみかけていたそれを銜え、根元から先っぽまで舐め上げる。

「…ぁ、うぁ…」
「こんな小さな粗末なものでも、狐はしゃぶってくれるんだろ?」

怒りに満ちた目も、涙に潤みかけていてはなんの迫力もない。
三本に増やした指でぐちゅぐちゅと穴を広げながら、躯は手と舌と歯を使い、小さなものを追い上げる。

「……ぁぁ」

腰がぐっと上がった瞬間を、躯は見逃さない。
すっと口を離し、手のひらに力を込めた。

「うあああぁぁぁあああ!!!!」

掴んだそれに、握りつぶす寸前まで力をくわえると、ようやく手のひらをほどいてやる。

「……ヒィッ…ア…っぐ」

大きな瞳から溢れた涙が、石になって床に散らばる。
真っ白な顔で口をぱくぱくさせる有り様に、躯は少女のように、屈託なく声を上げて笑う。

「……うう、う、ぐっう」

飛影の白いのどが、くぐもった音を立て上下する。

ひどい痛みに込み上げる吐き気。
それは躯にとっても憶えのあるものだった。限度を超えた痛みは、もはや痛みではなく強烈な吐き気と寒気になるのだ。
音を立てて嘔吐する飛影を見下ろし、かつては自分も見下ろされる側だったと、場違いな懐かしさを味わう。

「ぐっうう、あ、げえっ…」

顔を横に向け、落ち着いて呼吸をすれば息はできるはずなのに、すっかりパニックに陥っているのか、飛影はただもがいている。
魔界で名をはせ、筆頭とまで呼ばれるようになった者が吐瀉物をのどに詰まらせて死ぬというのは、どんなものだろう。
その滑稽さに、躯はまたもやおかしそうに笑う。

血に塗れた指を引き抜き、しずくを切るように手を振る。
たっぷり百は数えてから、手を伸ばし、飛影の汚れた顔を横へ向けてやった。

「……っひあ!ぐ、カハッ!!」

猛烈に咳き込み、打ち上げられた魚のように体を跳ねさせる飛影の腹の上に、どかっと躯は座る。

「…ひ!ぐあ…うぅ、あ」
「汚いガキが」

汗に、涙に、吐瀉物に汚れた顔。
指を抜かれた尻も、脈動に合わせ、血を流し続けている。
手のひらに出されたどろりとしたものを、躯は指ですくい取り、飛影の口にねじ込んだ。

「うっぐ」
「誰がオレの手に出していいと言った?お前が綺麗に舐めろ」

いやいやするように首を振った飛影だったが、長い指は到底振りほどけない。
顎をつかまれ、開けさせらた口の中に、生臭い液を擦り付けられる。

「……げ、うっ!」

再び吐き戻された胃液が、金属の指先をあたたかく包む。
縛り上げられた腕を震わせ、両足を痙攣させるその姿は本当にみっともない。いっそ愛らしいくらいだ。

大きな瞳の大きな瞼が、ひくっと動く。
疲れ果てて眠る幼子のように閉じかけた目は、髪をわしづかみにされ床に叩きつけられた驚きに、大きく見開かれる。

「寝るには早いぞ、飛影」

乱暴に髪を引き、汚れた床の上で四つんばいにさせる。
飛影が状況を理解する間もなく、突き出した尻には、親指も含めて四本の指がめりめりと押し込まれた。

「うあぁぁあ!! ああ!あああああーーーっ!!!!」
「ほらほら、楽しめ。お前は一回くらいじゃ満足できないんだろう?」
「い、いあ、アアアアアッ、く、うああ!!」

従順な部下に運ばせた箱の中を探り、気味悪いほど凹凸のついた太い棒を、躯は取り出す。
乾いたそれを舐め、指で無理やり広げた、血塗れの穴にあてがう。

「本当にお前はかわいいよ、飛影。狐が夢中になるわけだな」
***
冷静沈着、などと称えられるのも困りものだなと、蔵馬は視線をそらす。

白目をむいて泡を吹き、血と吐瀉物と精液に汚れ、ふくらんだ腹をさらして床にひっくり返った体から、目をそらす。
白い尻から突き出したままの、乾いた血がこびりついたひどく醜悪な玩具からも、目をそらす。

「夢幻花、だったか?」

寝具に優雅に腰を下ろし、べとべとと汚れた手を気にするでもなく、躯は煙管に火をつける。嫌なにおいのする部屋に、煙管の香がきつく混ざる。

「…なぜです?記憶を消す必要なんかないでしょう?まさか飛影に嫌われたくないとでも?」

そんな馬鹿馬鹿しいこと、あなたは言いませんよね、どうして夢幻花がいるんです?
精いっぱいの蔵馬の皮肉に、躯は薄い笑みで返す。

「こいつはうちの雑魚どもの中では優秀なんでな。まだ今は失いたくない」
「失う?」

にっこりと、今度は躯は深く笑う。

「オレに復讐しようなんて考えるこいつを、返り討ちで殺されたくはないだろう?」

考える時間を稼ぐかのように、蔵馬は長い髪をかき上げる。
本当は、考える余地などないとわかっている。

意識を取り戻したら、飛影は後先考えず、躯を殺そうとするだろう。
その場合は、躯の言う通り、返り討ちだ。
飛影はあっさりと、始末されるだろう。

煙管を吹かす、形のいい唇。
とてつもなく強く、激しい女。

飛影は躯には勝てない。
自分もまた、躯には勝てない。

あっさりと、蔵馬の中で答えは出た。

花の香りも、今この部屋の中では、胸のむかつくようなにおいにしか感じられない。
甘い香りをたっぷりと飛影が吸い込むのを確認し、蔵馬は飛影を抱き上げ、汚れた玩具をできるだけそっと引き抜く。

腕ほどの太さもある玩具を引き抜けば、どろどろとしたゼリー状のものと一緒に、大きさのさまざまな石のようなものも、弛緩したそこからぼたぼたと排出される。
山ほど詰め込まれたものをすっかり出してしまうと、小さな腹がすとんと凹む。

蔵馬の腕の中で、意識のない体がびくりと動いた。

「とっとと連れて行け。汚らしい。目障りだ」

灰を床へ落とし、煙管の先で躯は扉を指す。
扉の方へと二三歩歩んだ蔵馬が、ふと振り返る。

「…あなたを殺してやりたいって言ったら、どうします?」
「寝ぼけるな、狐」

火のついたままの煙管を寝台に放り、躯は笑みに似た形に唇を歪める。

「百年経っても、千年経っても無理さ。お前にも、飛影にもな」

それは簡潔な真実だった。
だからこそ。

「だからこそ、あなたは…」
「なんだ?狐」

だからこそ寂しい、だからこそ飛影を嬲った、そうなんでしょう?
誰もあなたにかなわないから。誰もあなたに追いつけないから。

誰も、追いつけない。
今のあなたにも、過去のあなたにも。

心の中だけで、蔵馬は呟く。
口に出すほど、愚かでも命知らずでもない。

片腕に飛影を抱きかかえたまま、蔵馬はそっと扉を閉める。

重い扉が閉まる寸前、
金属の指を染めた血を舐める、可憐な少女の姿が見えた。


...End.




アノレクタル(異物肛虐性愛)
肛門や直腸に異物を挿入する性的嗜好。英語:Anorectal